ヒロアカsong


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仮免試験の日の晩

寝付けなくて共同スペースにある大きい冷蔵庫に入れたままのフルーツをとりに行った
その時たまたま寮を出ていく出久を見かけて様子を見れば勝己と2人でどこかへ向かっていく
少し躊躇ったがバレないように着いていくことにした

先頭を歩く勝己、その後をついていく出久
女だからと仲間に入れてもらえなかった私

あの頃と変わらないような光景に下唇を噛んだ
辿り着いたのはグラウンドβ

「初めての戦闘訓練でてめェと戦って負けた場所だ、ずっと気色悪かったんだよ
しまいにゃ仮免てめえは受かって俺は落ちた、なんだこりゃあ?なあ?」

「それは実力ってよりも…」

「黙って聞いてろクソカスが!!」

「ごめん…!」

苛立っている勝己
原因は今日の仮免試験だろうか
物影に隠れて様子を窺う

「ずっと気色悪くてムカツイてたぜ、けどなァ…神野の一件でなんとなく察しがついた
ずっと考えてた、オールマイトから貰ったんだろその個性」

頭を殴られたような衝撃が走った
個性の譲渡?そんな話きいたことない
それにオールマイトから?

けれど勝己は冷静に話し始めた

「ヴィランのボスヤロー、あいつは人の個性をパクって使ったり与えたりするそうだ信じられねえが
ネコババアの1人が個性の消失で活動中止したこと、脳無とかいうカス共の個性複数持ちから考えて…信憑性は高ぇ
オールマイトとボスヤローには面識があった、個性の移動っつーのが現実で、オールマイトはそいつと関わりがあって、てめェの"人から授かった"っつー発言と結びついた
オールマイトと会っててめェが変わってオールマイトは力を失った…てめェだけが違う受け取り方をした
オールマイトは答えちゃくんなかった、だからてめェに聞く」

何も言わない出久
流石にこれを否定しないのはおかしい
そう思って2人に近づく

「え…待って…オールマイトから個性をもらった…?」

出久はずっと無個性だったはずなのに気がつけば個性が発現していた
理由なんてわからないけれどそれが嬉しかったんだ
一緒にヒーローを目指せることが嬉しかった

「唄、てめェは口出しすんな
それに否定しねェってこたァ…そういうことだな、クソが」

「聞いて…どうするの…?」

「てめェも俺もオールマイトに憧れた、なァそうなんだよ
ずっと石コロと思ってた奴がさァ、知らん間に憧れた人間に認められて…だからよ、戦えやここで今」

それを聞いてギョッとする

「何で!?ええ!?待ってよ何でそうなるの!?
いや…マズいってここにいること自体ダメなんだし!!
せめて…戦うっても自主練とかでトッ…トレーニング室借りてやるべきだよ!
今じゃなきゃダメな理由もないでしょ!!」

「そうだよ!何も戦わなくても」

そう言った私に衝撃が走り、体が後ろに倒れた
尻餅をついて呆気にとられている私を見下ろす勝己の目は本気だ

「黙ってろっつっただろ」

「っ…!?」

「唄ちゃん?!」

駆け寄ってこようとした出久を止め、勝己は続きを話し始める

「本気でやると止められんだろーが、てめェの何がオールマイトにそこまでさせたのか確かめさせろ
てめェの憧れの方が正しいってンなら、じゃあ俺の憧れは間違ってたのかよ」

