秘めたる思い
反逆者となり、ヘリを使って京都までやってきた私たち
案外時間はかからなかったように思う
辺りがまだ朝焼けの薄暗い中、私たちはヘリを降りて歩き始めた
山の中ということもありトイレも野外でする必要があるので女子四人でまとまって木陰に隠れて用を足す
何とも言えない恥ずかしさを覚えながら男子三人の下へ戻ればグレンと目があった
「もう終わったか?」
「デリカシーなさすぎでしょ」
暮人といい、深夜といい、どうしてこうもデリカシーのない男が多いのか
男子が食糧の入った荷物を持ってくれるので私は刀だけ挿して歩く
もうずっと昔だけど柊に来る前は祖父母が田舎に住んでいたのでこういう山の中はよく歩いたっけ
「郊外の街までもうすぐだな、でもその街に入っていいのかどうか」
「まあ、入らないのが賢い選択だよね、一番予測されやすい
ヘリが下りた位置から一番行きやすい街を見つけ、まず目立つ制服を着替えにどこかに立ち寄るだろう…って」
前を歩いていたグレンは少し考え込む
「いや、最短ルートで行く、京都は渋谷とは違う、帝ノ鬼の管理が全てに行き渡ってるわけじゃない
もしも吸血鬼集落がこの地にあるというのが本当なら…」
「なるほど、吸血鬼の話も絡んでくるか…そうだね
ほんとにここに吸血鬼どもの集落があるのなら、帝ノ鬼もこの地域では勝手な行動はできない」
「それは百夜教も同じのはず、つまりこの地では大戦力を投入して俺たちを追うことができない」
少数の追っ手なら今の私たちなら対処できる、そのための鬼呪装備ならここにある
「山の外への出方もそうだが…敵がきた場合のこのメンバーでのフォーメーションも考える必要があるな
おそらく鬼呪の装備を使うとなるとまた新しいフォーメーションがいるだろう」
それを聞いた美十がずいっと前に乗り出した
「いつだってフォーメーションは必要でしょう、だから授業で習う
あなたがあんな怠けた態度を演じずちゃんと授業を受けてくれていればある程度は一言だけでお互い理解が…」
「柊が行っている教育のカリキュラムはもう全部修得してるよ、だから授業を受ける必要はない、そっちの用語を使ってくれていい」
「え」
さらっとそう言ったグレンに美十が驚いた表情になるが、きっと一瀬家の彼は柊の統治する学校へ通うということで幼い頃から厳しく育てられたに違いない
「お前ら帝ノ鬼の言葉で言えば、天火ノ陣の並びと動きを基本にフォーメーションを再構築するのがいいと思うが」
「…天火?」
不思議そうに首を傾げた花依さんと雪見さん
どうやら二人は柊からの授業をまともに受けてなかったらしい
「俺たちのところでは月鬼ノ組と呼ばれるフォーメーションだ」
「「はい」」
前衛二人、後衛三人という配置のフォーメーション
近接戦闘能力が高い前衛二人が敵の攻撃を前で防ぎきり、その間に後衛が呪術で中・遠距離攻撃を放つ
どちらかといえば守り気味に戦う方法だ
「天火か…でも結局それ上野で虎のバケモノと戦ったときのフォーメーションでしょ」
「そうだ」
「だけど今はあの時と状況が違う、全員鬼呪の武器を持っているって状況でお互いにどれくらい力の差があるのかな?」
「ま、出力は俺が一番だったがな」
「あ、てめ、ふざけんな、次は俺が勝つね」
「いやいや、僕も水飲むの足りてなかっただけだから、次は凄いよ」
男子三人だけで盛り上がるその会話に女子で顔を見合わせた
「一体何が凄いんですか?」
「いやこっちの話だ」
「なっ、この期に及んでまだ隠し事ですか」
美十が不満そうな顔をしたのを見た深夜がにやにやと笑う
その顔を見てこの会話がろくでもないものだと察してため息を吐く
「そうだぞグレン!この期に及んで隠し事してたら何も始まらないぞ!」
「あ!そうだそうだ!お前がさっき何の火力が凄くてドヤ顔してたのか、お前の口からちゃんと美十ちゃんに説明しないと駄目だぞ!」
「…こいつら」
たまに冗談を言ったグレンがまんまと墓穴を掘ったと見た
深夜も典人も楽しそうにグレンをいじめている
「ぐ………あー…鬼呪の出力のことだよ、結局武器を使った場合誰が強いかで天火のフォーメーションの位置が変わるって話だ」
「なるほど」
深夜と典人はまだケラケラと笑っているが、グレンは無視している
男子同士とても仲が良いようで微笑ましいけれど美十を巻き込まないでほしい
「ですが月鬼ノ組のフォーメーションでは…」
「あいつらは馬鹿だから混乱する、天火で統一しろ」
雪見さんにそう告げたグレンの言葉を聞いた美十が「ちょっと馬鹿って何ですか!」と食ってかかった
「ねえ、今の状況わかってる?」
呆れ半分でわいわいしている面々に言えば、みんながピタリと動きを止める
今私たちは反逆者、時間もない
わいわい楽しむのはいいことだが脱線しすぎている
「夜空のいう通りだな」
話しながら歩いていたこともあり開けた場所に出る
そろそろ山を出ることになるのでフォーメーションよりも周囲を警戒すべきだ
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