愚者へ贈るセレナーデ

  秘密が増える




たどり着いた大阪、そこにあるとある洋館の前で車が停まった


「ここどこ?」


車から降りて首を傾げる一同


「見りゃわかるだろ、お化け屋敷だ」

「うはぁ…なにこれ、映画撮れそうな典型的な洋館だな」


立派な外見のそれは世界崩壊前にとてもお金持ちが住んでいたんだろうと分かるような広さを誇っている


「庭園が手入れされている…誰かが管理してますね」

「でも大阪は吸血鬼にも放置されて、こんな館を維持できるような人間はいなかったはず…」

「で?」


ここに何があるのかと深夜がグレンに問う

その質問の返答を待っていると刀に触れたグレンが口を開いた


「真昼」


その言葉に私と深夜が目を見開く

他のメンバーは聞き取れなかったらしい、だからグレンの攻撃を避けられなかった


ばたばたと倒れる深夜以外のメンバー

みんなグレンの鬼にやられたんだろう、意識を失っているようだけれど怪我はない


「…どういうつもり?」


劫火桜を抜いていた私はグレンを睨みつける

同じように白虎丸を構えていた深夜もグレンに照準を合わせていた


"夜空"

「なに」

"一瀬グレンを殺しなさい"

「…は?」


劫火桜の言い分に一瞬息が止まった

深夜も鬼と対話しているようだ

彼の鬼もグレンを殺せと囁くのか


"このままだとあなたも破滅する、一瀬グレンはもう信用できない
見たでしょう、何人も殺された…きっと仲間もあの男は殺…"

「うるさい」


邪念を払うように劫火桜を消してから深夜と目配せした

どうやら彼も同じ意見らしい


「ったく、なんでもお前の思い通りになると思うなよグレン」

「そうだよ、ナメるのも大概にして」


二人でグレンを止める

このまま負けてやるわけにはいかない


「行くぞ白虎丸、ズドン」


深夜の援護の下グレンと斬り合う

刀を交える度に彼との思い出が蘇って心が痛い

食事を摂っていなかったツケが回ってきたのかもしれない、力が入らず押されてしまう


「らしくねぇな」

「っ!」


グレンが私の不意を突いて抜けた

まずい、後方には深夜がいる


「深夜!!」

「くそ!」

「遅え!!!」


中遠距離向きの深夜は近距離では分が悪い

深夜を峰打ちで叩き斬ったグレン、でも今斬った深夜は幻術だ

抜かれた瞬間に咄嗟に展開した幻術だったけれどグレンを騙すことに成功したようでホッとする


「残念、夜空の呪術を見落としてたね」


深夜が起爆符をグレンに貼り付けた


「起爆」


だがグレンは爆破の直前に深夜を掴んだ


「お前も喰らえ」


凄まじい爆発が起こり二人が巻き込まれた

煙が晴れ、見えた二人は殴り合っている

援護しようとするも、深夜が私を制した

深夜がこんな風に必死なのはグレンだからだ

私たちはそれだけグレンを大切に思ってる


「終わりだ」

「うえー…負けかよ」


殴り合いで負けた深夜が地面を転がる

立ったまま自分を見下ろすグレンを見上げため息を吐いた


「距離を取ったまま戦うべきだった、近接タイプの俺に遠距離装備のお前が勝てるはずがない」

「まあそーだね」

「なんで近づいた?」


その問いに深夜が少し黙ってから笑った


「君こそ僕の拳わざと喰らってたでしょ?よけれたはず…何で?」

「…秘密ばっかりの俺をぶん殴りたいだろう?」

「は、ははは…まったく、いいよ殴れ
また僕に秘密があるんだろ?気絶してやる」


目を閉じた深夜にグレンが馬乗りになる

男の子の友情というものはよくわからない

でもこうやってぶつかり合うことで分かるものもあるのかもしれない


「悪いな」

「ほんとだよもう…いっつも君が悪い」


ゴッと殴られた深夜が気絶する

グレンの目がこちらに向いた


「お前も戦るか?」

「いや、いい…深夜が納得してるならそれでいいよ」

「本当に深夜が好きだな」


呆れたようにそう言ったグレンに今更何を言ってるんだと首を傾げる


「私の大切な友達だもん」

「…は、そうかよ」


近づいたグレンが私の額に触れる

てっきり深夜同様に殴られると思ったのに術をかけてくれるらしい

脳に直接かけられたそれで意識が遠のく

グレンより私の方が呪術の力はある

抵抗しようと思えばできるのにしないのはどうせ彼が私には何も話さないとわかっているからに他ならない

薄れゆく意識の中、グレンの「ごめんな」という声が聞こえた気がする

…ほんと馬鹿、謝るくらいなら頼ってよ





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