Extra Cobalt Blue
- ナノ -

白昼夢の融解時計

※「monotone」の菊流さんに誕生日に頂きました!


好きな人がいた。愛していた。大切な人が、かけがえのない人がいた。

――いいえ、いいえ。違うわ。
好きな人がいるの。愛しているわ。大切な、かけがえのない人を、ずっと。

決して過去形ではない思いが、つい、過去になったとき。言葉の綾だと誰へでもなく、自分自身に言い訳をして言い直していた、あの頃。
心の底から決して過去ではないといえたけれど、きっとそれがあの人の時は進まず、自分の時だけが進んでいた証明だったのだろう。

甘い夢は、見ないようにした。それは彼の死を蔑ろにすることだ。それこそ、命と信念を懸けて背中を押してくれた彼への冒涜。夢を見るように目を閉じても、あなたはいない。瞼の裏には暗闇だけ。たとえ夢を見ても、それは自分で勝手につくりだしたあなたであって、その人ではない。

だからこそ、いま、思う。

「ねぇ、クロウ」
「ん? どうした、フラン」

ソファーの上で、フランは男に寄り掛かる。名を呼べば、名を返してくれる――同じ名の欠片を分けた男に。
フランはずっと現実を見つめ、地に足を付け、歩んできた。クロウのおかげで崩れ落ちそうな生き方を壊せた時も、クロウが帝国解放軍のリーダーだと知った時も、内戦で敵対したときも――彼が、その命を落とした時も。
彼女は決して現実から目を反らしはしなかった。たとえジークフリードとしてのクロウと相対した時も、揺らぐ心のまま真正面からぶつかった。
――ゆえに、彼女は、呟いた。

「これが……今このときが、もしも夢で、…現実ではまだあの“終焉”が続いているとしたら、私はどうするのかしら」
「――…」

帝国が迎えた“終焉”。同輩と、後輩と、先輩と。傷つきながらそれでも終焉に抗ったことで、未来をつかんだ。ひたすらに前へと進み、掴んだその先は、まるで夢のようだ。本当にあの“終焉”の先の未来の現実に生きているのかと、不思議に思ってしまうほど。
まだ帝国の未来には、多くの捻じれや壁やある。未来が不明確で、危うくて、ずっと踏みしめて歩かないといけないなんてことは、今更のこと。だが、――ここには、クロウがいる。どれほど今から歩む道が険しくても、それだけで甘い夢なのではと錯覚してしまうほどの、荒野に青い薔薇が花開いたような奇跡。
そんな世界が夢のような現実が本当に夢、だったならば。

「………クロウが、いない、世界に……私は、戻れるのかしら…」

決してもう出会えないだろうと思っていた人の手を握りながら、フランは小さな弱音を漏らした。
クロウは静かに目を見開いたが、小さくわらって彼女の頭を自身の肩へと引き寄せる。夢ではない熱を感じるように。

「本当に、随分甘えてくれるようになったもんだ」
「……、そうね、そうかもしれない。こんなこと、考えてももう意味はないのに。私は…弱くなったのかしらね」

――あなたは本当にここにいるのに。
そう言いたげに、フランは目を伏せた。クロウはいつものお調子者の顔ではない、大人びた笑みをフランの見ていないところで浮かべる。

「弱く、ね。………ま、甘い夢から覚めたくない、って思うのは普通だろうよ。目を覚ました先の現実が厳しいならなおさらだ。けど――」

フランは確かに随分と甘えてくれるようになった。同時に、弱い部分も見せてくれるようになった。だからクロウはわかる。彼女の意志は凛として美しいほどに強いが、朽ちない鋼ではない。熱も通るし、傷もつく。
そんなフランの強さと弱さを知るクロウだからこそ、彼は確信していた。

「けど、俺はそれでも。お前は目を覚まそうとするんだと思うぜ」

フランの肩が揺れる。え、と、小さく声が漏れた。クロウのほうに振り向こうとした頭をクロウは胸で迎えて、抱きしめる。愛しい妻を身体を。

「……お前は、何度壊れそうになっても、崩れ落ちることはなかった。正直、学院生時代から、それが眩しくもあった。俺と同じような道に進んでもおかしくなかったのに、お前は歪なほどに、まっすぐだった」

