愚者へ贈るセレナーデ

  胡散臭い奴




バステアがフェリドを見据える

彼は第六位、フェリドよりも上位だ


「どうかなあ今日はクローリーくんもいる」

「十三位になにができる」

「ふふふ、確かにそうだねえ
でも僕は可愛げがあるから最近じゃ人間の仲間もたくさんいるんだよ」


フェリドが告げると同時に足音が聞こえた

振り向けばそこにはグレン以外のチームのみんながいる

彼はみんなを連れてきたらしい

仲間の姿にホッとする


「敵陣に一人で深く入りすぎたね、人間をなめすぎだ…あなたは今日死ぬな」

「なめすぎるほどの興味もないけどな、計画は俺は立てない
計画を立てるのはいつも全部リーグ・スターフォード様だ」


それが斉藤のことを示していることは何となく理解できた


「次元槍、開け」


バステアがそう告げると彼の背後の空間が裂けた

まるで別の空間と繋がったようなそれを生み出したのは向こう側にいる人間の仕業だろう


「おっと」

「人間…鬼呪の武器…!」


百夜教には人間もいる

鬼呪をどこで手に入れたかは知らないけれどこれはまずい


「白虎丸!!」


面倒な相手だと判断しすぐに深夜の白虎丸が向かう

しかしそれを槍で防いだそいつに歯を食いしばる

黒鬼の攻撃を防げるのは黒鬼のみ

つまりあの槍も


「黒鬼装備か…!」

「私が出る!」


素性がわからない相手を前に突っ込むのは得策じゃない

それに今は背中を守ってくれるグレンがいない

いつはぐれたのかは知らないし考えている余裕もないのであと回しだ

飛び出した私に興味がないのかバステアは次元の向こう側に消えた

けれど代わりに百夜教の人間がこちらに残る

そいつに斬りかかるとその攻撃を器用に槍でいなされた


「(こいつ…戦い慣れてる…!)」


槍のリーチを活かして距離を取ってくるようなら一気に攻め込むのに次元を裂くその特殊能力のせいで距離感がバグる

劫火桜はあの雷鳴鬼と斬り合えるほどの刀だ、それがこんなにいなされるのは私が扱いきれていないせい

深夜の援護があるのに何だこのザマは

背後から向かってくる白虎丸の気配に身を屈めるも、そいつはまた空間を切り裂く


「え、うわ!」


近くで聞こえた声に目を向けるとどうやら空間の裂け目の向こう側にいたクローリーに当たったらしい

白虎丸の攻撃は吸血鬼には痛いだろう

と、その時百夜教の兵士たちが続々と壁の縁に手をかけ登ってきた

これ以上人数が増えるのはいよいよまずい

そう焦った私たちの前にいた兵士が一掃された

クローリーがやってくれたらしい、先ほど白虎丸の攻撃が当たったことに若干苛ついてるようにも見えるので口角が引き攣る

仲間がやられたことに焦ったのか槍男が突っ込んできた


「どうした柊夜空!こんなものか!」


攻め込んできた槍男に舌打ちをする

こうなったら私の得意分野に持ち込んでやる

腰のポーチに入れていた呪符を取り出すと、私の動きに反応した相手も呪符を取り出す


「「起爆!!!!」」


瞬間凄まじい爆発が巻き起こる

男が着地し構える前に印を結んだ


「捕縛!」


男の足元を拘束するように地面から鎖が生えその場に留める

生憎こっちは元々呪術の方が剣術より得意だ

私のことを調べているようだったけれど九年前から剣術メインに移行したのでそれ以降のことしか調べてなかったんだろう


「なっ!?」


解呪しようとしているが私の呪術が破れると思わないでほしい

できるとすれば真昼だけだろう、それほどまでに私はこれを磨いた…そして柊に買われた

拘束した槍男に斬りかかろうとするも、私より速くフェリドが槍男の頭を鷲掴みにし投げ飛ばした

凄まじい勢いで壁に叩きつけられた男は意識を失っている様子

呆気にとられているとフェリドがくるりとこちらを向いて微笑む


「おっと死ぬなよ、君たち便利な武器と術持ってるんだからさ」

「うわー、あっさり倒すなぁ…」

「ほんと…なにこの屈辱感」


深夜と二人がかりでやっとの相手をほんの一撃でやっつけてしまったフェリドに呆れた目を向ける

すると彼がずいっと寄ってきた、いつもの嫌な笑みを浮かべている

ああ、これは嫌な予感がする


「ちなみに助けてあげたお礼はないの?」

「「へ?」」


深夜と顔を見合わせるも確かに今はフェリドに助けられたようなものだ

クローリーもいなければ私たちはまずかっただろう


「あー…えと…ありがとう」


渋々お礼を言えばフェリドがけらけらと笑った


「いやいや礼には及ばないよ、仲間だから当然さー」

「自分がお礼しろって言ったんじゃん」

「やっぱ嫌いなんだけど」


本当にいけ好かないなと睨むも、私と深夜の肩を組んで馴れ馴れしく引き寄せたフェリドはニヤっと怪しく笑った


「でもそんなにお礼したいならちょっと僕に従ってよ、君狙撃が得意なんだろ?んで君も呪術がかなり得意だ
ちょっと教は僕より全然強いやつをぶっ飛ばさないといけないからさー、大変なんだよねー」


あははと笑うフェリドの向こう側の深夜が諦めたような顔をするので私も抵抗をやめる

少しだけ、ほんの少しだけ従ってやろうと決意した、こいつは嫌いだけれど





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