愚者へ贈るセレナーデ

  血みどろの選択




数コールした後にグレンは口を開いた


「真昼…そうだ、俺は柊を裏切る、お前に協力する」


深夜が車のオーディオと自分のスマホを接続し、盗聴が全員に聞こえるようにした


『でもざんねーん、私って結構モテるんだ、クリスマス二日前のお誘いなんて遅すぎるよグレン』

「他に男がいるのか?」

『気になる?』

「いるのか?」

『ふふ、いないけど』


電話している真昼は今学校にいるはずだ

暮人と交戦している


「なら俺に時間をくれ」

『ちゃんと告白してくれるならいいけど』

「なんて?」

『好きだって』

「好きだよ」

『ふふ、知ってるよ、でもそんなんじゃだめー』


聞こえてくる爆発音

暮人はまだ生きているんだろうか


『でも嬉しい、当然この通話は皆に盗聴されてることはわかってるよね』

「ああ」

『つまりグレンは…一瀬家は柊家を裏切るっていう全体表明だよね?』


グレンが拳を握る

彼の返答次第で彼の一族は殺される

真昼と接触するための演技だったと説明しても、それに見合う結果を出さない限り皆殺しにされる


「ああ」


この瞬間、一瀬家は反逆者としての立場が決まった

もう後戻りはできない


『うふふ、大好きグレン、大好きよ
あ、ちなみに今一緒にこの通話を聞いてるグレンの仲間に五士典人くんと十条美十ちゃんもいるわよね?
じゃあ五士家と十条家も柊家への反乱に手を貸すと考えていいの?』


嫌な質問だ

真昼は確認しなくていいことをわざと盗聴している者へ向けて発信している


「それは」

『となると一気に楽になっちゃったなー、すでに二医家、四神家、九鬼家が反乱に賛同してくれてたんだけど
そこに一瀬家、五士家、十条家が加わっちゃった…残った三宮家、六道家、七海家、八卦家はどうする?
まだ百夜教は好待遇を用意してくれているけど…このまま劣勢な柊家への忠誠心を維持してて大丈夫かな?』


この瞬間、グレンとの通話すら真昼が利用したのだと察した

彼女はこのタイミングでグレンが電話をかけてくることを予測していたのだ

美十と典人のスマホが鳴り始める

家からの抗議の電話かもしれない

二医家が裏切ったのは私も見た

でも他は真昼の嘘の可能性もある

つまり柊家はもう誰も信用できない状況を作られてしまったというわけだ

吸血鬼に滅ぼされたはずの百夜教と帝ノ鬼の全面戦争は続いている


「お前に会えるなら俺が五士や十条を説得しよう、どこに行けばお前に会える?」

『今は忙しいのよね』

「なら今どこにいる?」

『秘密、でももうすぐ柊暮人を殺すところだよ』


その言葉にヒュッと息を飲んだ

暮人が殺される、自分はあの場を離れるべきではなかったんじゃないかと


『うふふ、夜空聞いてる?ごめんね、婚約者を殺して
でもこれであなたの枷はなくなるわ、自由に羽ばたいていいのよ』


グレンの視線がこちらへ向けられる

彼と目が合った、落ち着けという意味だろう


「じゃあ、どうしたらお前に会える?」

『そんなに私に逢いたい?暮人を殺したらまた連絡する』

「いつ?」

『今日中、だからグレンそれまで生き残っててね』


通話が切れる

その直後、車の背後に迫る他の車が見えた


「おいおいおいおい!やべえぞこれ!後ろに大勢来てる!!」

「早いね、裏切り者は許さないってさ…出てこい白虎丸」


窓を開けた深夜が鬼呪装備を具現化させた


「敵はどれくらいいる?」

「後ろだけでも二十台くらいいる」


各四人しか乗ってなくても八十人

一般鬼呪じゃない強力な鬼を飼っている者もいるはずだ

苦戦は必須、気を抜けば殺られる、手加減はできない


「…仕方ない…殺すよ、みんないい?」


まだ鳴り続ける美十と典人のスマホ

一度殺してしまえばそれは既成事実になる

真昼はそれを待っている、世界中にあいつらは裏切り者だと拡散するために


「自分だけの問題じゃなくなった、一族や家族が殺される可能性が」

「グレン、その話はもうさっきしたろ、嫌ならとっくに車を停めてる」

「…そうです、どちらにせよやらなきゃ明後日に世界が滅亡するんです、なら…進まなきゃ」


二人は通話を拒否するボタンを押して電源を切った

次にグレンのスマホが鳴る、どうやら花依さんの父親かららしい

通話を盗聴していた帝ノ鬼は帝ノ月にも攻撃を仕掛けている

それについて反撃していいのかという許可を確認しに電話してきたんだろう

グレンは静かに告げた


「やれ」


その言葉と同時に深夜の白虎丸が後続車に向かって発射される

これでまた私たちは反逆者だ





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