ヒロアカanother story


▼ はじめまして



お母さんと同じ羽を持って生まれた私は異形型という個性らしい
常時発動型のそれは物珍しいからと色んな人に声をかけられる
みんながみんないい人ばかりじゃないんだよとお母さんから言われてるけど、いつもお母さんかお父さんと一緒だから大丈夫だと思う

「唄ちゃん、明日から幼稚園に通うのよぉ」

「幼稚園?」

何それと首を傾げる私にお母さんはにっこりと微笑んだ

「お友達が沢山いるところよ」

「お友達…?」





翌日、よく分かっていない私はお母さんに連れられやって来た幼稚園で絶句する
どこを見ても知らない人だらけで、今までずっとお母さんかお父さんと一緒だったのになんとここでは一人になるらしい

「お母さんやだあああ!!!」

びえーんと泣きじゃくる私に困ったような表情を浮かべるお母さん
幼稚園の先生に抱き抱えられる私は必死にお母さんへ手を伸ばすけれど、先生は慣れっこなのか私を抱く手を緩めない
その後結局幼稚園というところに置いて行かれた私は教室の隅っこでお気に入りのぬいぐるみを抱え縮こまっていた

「ほら唄ちゃん、みんなと一緒にお絵描きしよう」

先生が声をかけるけれどぶるぶると首を横に振って頑なにその場から動かない
次の日も、その次の日も幼稚園に連れて行かれては泣いてを繰り返す

「かえりたいよ…」

また泣きそうになってそう呟くと、突然腕の中のぬいぐるみが引っこぬかれた感覚がしてバッと顔を上げる
そこにいたのは自分と同じ服を着ている男の子達

「何だこれ?」

「こいつずっとここにいるぜ」

「か、返して…!」

仕事が忙しいお父さんが寂しくないようにって買ってくれた大切なぬいぐるみ
返してほしいと懇願するけれど男の子たちは私の背中の羽に目がいったようでぬいぐるみをポイッと放り投げてしまった

「あ!」

拾いにいこうとする私、しかしそれよりも早く男の子の1人が私の羽をぐしゃりと掴んだ

「おまえの個性?」

「知ってる、異形型って言うんだぜ」

「羽だ!飛べんの?」

純粋な興味だけで悪気なんてないんだろう
だけど私の羽は痛覚こそないものの、一定以上は体から離れないように浮いている
引っ張られれば私も動けないのでぬいぐるみを拾いに行くこともできなくてじたばたすることしかできない

「は、放してよ!!」

どうしてこんなことするの?
前にお母さんが言ってた悪い人ってこの子たちのこと?
悲しくて悲しくて大声を出した私に男の子たちが顔を顰めた

「なんだよ見てるだけじゃんか!」

「そーだそーだ!」

その内の1人が私の態度を気に入らなかったようで拳を振り上げる
その拳を見て叩かれると思ってギュッと目を閉じ痛みを覚悟した…しかし一向に痛みはやってこない
恐る恐る目を開ければそこには私の前に立っている1人の男の子がいた

「お前ら、女イジメてダッセー」

「は、はあ?!お前にはかんけーねえじゃん!」

「うっせー!」

おりゃあと取っ組み合いの喧嘩を始めたその子たちにポカンとしていると、私の前にぬいぐるみが差し出された
顔を上げればそこには緑色のモジャモジャの髪の毛の男の子が心配そうに私を見ている

「大丈夫?これキミのだよね?」

「あ…ありがとう…」

ぬいぐるみを受け取ってぎゅっと抱きしめれば安堵のせいで涙が滲んできた
寂しくて、怖くて、情けなくて、いろんな感情がごちゃまぜになってぼろぼろと涙が溢れる

「え!あ、ちょ…泣かないで…?」

「お前もイジメてんのか?!」

「ち、ちがうよかっちゃん!」

喧嘩をしていたはずのツンツン頭の男の子がキッとこちらを見て近づいてきたので緑色の髪の男の子が慌てて首を横に振った
ツンツン髪の男の子は声も大きくて何というかすごく怖い
反対にモジャモジャ髪の男の子はおどおどしていて親近感がある

「お前名前は?」

目の前までやってきたツンツン髪の男の子が私を覗き込む
怖いけど答えないと自分もさっきの子たちのように喧嘩に持ち込まれるかもしれないので恐る恐る口を開いた

「…唄…舞羽唄」

「フーン、声ちっせーな」

ぶっきらぼうな物言いにしょんぼりしてると、ツンツン頭の男の子がニッと笑った

「俺は爆豪勝己、こいつはデク」

「その呼び方やめてよかっちゃん…緑谷出久だよ」

さっきまでの男の子たちと違って嫌な事をしてこない2人に戸惑っていると、先生が外で遊ぼうと言ったのでみんな一斉に校庭へ駆けていく
私はまだ外に出たことがないのでおろおろしていたら、私の両手を2人がそれぞれ握った

「行こうぜ」

「一緒に行こう」

2人にとっては何気ないことだったのかもしれない
でも私は2人の優しさが嬉しくて、幼稚園に来てから初めて口角が上がって笑った気がする

その日は嬉しくて嬉しくて、お迎えに来てくれたお母さんに2人の話をした

「あのねあのね!お友達できたよ!」

「まあ!よかったわねぇ」

「うん!かっちゃんといずくんって言うの!」

私を守ってくれたことがきっかけで始まった友情関係
今日あったことを話す私のことをお母さんは嬉しそうに見つめていた

この2人との関係がこれから先もずっと続いていくんだけれど、それはまた別のお話








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