「ちょっと待て。じゃあ、なんでそれを俺に話すんだ?」
「君はいずれ知ることになるからだ」

 含みのある言い方だ。龍介は、自分がそういう言い回しが嫌いであることに気づいた。
 それにしても、と思う。そんな危険な連中に狙われるなんて、未来の自分は一体何をやらかすというのだろう。
 ヴェルナーの話はにわかには信じがたい内容ばかりだったが、桐原先生が黙して聞いている以上、信用しなくてはいけない気がするのだった。

「まあまあお坊っちゃん、そんなに心配することはねーよ。何もすぐに罪の連中が襲ってくるとは言ってない。今のところ、罪の人間が君に手を出す可能性は低い」
「……じゃあさっきの予見の話は何だったんだよ」

 龍介は憮然として言った。ヴェルナーが諭(さと)すような口調になる。

「予見ってのはな、100パーセント確実な未来を知れる能力じゃねぇんだ。さっきも、ある確率って言っただろ。未来になればなるほど、その精度は落ちる。天気予報とおんなじだ。君が将来、罪にとって脅威となる確率は、現時点では五分五分ってとこだ」
「……ふうん」
「だから今からそんなに怖がらなくてもいいんだぜ。何かあれば俺が守ってやるしな」

 別に怖がってない、と龍介は言いたかったが、面倒なことになりそうなので口をつぐんでいた。ヴェルナーは超然と椅子にふんぞり返っている。この男に自分の命を預けるのか。龍介はそっちの方が心配だった。

「つーか、さっきから護衛って言ってるけど、まさか学校にも着いてくんのか? それとも俺に外出するなって言うわけ?」
「案ずるな、お坊っちゃん。君は今までどおり普通に生活してていい。護衛っつっても、四六時中君のそばにいるわけじゃないしな。少し離れたところから、見張らせてもらうよ」
「離れたところって……そんなんで何かあったときに間に合うのか」
「心配御無用」

 ヴェルナーは懐に手を差し入れた。おもむろに黒光りするものを取り出す。見てぎょっとする。拳銃だった。
 龍介の喉がごくりと鳴る。

「不届き者はこいつでどかん、さ」
「……本物?」

 思わず漏らすと、ヴェルナーが馬鹿にするような笑い声をたてた。

「おいおい、割と面白いな君は。偽物持ち歩いてどうすんだ」
「……警察でもないのに、そんなもの持ってていいのかよ。ここは日本だぞ」

 むっとして言い返すと、ヴェルナーは事も無げに大丈夫さ、と言った。

「影の人間が武器を所持するのは、各国の警察とICPOによって認められた権利だ。ま、その事実を知るのは警察でもICPOでも一部の人間に限られるがね。さっき言い忘れたが、俺たち影の人間は、罪の連中を殺しても何の罪にも問われないことになってる」
「え」
「言い換えれば、俺たち影は罪専門の殺し屋集団とも言える。……驚いたかい?」

 ヴェルナーの顔をまじまじと見る。つまり、目の前にいるこの男は。
 人を。
 殺したことがあるのだ。

 ぞっとする。目前に座る笑みを浮かべた男が、にわかに禍々しい存在に思えてきて、龍介は寒気を覚えた。

「ってことで、これからよろしくー。君に話したかったことは以上、終わり」

 龍介の心情を知ってか知らずか、ヴェルナーが緊張感の欠片も無い声でそう締めくくった。
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