第12話

ゴーグルとネックウォーマーを装着して、読書中の恭弥に声をかける。

「散歩行ってくるね」
「うん」
「あんまり遅くならないようにしまーす」

そう言い残して、マンションのベランダに足をかける。
最近は夜、恭弥の家で過ごすことが多いが、こうしてたまに気分転換でエアトレックで出かける。
特に用はないけれど、空を駆けるのか楽しいのだ。

恭弥もそれを知っているからか、咎める事はしない。
自由に飛び回っている私は、小鳥みたいで微笑ましいらしい。

秋になって、夜の空気が澄み始めている。
季節の移り変わりや空気の違いに敏感になったのも散歩のおかげだ。

風を切ってトリックを自由に決めながら、上へ上へと駆けていく。
空を飛べる喜びを一度知ってしまったらもう戻れない。

並盛町で一番高いビルの屋上に到着した。
縁に腰をかけて、足を揺らす。
見上げると、心なしか地上にいる時より近くに月が見える。
秋は月が綺麗で風情がある。


♪He said, one day you'll leave this world behind
So live a life you will remember
My father told me when I was just a child
These are the nights that never die


気分良く口ずさんでいると、ゴーグルにチカリ、と反応がある。

「…何かご用ですか?」

後ろを振り返ると、リボーンが感情の読めない顔で立っていた。

「こんばんは、赤ん坊」
恭弥に倣って、赤ん坊と呼んでみる。

「よく俺の気配が分かったな」

その問いに、小さく肩をすくめてみせた。
それは私の実力ではなくて、スパナが作ってくれたサーモグラフィゴーグルのおかげだ。

「斉藤愛」
「はい、何でしょう」
「お前なにもんだ?」

リボーンに問い詰められる日は必ずくると思っていたが、ずいぶん早い。

「私の事なんて、とっくに調べたでしょう?」
「ああ。調べれば調べるほど平凡な女だ」

失礼しちゃう。いや逆に褒め言葉かな?
中一までの経歴は、恭弥が上手いこと作ってくれたのだ。

心を読まれそうで怖くて、前を向き直して月を見上げたまま返す。

「うん。極々普通の女子中学生」
「ああ、だからこそ違和感があるんだ。
風紀の書記は雲雀の寵愛を受けてるって有名だぞ。」

いつの間にか変な肩書きついていたようで恥ずかしい。

「一体どんな奴かと思いきや、雲雀の側にいるようなタイプには見えねぇ。
そのくせ出所不明のやたら性能の高い道具を使って戦う。」

確かに、エアトレックは本来この世界には存在しないし、道具のメンテや提供をしてくれているのはスパナだから、性能は普通ではない。

「しかも俺に対して何の疑問も抱かねぇ。」

カチリ、と銃口を向けられた気配を感じた。

「ちょっと情報に精通しているだけで、私はただの一般人ですよ」

何者か、なんて
自分の立ち位置について答えが欲しいのは私自身だ。少し拗ねたように答えた。

「お前はボンゴレにとって敵か?」

打って変わって、こちらは随分と簡単な質問だ。
そんなの決まっている。

「私は恭弥にしか興味ないです」

私の居場所は恭弥の隣だから。それは恭弥が決めること。

「…みてぇだな。まぁ、敵じゃないならいい」

あっさりと追及が止んだことに少し驚く。
くるり、とリボーンの方を振り返った。
銃は下ろされていた。

「女には優しくするもんだからな」
「あ、りがとうございます?」

「それに、あの雲雀の女ってのはおもしれーぞ」
ニッとリボーンが笑った。

「ご期待には沿えないと思いますけど…」
苦笑いで返す。

「いい歌だったぞ。チャオ」

言いたい事だけ言うとキザな捨て台詞を残して、リボーンは去っていった。
ふぅ〜〜、と張り詰めていた肩の力を抜いた。正直めちゃくちゃ緊張した。
平静を装ったのはただの強がりだ。

立ち上がって、ぐいと背伸びをする。
帰ろう、恭弥の元へ。

ベランダから部屋に戻ると一目散に
「ただいま」
と恭弥の腰にダイブして抱きついた。

「遅かったね。どこほっつき回ってたの」
「赤ん坊に捕まった」
「!へぇ」

ぶすり、とむくれて恭弥に頭をぐりぐり押し付ける。
大好きな香りで鼻腔を満たす。

私の行動に彼は一驚したが、頭を撫でて宥めてくれた。
ひょいと私を抱え上げると、ソファに投げ落とす。

「うわわ、」

やっぱりというか、覆いかぶさってきた。

「疲れてるみたいだし、癒してあげる」

にやり、と悪い顔で笑う恭弥。

「え、」
「何、不満?」

スカートから伸びる脚をするりと撫でられる。
不満かと言われると、

「…ううん、癒して?」

否、だ。

恭弥の首に腕を回した。

愛しい人の笑みが深まったのを確認して、大人しく瞳を閉じる。

夜はまだ長そうだ。

The Nights
These are the nights that never die
Think of me if ever you're afraid



12 / 17


←前へ  次へ→
Back Top



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -