どうぞ。入って。
 お飲み物は何かいるかしら? といっても紅茶かコーヒーしか用意できないけれど。……え? いらない? そう、分かったわ。
 何の用かって? 貴方と少しお話ししたかったのよ。……そんなところで突っ立ってないで、座ってくだすって構わないのよ。このままで良いって? 貴方も変に意地っ張りな人ね。
 多分、私に呼ばれた時点で気付いていると思うけど。ええ。とわ子のことよ。驚いたわよね、いきなり死んじゃうんだもの。……貴方も聞き及び? 警察は自殺だろうって言ってるらしいわ。なんでも、遺書があったんですって。それがパソコンのプリントとかじゃなく、一筆箋に、毛筆で書かれてたんだとか。とわ子らしいわよね。古風というか。あの子、本当に字が綺麗だったものね。私なんて字の良し悪しはまるで分からないけれど、とわ子の字はとても好きだった。惹き付けるものがあったと思うわ。
 ……早く本題を話せ? そう性急にならないでちょうだい。ところで貴方顔が青いけど、具合が悪いのではないの? 辛そうよ。
 そうね、まあ、今までの話も本題といえば本題なんだけれどね。……とわ子がいなくなって、貴方も悲しいでしょう。恋人だったものね。中学からのお付き合いなのだっけ? 純愛ね。
 私は高校からの付き合いだから、昔のとわ子は知らないの。貴方がちょっと羨ましいわ。……とわ子に最初に会ったとき、びっくりしちゃったわ。こんなに天真爛漫な子が実在するんだって。突拍子もないことを言ったりやったりしてたけど、なぜか憎めない子だったわね。どこか裏があるような人は、とわ子のこと苦手にしてた。あの子のちっちゃい子供みたいな笑顔がもう見られないなんて、本当に寂しいし、悲しいわ。
 ……何が言いたいんだ、って? そうね、じゃあ、単刀直入に言うわ。
 貴方が殺したんでしょう。とわ子を。



 ……あら、顔が真っ青だけれど、大丈夫かしら? 倒れる前に、座った方がいいわよ。
 心当たりが無いとでも言うの? 私はとわ子から全部聞いてるわ。
 何をかって? そうね……あの子が未来を予知する力を持っていたって言ったら、信じる? まあ、貴方が信じようが信じまいが、事実は変わらないのだけどね。とわ子は、貴方が自分を殺すことを知って、私に話してくれたの。あの子は知っていたのよ。全然取り乱してなんかいなかったわ。微笑んですらいた。私の方が動揺してたくらい。
 ……予知能力のこと、貴方には隠してたみたいよ。きっと怖がられて、嫌われるのがいやだったんじゃないかしら。貴方のことがとても好きだったのね。
 不思議でしょう。未来が分かるのに、どうして対処も抵抗もしなかったのかって。これは私の想像だけれど、貴方に殺されるのなら本望、と思ったんじゃないかしら。
 ……笑っちゃうわよね。まだ高校生なのに。恋のために死ぬ必要がある?
 ……え? 何をするつもりだって? 私はどうもしないわよ。脅すつもりもない。ただ、とわ子の直筆の遺書が見つかって、混乱してるだろう貴方に教えたかっただけ。それに、とわ子に頼まれていたの。私が死んだら、私の力のことを彼に教えてあげて、って。
 ええ。……そうね、話は済んだわ。行っていいのよ?
 あ、もうひとつだけ、いいかしら。
 とわ子が安心して、っていうのは変だけど、とにかく貴方に殺されるのに身を委ねられたのには、好きという気持ち以外に理由があったと思うの。……きっと、貴方が本当のことを警察に話して、ちゃんと罪を償ってくれる。その未来が見えたから、何も抵抗せず、遺書を書いて待ったのだと思うわ。貴方が自分を殺すのを。
 これも私の想像だけれどね。……ええ。もう行って。貴方が本当のことを公にしようが、胸の中の秘密にしようが、私にはどっちでもいいわ。貴方の自由にしてちょうだい。ただ、私は、貴方が罪を償おうと何をしようと、絶対に許さないわ。とわ子の笑顔を永遠に奪った貴方を、私は死ぬまで許さない。
 ……それじゃあね。さようなら。貴方とお話しできて良かったわ。もう会うこともないでしょう。

――えいえん

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