それがフランの強さであり、同時に“弱さ”ではなく“弱み”だった。死に別れた二年以上、「ひたすらに前を」という遺した言葉に向き合い続け、歩みをやめなかった彼女は、やはり強く、そして本当は脆く、だからこそ愛おしく。

「フランはいつだって、俺に真正面から向き合ってくるだろ? だから、お前はきっと目を覚ます」
「……クロウは、そんな私を薄情だと思う?」
「聞かなくてもわかってんじゃねぇの? それに、どんな形であれ、フランが傷つきながらでも忘れなかったのは、“俺”だろ。 お前がお前自身の夢の中で創り出したクロウ・アームブラストを愛せるほど、俺の奥さんは器用じゃないと思うぜ? あー、あとついでにいうと、そんなことになったら本物の俺がめちゃくちゃ妬く」
「…クロウ……」

引き寄せられた身体のまま、フランはクロウに身を預け、目を閉じた。胸の奥の音は、再会を果たした時から変化はない。だからこそ、彼は生きている。包み込んでくれる身体は、夢のようであり、やはり夢ではない。

「引っ付くの好きになったな?」
「……別に、前も嫌いだったわけじゃないわ。………照れ臭かった、だけ」
「ほんっと素直になったよな。……ま、俺も一度全部感覚なくなっちまったのは事実だからよ。抱きしめてる感覚っつーのは、前より落ち着く気がするんだよなぁ」

二度と触れ合えないのだという覚悟もないまま、離れて消えていったあの日。胸が冷えるような感覚は、互いに根深く残っている。あの日があったからこその今だと思えば、今更悲観することではないのかもしれない。
だが、生きているからこそ爪痕は残り続ける。だからこそ、触れ合えば、あたたかい。名を呼ぶ声が、いとおしい。

「……つーわけで」
「…?」
「現実だ、って体感してしもらうために、人肌脱ぎますかね」
「っ、きゃぁ!?」

器用にフランの膝裏に腕を通していたクロウはそのまま横抱きにして妻を抱え上げる。腕の中で戸惑っている様子のフランだが、いい加減どこに向かわせられるのか感づいているらしく、「ク、クロウ…!」と頬を染めている。これもまた鴉との巣で積み重ねてきた日々の影響だ。

「ま、実際に脱ぐのは服だけどなぁ?」
「っ、やっぱり…!」

フランを抱えたまま寝室へと向かいながら、クロウは音もなく目を細め、彼女から感じるシャンプーの香りに軽く頬を寄せる。それなりに強引にことを進めているのに、彼女の頭は近い。つまり、その彼女の腕はクロウの首にまわっていて、それだけ素直に抱えられているということだ。その先でナニをするのか、されるのか、わかっていながら。
かわいいやつ、とクロウは内心でひとりごちながら、たどり着いたベッドの上でフランを横たえる。――さて、あとはもうひと準備、だ。


+

クロウはフランは音を聞かせていた。指でぐちゅぐちゅと体内を乱す音を。厭らしい音は耳を犯し、そして、今日はいつもにも増して彼女の全身を犯している。
なぜなら、人の五感というものは、そのうちの一つでも塞がれると別のものが多感になるものだ。すなわち視界をふさぎ視覚を奪えば、聴覚や触覚はより一層鋭敏になる。

「っぁっ、くろっ、も…これ、とって…!」
「ほら、見えなくてもわかんだろ? 俺がいるって。夢じゃねぇって」

フランの視界は、クロウの所持品である黒いバンダナによって覆われていた。“見える”現実を信じられなくなる瞬間があるのなら、“見えなくてもわかるもの”で埋めてしまえばいい――そう思いながら、クロウは片手でフランの手首をまとめあげながら、もう一方の手でフランの快感を漁る。膣内を指でかき乱し、余った指で膨れた秘粒を弄る。

「フラン、わかるか? もうココ、俺のカタチなんだろうぜ? いつも先っぽが付くのが、この奥で、」
「ぁっ、ひやぁっ…ぁっ!!」
「カリ首がちょうどよく引っ掻くのが、ここだろ?」
「っぁ、あっ、ん…! ひ、また、イっちゃ…!」
「だろうな、引く抜くときにいつも感じてしまっちまってんのはこのあたりだもんなぁ?」
「ぁっ、あ、――ぁあっあ!!」

