まるで天使
目の前でもめる一瀬グレンと十条さん
そんな二人の様子を暇つぶしに眺める私
「で?」
「なんですか?」
「お前の方が俺に声をかけてきたんだろう?何の用だ?ナンパか?」
「ナン…そんなわけないでしょう!私が聞きたかったのは柊深夜様のことです
さきほどあなたは深夜様と何か話し込まれていたように見えましたが、一体何の話をしていたのですか?」
チラッと一瀬グレンがこちらを一瞥したので先ほど教室で私が術を展開したことはバレているんだろう
並大抵の者は気がつけないというのにやっぱり彼は実力を隠している
「特に大した話はしてないぞ」
「嘘ですね、かなり親密に話していたように見えました」
「どんだけじろじろ見てんだよ」
「いいから話しなさい、一体深夜様と何の話をしていたのですか?」
私がこの会話を聞いていることに気づいている一瀬グレンがなんと答えるのか楽しみに言葉を待っていると、ため息を吐いた彼はうんざりしたような表情をした
「ってか、ほんと聞いても仕方ないことだぞ?ほんとに聞きたいのか?」
「聞かせなさい」
「あー…ってか、年頃の男たちが話すことといや一つだと思うが」
「それは何ですか?」
「女の話だよ、クラスで可愛いのは誰かって、で深夜はお前のこと可愛いって言ってたぞ?今夜誘おうかなって」
とんだ嘘つきだと一瀬グレンを見る目を細める
柊家をぶっ壊そうとか話していたのに何が女の話だ
それに嘘で女の子を転がすのはよくない、私の中で一瀬グレンの評価は急降下していく
「は!?え…!?え、え、そそそ、そんな嘘でしょう?そんな、いけません…し、深夜様には真昼様が…
それに柊家の方とそういう関係になるのは私たち従家の人間は禁じられております
ですから貴方からも困りますと深夜様にお伝えくださいませんか?
それに私は真昼様のことを深く敬愛しておりますので、今日のこのお話は聞かなかったことにしたいと、そう深夜様に…」
「あ?お前真昼と知り合いなのか?」
真昼の名前に反応した一瀬グレンに思わず彼の背中を見つめる
彼は今も真昼のことが好きなんだろうか
もしそうなら真昼のことを迎えにいってあげてほしい、ずっと王子様を待ち続けるお姫様の下へ
「一瀬如きの人間が真昼様を呼び捨てにするとは許しませんよ!」
「あー…ええと、真昼様とお前は知り合いなのか?」
十条さんは再び自慢げな表情になってから嬉しそうに頷く
「真昼様は本当にお綺麗で、それでいて従家の人間にもわけへだてなく優しく接してくださる女神のようなお方ですから」
「ほー」
「おまけに文武に秀で、この学校の入学試験も全教科トップで通過されたと聞いております
我ら帝ノ鬼に所属する者たちにとって真昼様に仕えられるということは幸せの極みですわ」
「聞いておいてあれだが、お前それをこいつの前でよく言えるな」
こちらを指差した一瀬グレン
ようやく十条さんは私に気がついたようで、大きな目を更に丸くした後で慌てた様子を見せた
「夜空様!いつからこちらに…?!」
「ああ、気にしないで、今きたところだから」
あまりにも騙されやすい十条さんが不憫で嘘をつく
先ほどの校長の話を遮ったこと、深夜の件、真昼への敬愛の件などあまり聞かれたくないことはある
私が暮人の婚約者であることは周知の事実だからそのことも込みで青ざめているんだろう
彼女の心境を察して安心させるように微笑むと、十条さんが頬を朱に染める
十条さんでも気づいていない術に一瀬グレンは気づいていた
つまり彼の力はあの十条家以上ということだ、暮人風に言うなら柊にとって十分な脅威だろう
『長くなりましたが私からの話は終わりです、では次は新入生代表からの挨拶に移りましょう
今年の新入生代表は満場一致で決まりました、あの柊家のご息女をこの学校に迎え入れることができたことを光栄に思います
それでは柊真昼様、ご挨拶お願いいたします』
校長の言葉と共に舞台袖から現れたのは正真正銘の真昼
最後に会ったのは五年ほど前だったっけ
シノアが生まれ暫くしてから彼女は急に姿を潜めた
暮人も言及することはなかったので当主争いが激化しているんだと思っていたけど元気そうで一安心だ
『ご紹介ありがとうございます、柊真昼です
今日は新入生代表としてご挨拶させていただきます、よろしくお願いします』
あの頃と変わらない可愛らしい声に人を魅了する容姿
変わったのは真昼との距離感のみ
柊家に来て真昼や深夜との時間は好きだったからこの五年は寂しかった
深夜とは時々会話していたけれど彼も真昼とはあまり会っていないと言っており心配だった
「(また前みたいに話せるかな)」
壇上の彼女はとても綺麗で、まるで人間ではないように思えてしまう
柊真昼という存在は私も、目の前の一瀬グレンも、深夜も、暮人も…全てに影響を及ぼす
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