愚者へ贈るセレナーデ

  一人で戦う君へ




戦って戦って

真祖やら斉藤やら百夜教やらで頭がパンクしそうな中必死に刀を振るった

手を止めれば仲間が死んでしまう

そんな私たちはもうどれほど戦ったか


「んもう!こんな時に一体グレンはどこにいるんですか!?」


美十の声が聞こえる

確かにグレンの姿はどこにもない

おかげで陣形はめちゃくちゃ、深夜が前衛に出てきてる始末だ


「外に出てきてないように思います…ね、雪ちゃん」

「ええ」


花依さんと雪見さんの言葉に深夜と顔を見合わせる

グレンが勝手なのはいつものことだけど、どうして出てこないのかは分からない

中に何かあるのか?


「じゃ、一度官舎戻ってグレンに合流か」

「うん、そうしよう」


まずは彼と合流して、それで体勢を整えて

きっと七人なら大丈夫

この地獄のような状況も何とかなる

だって私たちは家族だから

仲間がいればなんだって









官舎に戻った私たちの目に入ったのはグレン

その体から鎖を出す姿に全員が目を見開く


「え…」


何?どういうこと?彼の身に何が起こっている?


「ありゃ一体…」

「なんだそれは!ここで何をやってる!?」


深夜の問いにグレンは答えない

こちらからは彼の表情が見えない


「おいグレン!」


近づこうとした深夜にグレンから出る鎖が一斉に向かう

それを斬り落とすもグレンへは近づけない


「グレン!」


鎖が邪魔だ

どうすべきか分からない

遠くに見える彼の背中を見ていたその時、傍にいる彼女が見えた

灰色の髪に赤い瞳、まるで妖精のように妖艶で目を惹く私の大切な友達がそこにいた


「真昼…っ!?」


「"あれ、私が見えるの?ああそうか…鬼が半分グレンに行ったから"」


私以外の面々にも見えたらしい、深夜が白虎丸を構えた


「グレンに何をしてる!!」

「"秘密"」

「グレンから離れろ!じゃなきゃお前を殺す!!」

「"あは、あなたじゃ私をころせない"」

「殺す!白虎丸!力を!!!」


白虎丸に凄まじいエネルギーが集まっていく


「深夜待っ…!!」

「"鎖よ"」


グレンの体から出る鎖が深夜へ向かう

それを防いだのは美十と典人


「あれは…真昼様か!?」

「柊真昼…生きてたの…?」


驚く二人

そして花依さんと雪見さんから殺気が漏れ出す


「あの女…グレン様!!!」


飛び出した二人

みんなが真昼を殺そうとしている

でも私は動けない、彼女を殺せない


「(動かなきゃ…グレンを助けなきゃ)」


そんな私に真昼が微笑んだ

悲しそうに微笑む彼女に心が揺らぐ


「"ここまでよ、早くグレン、目を…閉じましょう"」


直後、グレンを中心に凄まじい爆風が巻き起こる

それが収まった時、彼の額には角が生えていた


「なんだそれは…グレン…」

「グレン…」

「グレン様!!」


鬼だ、鬼に体を乗っ取られた

目は赤い、歯も鋭い


「みんなグレンを拘束するぞ!!!」


深夜の叫びにハッとする

私も動かなきゃ

そう思い刀を握った


「動くな、潰れろ」


グレンが一言告げると圧を感じた

深夜と私がその場を飛び退くも他の面々は地面に押しつぶされ苦しそうにしている


「みんな!」

「夜空、解呪を!!」


深夜に言われ印を結ぶも、いつのまにか目の前に来ていたグレンが私の指を折った


「あ゛っ…!」

「夜空!!!」

「お前も潰れろ、深夜」


ズンっと深夜が地面に沈む

必死に抵抗する様子に助けなきゃと思うもグレンが私の首を掴んだ


「グレ…」

「…」


彼は何も言わない

赤い瞳が私を冷たく射抜く

直後、グレンから飛び出した鎖が私を貫いた

腹を貫くそれに目を見開く


"夜空!こいつを殺しなさい!!早く!!!!"


劫火桜の焦った声が聞こえる

でも無理だ、私にグレンは殺せない


「ぁ…グ…レ」


震える指先を彼に伸ばす

何と言えばいい?彼はどうして?

何も言えない呪いを受け、彼は真昼と何かを目論んでいる

きっと私たちのために一人戦っている


「好き…だ…よ」


こんな時に言う言葉じゃないことくらいわかる

でも彼がこうまでして前に進むというのなら…

私はみんなのように真昼を殺せない

真昼もグレンも大切で、傷つけられても嫌いになんかなれなくて

指先がグレンに触れる直前で体が投げ飛ばされ地面を転がる

ああ、これはしばらく動けそうにない


「夜空様!!」

「グレンお前!!!」


みんなの声が聞こえる

大丈夫、ちょっと傷を負っただけだ

腹を貫かれても鬼呪の力で少しすればきっと治る


「くそが!!!負けないぞグレン!!!!」


深夜の声が聞こえる

怒ってる、グレンに怒ってる

ごめんね深夜

辛い役目を背負わせて…でも私はそれでも


"本当に馬鹿な子…"


劫火桜の呆れた声を聞きながら意識が暗転した





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