視界が開けていたとしても見えない場所をすぐられていたフランは、視界が覆われていたからこそいつも以上にそれがどこかのかわかってしまっている状況だった。見えないはずなのに、見えるような、頭の中が混乱する感覚と、鋭敏になった触覚に与えられる刺激。びくびくと感じて達してしまえば、膣内は指を締め付けながら、指ではないもっと大きなナニかを締め付けようとしている。クロウが言う、覚えたカタチを求めるように。

「っぁ、くろ……も、ちゃんと、っシた、い…!」
「ちゃんと、ってなんだ? 言ってくれねぇとわかんねぇなー?」
「……くろうを、見て、くろ、を、感じたいのっ……、くろうのおおきいのが、欲し………!」
「…っ、んと、ねだるのも上手になりやがって」

クロウは奥底に隠した理性を削ぎ落とされているのを感じながら、わざと淫らな音を立てて、じゅぷりと指を抜きフランちゃんの聴覚を煽る。「っぁ、ぅ…!」指先で秘粒をそれとなく撫であげれば、たったたそれだけだが油断していた刺激にくんっと腰が泳いだ。
フランは気づいているかわからないが、入口も物欲しそうにひくひくと何かを求めている。品など考えずに表現すれば『絶景』という言葉がクロウの思考と合致した。

「ま、求められたんなら、旦那としては答えねぇとな?」
「っえ、クロウっ、待っ…これ、取っ――ひぁぁぅあ!?」

膣口に先程まで弄っていた指ととっくに昂っていた熱をあてがい、愛液が滴りそうなほど解したナカに求められていただくカタチをずぶずぶと埋め込んでいった。そう、目隠しのバンダナはとらないまま。
締め付けながら奥へ奥へと招いているような膣内に、クロウは口の端をあげ、たどり着く場所までの快感を味わい、やがて全てを包まれる幸福感に小さく息を吐いた。
奥まで押し込まれたフランは小さく身体を震わせ、その振動に押し出されたように呼吸に合わせて喘いでいる。

「さっき指で確かめたカタチ、そのままだろ?」
「んっ、わかる、から…ぁ………ふっ……くろ、……で、いっぱい…に、なってて……きもち、よくてっ……ぁっ」

熱い息の中に必死にクロウへと伝える言葉を混ぜる。フランはいつもより大きく、それでいてしっかりと感じる熱を感じていた。埋められているだけなのに、限界を感じそうになる。クロウの言うようにぴったりと隙間もなく収まっているものは、余すことなく官能を拡げ、心身共に浸っていく。見えないからこそ、そこばかりを気にしてしまう。そして感じて取ってしまう。――独りでは決して得られない、快楽と幸福。

「ぁっ、あ、っあ……!」
「……っ、動いてねぇのにイきそうか? ほら、せっかくならこっちでも確かめようぜ?」
「ぇっ、手、ッひぅ!?」

突然クロウによって導かれた手。達しそうなほどの快感を耐えることに精一杯だったフランは、クロウに引き寄せられるがままだった。そしてその行先は、己の下腹部だった。――そう、本来見えない奥深くの、全てを感じてしまっている場所。

「あっ――!? あぁうっ、やぁ、んっ!」
「ここまで埋まってんの、よくわかるだろ? 美味そうににここまで全部咥えても、入口はまだひくついてやがる。本当に俺好みにいやらしい身体になってくれたもんだ」
「…っあ、くろ、に全部、教えっ、られ、ッああぁ――!?」
「ッああ、最高、だよ」

限界まで張っていた糸が切られたように。ぴたりと引っ付いていた子宮口を押し上げられたフランはびくびくと腰を震わせ、達した。だがそれは始まりだ。クロウにとっての初動に過ぎない。待って言う暇もなく、奥を押し上げた楔は先ほどクロウの指が確かめた弱い場所を余さずなぞりながら引いていき、未だ達した名残で震える膣内をぐちゃぐちゃと進んでいく。