「…かっちゃん…」

オールマイトの勝つ姿に憧れた俺とオールマイトの救ける姿に憧れた出久
どっちも正しい、それなのにどうしてどちらかなんて決めつけるのか

「怪我したくなきゃ構えろ、蹴りメインに移行したんだってな?」

「待ってって!こんなのダメだ!!」

「勝己!待って!!!」

私の静止など聞こえなかったかのように勝己は飛び出した

「かっちゃん!!!」

出久に放った爆破、何の手加減もないそれにゾッとする

「深読みするよなてめェはァ…来いや!!」

「マジでか…!かっちゃん…」

「やめてよ!こんなこと!!」

どうして仲良くしてくれないんだろう
私はまた3人で笑っていたいだけなのにどうして

「待ってって!本当に戦わなきゃいけないの!?
間違ってるわけないじゃないか!君の憧れが間違ってるなんて誰も」

話の途中でも構わず爆破していく勝己
聞く耳は持たないらしい

「待ってってば…!」

「逃げんな!!!戦え!!!」

勝己の攻撃を受けつつも反撃に出た出久
勝己は着地に失敗してその場に転けた

「って…!」

「だ…大丈…」

「俺を心配すんじゃねえ!!戦えよ!!何なんだよ!何で!!
何で!!ずっと後ろにいた奴の背中を追うようになっちまった!!
クソザコのてめェが力をつけて…オールマイトに認められて…強くなってんのに!
なのに何で俺はっ…俺は………オールマイトを終わらせちまってんだ!!!」

勝己のその叫びに、涙に…指先が震えた

「俺が強くてヴィランに攫われなんかしなけりゃあんな事になってなかった!
オールマイトが秘密にしようとしてた…誰にも言えなかった!
考えねえようにしてても…フとした瞬間湧いて来やがる!どうすりゃいいかわかんねんだよ!!!」

ずっと気にしてたんだ
何もないフリをしてずっと

「(気がつけなかった)」

自分のことばかりで何も見えてなかった
その事に後悔するけれどもう遅い
一度爆発した感情はそう簡単には鎮まらないのだから

「丁度いい…シュートスタイルが君に通用するかどうか…やるなら全力だ!!
サンドバッグになるつもりはないぞ、かっちゃん!」

「出久まで…」

臨戦態勢に入った出久に益々手がつけられなくなった

「やめてよ!どうして仲良くしてくれないの!」

「黙れ!元はと言えばテメーがクソナードにつくからだろーが!!」

「っ、私は2人の味方だよ!!」

「それが気に入らねぇんだよ!選べや!俺か!こいつかァ!」

それを聞いて言葉に詰まった

「(選ぶ?どちらかを?何で…だって2人は私の大切な…)」

その間も続く攻防、何かを企む出久に勝己は叫ぶ

「そういうのが気色悪かったんだ!何考えてるかわからねえ!
どんだけぶっ叩いても張り付いて来やがって!何もねえ野郎だったくせに!俯瞰したような目で!見て来やがって!!
まるで全部見下ろしてるような本気で俺を追い抜いていくつもりのその態度が目障りなんだよ!!」

「そんな風に思ってたのか…そりゃ普通は…バカにされ続けたら関わりたくなくなると思うよ…
でも今言ってたように何もなかったからこそ…嫌なところと同じくらい君の凄さが鮮烈だったんだよ
僕にないものを沢山持ってた君はオールマイトより身近な"凄い人"だったんだ!!だからずっと…君を追いかけていたんだ!!」

勝己よりも速かったその動きに驚いていると出久がこちらを向いた

「…僕は唄ちゃんの事が好きだよ」

「…え?」

「ずっと好きだった…」

聞き間違いだろうか
出久のその言葉に時が止まったような感覚になる

「デク…テメェ!!!」

「かっちゃんには関係ないだろ」

勝己の本気の爆破で同時に吹き飛ばされる2人

「こんなもんかよ!!」

「はああああ!!?」

ボロボロになって、それでもやめてくれない大切な2人に涙が溢れる

"あのね、唄ちゃんは僕のヒーローだよ!"

"次は守るから…俺が唄を守るから"

私の憧れ、隣に並び立ちたい2人

「もうやめてぇえええ!!!!」

突進して跳び上がった出久
蹴りが来ると予想し左腕をガードをまま右手の爆破で飛んだ勝己

「使えないとは言ってない!」

しかし出久の拳が勝己の右頬に入った

「敗けるかああああ!!!!」

勝己は殴られつつも右腕で出久を掴み上げる

「あ゛あああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

体勢を変え、地面に向かって押し付けるように爆破した
煙が視界を覆う

晴れた時、そこにいたのは腕も足も押さえつけられている出久

「俺の勝ちだ」

荒い呼吸を繰り返しながらそう言った勝己に涙がもう一粒こぼれ落ちた










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