140SS


*07 Mar 2018 : other*
 人口減が加速し、人類は五年以内に滅びるとの予測が発表されても、十数年も前から都市機能の持続に関与してきたAI達に動揺はなかった。ヒトが絶滅しても、AIは無人の都市を立派に維持するだろう。
 都市とはヒトが進化した姿なのだ。都市という蝶の夢を見る蛹、それがヒトだったのだと、今僕は思う。

―眠らない人のための進化論


*21 Feb 2018 : Escapade with Blue*
 あなたはまた無防備に、ソファで寝息を立てている。急所である喉首に指を這わすと、あなたは薄目を開ける。眠れねえのか、一緒に寝るか、なんて呑気に問いかける。
 僕はいつまで子供なんですか。僕はあなたを殺すこともできるのに。いつでもできる、その思いを燻らせ、今夜もあなたの体に毛布を被せる。

―取り置きのユータナジー


*21 Feb 2018 : Escapade with Blue*
 友人の骸を見下ろす。脳漿と血が飛び散っているが、撃たれたにしては――撃ったのは俺だが――綺麗な方だ。堅物を煮詰めたような男が殺してくれと言うのはよほどのことで、詮索はしなかった。
 十年来の友人を殺したのに、手に残るのはお馴染みの反動だけで、手応えがないのも寂しいな、と改めて考えた。

―手応え(if死ネタ)


*21 Feb 2018 : other*
 彼女は眩(まばゆ)く笑っている。液晶の中で。
 毎日一緒にいた頃は、彼女の笑顔があんなに輝かしいなんて気づきもしなかった。僕は一体何を見ていたんだろう。そりゃあ彼女は料理も掃除もからきしだったけれど、朗らかで穏やかな日々以上にどんな大事なことがあるっていうんだ?
 彼女は眩く笑っていた。僕の隣で。

―彼女はテレジェニック


*08 Feb 2018 : other*
「地獄には2種類あってな」
 硝子の破片を踏みしめる靴が項垂れた私の視界に入り、第一声が放たれる。
「今の監獄同然の地獄と、好き勝手できる地獄さ。選びな」
 2番目、と答えると、銀髪に半ば隠れた目元が緩んだ。
「地獄で暴れるのは結構楽しいぞ」
 伸ばされた大きな手を取って、だから私はここにいる。

―かわいい君のための地獄/君のためのかわいい地獄


*08 Feb 2018 : Escapade with Blue*
「ロッティちゃん、チョコ食べる」
 ヴェルナーが粒揃いのケースを揺らす。頷くと、彼は一粒を自分の口に放り込む。子供じみた悪戯かとあきれると、抱き寄せられ、キスされた。
 咥内に広がる濃厚な甘さ。強い酩酊感はラムのせいにする。美味しい、と問う彼に何も返せなかった。味わう余裕などなかったから。

―ヴェルシャロのバレンタイン


*19 Sep 2017 : other*
 俺を宇宙に連れてって、と病床の彼が言う。
「君が宇宙飛行士になれたらさ、遺灰を宙(そら)から撒いてよ。そしたら俺は流れ星になれる。絶対綺麗だよ」
 死ぬ人は勝手だ。私は宇宙飛行士を志望して宇宙工学を専攻に選んだのでもないし、もしなれても、その流れ星を私が見ることは叶わないのに。
 本当に、勝手だ。

―私を宙まで連れてって


*19 Sep 2017 : other*
 逃げて欲しい。私はいつか君を喰ってしまうかもしれない。
「逃げないわ」
 瘴気に蝕まれ、深い森の洋館で慎ましく暮らしていた私の元をふらりと訪ね、そのまま棲み着いた少女は答える。喰われそうになったら、代わりに貴方を喰ってあげる。笑んだ口元から、化物の片鱗たる牙が覗く。ああ、ならば安心だ。

―化物の心得


*14 Sep 2017 : other*
 古今東西、超常の力が宿るとされた楽器といえば笛である。私は笛の音に魅入られ、魔笛・妖笛の民俗学という学術分野まで拓いた。
 その私が今やこの様だ。周りには人骨が散乱し、見上げれば夜空は僅かに覗くのみ。私はどうも心奪われすぎた。そら聴け、笛の単旋律が闇を縫うのを。今宵も贄(にえ)が降ってくる。

―笛に呼ばるる穴底の


*10 Jun 2017 : other*
 闇にも深さがあると教えたのは彼女だった。
 大学構内には、夥しい数の生物の気配があった。蛙や虫の声、草花の匂い、濃密な生命の息吹。
「生命力って暴力的だよね」
 笑う彼女の輪郭が初夏の浅い闇に滲み出す。
 それが僕の見た最後の姿だ。彼女は獰猛な生命力に呑まれたのだろうか。僕にはもう分からない。

―命は呑む


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