愚者へ贈るセレナーデ

  仲間のためなら




大阪にたどり着いた

ここはフェリドの屋敷だ


「ここどこ?」


車から降りて首を傾げる仲間たち


「見りゃわかるだろ、お化け屋敷だ」


そう告げた俺は全員が傍に寄るのを待った


「うはぁ…なにこれ、映画撮れそうな典型的な洋館だな」

「庭園が手入れされている…誰かが管理してますね」

「でも大阪は吸血鬼にも放置されて、こんな館を維持できるような人間はいなかったはず…」

「で?」


ここに何があるのかと深夜が俺に問う

それに答えるわけでもなく刀の柄に触れた


「真昼」


次の瞬間、夜空と深夜以外のメンバーが真昼の力で気絶させられた

やっぱりあの二人は気がついたかを目で追うと、劫火桜を抜いていた夜空がこちらを睨みつけている


「…どういうつもり?」


深夜も白虎丸でこちらを狙っていた

真昼がふわりと俺の隣に浮かぶ


"ふふ、白虎丸も劫火桜も本気で殺しにくるわよ"

「お前のせいだろ、余計なことをあいつらの鬼に言うから…」

"あ…来る、勝てる?深夜も夜空も強い
二対一だから相手の方が有利"


二人とも俺を止めるつもりなのか本気でかかってくるらしい


「ったく、なんでもお前の思い通りになると思うなよグレン」

「そうだよ、ナメるのも大概にして」


ああ、こいつらと戦うのはいつぶりだろうな

高校の頃はこんなことばかりだったなと懐かしむ


「勝たなきゃあいつらを救えない…だから俺は勝つ」


刀を抜いた俺に真昼が笑った


"ああ、高校以来ね
私の恋人と許婚が私を巡ってまた争う"

「違う、夜空もいんだろ」

"まあそうね、でも勝った方と寝てあげるから頑張って"

「うるさい死ね」

"好きなくせにー"


けらけらと笑う真昼が邪魔をしないよう宙に浮いた


「行くぞ白虎丸、ズドン」


向かってくる白虎丸

それと同時に夜空も飛び出してくる

こいつらの連携が息がぴったりだ、互いを信頼しているのも伝わってくる

夜空と刀を交えるがここ数日食事を摂っていなかったせいかあまり力が乗っていない

それに雑念もあるように見える、正直いつもより弱く感じた


「らしくねぇな」

「っ!」


夜空の不意を突いて刀ごと押し、体勢を崩させた隙に抜けた

向かう先は深夜だ


「深夜!!」

「くそ!」


距離を詰められたことに焦る深夜


「遅え!!!」


もう俺の間合いだ

深夜を峰打ちで斬った…が、それはどうやら幻術だったらしい

俺に抜かれた直後に夜空が展開したと見た

相変わらずこいつの呪術スキルは半端がない


「残念、夜空の呪術を見落としてたね」


幻術ではない深夜本体が俺に起爆符を貼り付ける


「起爆」

「お前も喰らえ」


爆発する前に深夜を掴み巻き添えにしてやった

爆発で互いが武器を手放し、煙が晴れる前に殴り合いへ発展した

別に避けれた、でも俺は深夜の拳を受けた

仲間を思うこいつらの気持ちは分かっている

でも、それでも…俺は…お前たちを救いたい

倒れ込んだ深夜を見下ろし呼吸を整える


「終わりだ」

「うえー…負けかよ」

「距離を取ったまま戦うべきだった、近接タイプの俺に遠距離装備のお前が勝てるはずがない」

「まあそーだね」

「なんで近づいた?」


その問いに深夜が少し黙ってから笑った


「君こそ僕の拳わざと喰らってたでしょ?よけれたはず…何で?」


バレてたかと思うもここくらい本当のことを話したい


「…秘密ばっかりの俺をぶん殴りたいだろう?」

「は、ははは…まったく、いいよ殴れ
また僕に秘密があるんだろ?気絶してやる」


目を閉じた深夜に馬乗りになった


「悪いな」

「ほんとだよもう…いっつも君が悪い」


深夜を強めに殴り気絶させる

心が痛い

でもここでやめるわけにいかない

だから夜空を見た、もう既に刀を仕舞っているようで敵意は見られない


「お前も戦るか?」

「いや、いい…深夜が納得してるならそれでいいよ」

「本当に深夜が好きだな」


深夜のことばかりな夜空に面白くないと感じたが、どの口が言うんだと自己嫌悪した


「私の大切な友達だもん」

「…は、そうかよ」


無抵抗の夜空に近づけば殴られると思ったのか強く目を瞑っていた

深夜から聞いたが夜空は暮人に殴られたらしい、それも何度も

そのせいか俺にも怯えがあるように見えた


「(いや、違うな)」


軟禁されているこいつに無理矢理迫ったせいだ

暮人は関係ない、夜空が俺を怖がってもそれは自業自得だ

術をかけ意識を失った夜空が倒れ込む

その体を抱えそっと地面に下ろした


「ごめんな」


本当はもっとお前にちゃんと話したい

でも話したらお前たちは消えてしまう

俺はそれが耐えられない


"ねえグレン、なんでみんなをここに連れてきたの?
他にやりようがあった、秘密がある素振りだって必要ないはず
知ったら夜空たちは消滅する、その危険は取るべきじゃないでしょ…なんでこんなことしたの?"


真昼が地面に横たわる夜空を見つめながら告げる

だが俺はそれに答えず屋敷へ向かった


"…もう限界なのね、心がもたない…大切な仲間に秘密や弱さを話さないとあなたは完全な鬼になる…だから話した
薬でも抑えきれない、理想と違う行動をしなければあなたは完全な鬼に…"

「黙れ鬼」


その通りだ、俺はもう限界まで来ている

でも肯定するつもりはない

俺は仲間を救うためにまだやることがある


"…消えてほしければ消せる、なぜ消さないの?"


真昼のいつものように揶揄う声が聞こえた





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