いつ、どこで、あなたが死ぬかなんてわからない。いつ、どこで、私が死ぬかなんてわからない。そんな世界で生きると決めて、そんな世界に嫌気がさして、背中を向けたけれどまた向き合って。そしたら、またあなたが私の中にどうしたって流れ込んでくる。



やさしいひとのやわらかいうそ



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「あっ!ななみん!」
「虎杖くん、その呼び方はやはりやめて頂けませんか。」
「えっ!もういいじゃん、俺結構気に入って」「それを決めるのは私です。」


彼くらいの年頃だったら、教職の人間と年齢が近い私に軽い渾名を付けるのなんて想定内だった。だからこれと言って気にしている訳ではない、もちろん諦めたと言っても過言ではない。しかし、素直で真っ直ぐな彼が私を大きすぎる声で呼ぶ度に少しだけ脳裏をかする記憶がある。彼が渾名で呼ぶことに小言をつけるのはその記憶から目を背けたいのが本当の理由だ。つまりは私の我儘に過ぎない。




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一つ上の先輩は、やたら長身な男の先輩が二人と一つ上とは思えないような雰囲気が妙にしっくりきて気怠そうな態度さえ綺麗だと思えるような不思議な女の先輩。
それから、そんな柄がいいとは言えない三人と一緒にいるとどう見ても浮いている、素直で真っ直ぐで、眩しい女の先輩がいた。
その眩しい先輩は、輩のような他の先輩達の中でとても堂々と真っ直ぐといつだって歩いていた。




「ななみーーん!」
「その呼び方やめてもらえませんか、藤堂先輩。」
「えー、いいじゃんいいじゃん。あだ名ってなんか楽しくなるじゃない。」
「楽しいかどうかの判断は、こっちがしていいものではないんですか。」
「あは、それは確かに!」

底抜けに明るいこの先輩は、いつも大きな声で笑う。とは言っても下品とかではなく声が綺麗に通る感じで、聞いていて心地がいい。



「あっ!可憐、また七海に絡んでる!」
廊下にいた自分達を見つけてこれまた絡んできたのは、自分を中心に地球が回っているようなそんな横暴な先輩。

「悟にだけは言われたくない!」
「俺は、七海に先輩としてのだな、いろんなことを」「あー、はいはい。

あっ!ほら、お昼ごはん早く食べに行こ。またね、ななみん!!」
「はぁ。」

これと言ってリアクションができないまま先輩二人は行ってしまった。まるで嵐のように過ぎ去っていく。五条さんは、流れるようにというか、慣れたように、いや、当たり前のように藤堂さんの肩に腕を回して、少しだけこちらを見てからすぐに前を向いた。



「あれ、いまの藤堂先輩と五条先輩?」
「あぁ。」
遅れて教室から廊下に出てきた灰原に適当に答えると、あの二人お似合いだよね〜と灰原はいつものように明るい声で言った。



「.......あぁ。」
黒く少し癖のある長い髪を高く結び美しく背筋を伸ばして歩く後ろ姿は、白髪で男が見ても綺麗だと思う顔立ちにモデルのような容姿を併せ持つ五条さんの隣でもなんの違和感もない。


二人の後ろ姿を見て、どうして心がざわつくのか、その理由がわかるのは少し先の話で、ただその時は、真っ直ぐな眩しさはいつだって暖かいような気がしていた。





その眩しさは、後に最強になる男のもので、自分はその眩しさにいつも圧倒されているばかりで。もう少しだけ自分が強く、我儘にあの眩しさを引き寄せていたら、何かが変わったのだろうかと、今更考えたところで何にもならないのだ。




「お似合い、だよな。」
それは自分を守るための必死のうそ。







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