「あ、ッあ、 も、だめ…かたち、わかって…っ、あんっ、あぁっ!」
「俺も、よくみえるぜ? フランの感じまくってるやらしー顔」
「っ、あ、ふぅあっ!」

ぎゅうっ、と締まったナカにクロウは自分の口元がさらに笑んだのがわかった。バンダナで目元が隠れていてもわかる快楽に蕩けきった顔に興奮するなというほうが無理な話だろう。
ちなみにいくつかあるバンダナの中で黒色を選んだのはクロウが一番見ていて悦さそうだと直感的に思ったからだ。そして正解だった。薄暗い中でも、色素の薄い髪や肌に厭らしくよく映える。目元を覆うには少々緩いものだが、いつかはずれ落ちそうなのもそれはまた一興だ。どれほど激しくしたら快楽に濡れた熱い瞳が露わになるのか。ちらりと覗いてみえたなら最高に興奮しそうだ。想像だけでも背筋がぞくぞくと震えてくる。

「ッ、ほら、奥に出してやっから、ちゃんと全部飲めよ…!」
「あっ、んっ、ぜんぶ、ちょうだっ、――っぁあ!」

腰を掴み、押し付け、穿ったまま、クロウは感じるままに息を吐きながら全てをフランの体内へ注ぐ。虚無ではない未来へと続く証明を。生の本能を、愛する人へ、全て。
いくら注いでもひくひくと痙攣している膣内は、まるでまだ欲しがっているようだ。息を吐き出し呼吸をするフランの口から答えはなくとも、どちらにせよクロウにこのまま終わる気などない。
期待に応えるべくまだまだ可愛がってやろうじゃないか。
こういう時のために隠していた玩具があったはずだ。そんな企みのもと、クロウはベッドサイドへと手を伸ばす。必然的にフランを覆っていた身体が離れ、体温が遠くなる。
名残惜しいが、すぐに戻ればいいだけのこと――クロウがそう思っていたときだった。

「いやっ、くろうっ――!」
「――……フラ、ン…?」

素肌が離れ、その体温を感じなくなった瞬間。押し倒さんばかりに、クロウの胸にフランが飛び込んできた。その勢いのよさに、衝動的だという推測が立つ。飛び込んできたフラン自身も、「ぁ、」と小さく声を漏らし自分の行動に戸惑いを見せていた。

「ごめ、んなさい。痛く…なかった?」

焦ったように聞く声。フランのその声は、詫びるような声もあり、そして未だ隠しきれていない不安の色が混じっていた。
今更、クロウは思い出す。彼女は“見えない”のだ。彼女がクロウという存在を認識するには、触れるしかない。そうでなければ見えない闇に消えていく。見えない。触れられない。――“いない”。

「っ――ぁ、くろ、んんっ」

クロウは息を忘れたように、フランを抱きしめた。安心したように名前を紡いだ口を覆って、くらって、貪って。これからどう可愛がろうかと思っていた予定はすっとんでいた。
余裕がない――など、今更のことだったのだろう。
フランを置いて逝ったことは過去といえど変えられない事実だ。残された彼女の苦しみを推し量ることができないのはもちろんだが、クロウの身にもジークフリードとして虚空をさ迷った二年近くの時間は刻まれている。そしてなにより――もう二度とこの腕には抱けないのだと悟った、十二月三十一日あの瞬間の記憶もクロウには残っていた。

「足んねぇ」

それはただの呟きだった。だからこそ、フランは一瞬バンダナの奥で目を張った。誰かの情欲を煽る目的のなかった彼の心中の吐露だったからこそ、フランは驚き、そしてまた滾った熱があてがわれていたことに気づかなかった。

「――ひやぁあっ!? ああっ、ああ、っ!?」

彼を見るものはいない。その表情を見つけたものはいない。彼にはもはや軽さや調子者の影はなく。雄々しい男の表情に似つかわしいの紅い目が重厚に光っていた。その光は獲物を捉えた吸血鬼にすら似ていた。だか吸血鬼は薔薇には触れられない。青い薔薇のような奇跡を身に宿した彼は、やはり人間であり、一人の男だ。

クロウは再び子宮口まで自身を押し付けるとフランの瞳を覆っていた黒いバンダナに手をかけ、取り去る。ぼやける視界のなかでフランはようやく見つけたクロウの姿に口元を緩め、さらに背中まで腕を伸ばす。
クロウも応えるように、小さな身体を引き寄せた。内も外も、全て互いを感じるように。己の形に拡げ、腕を回して肩を抱き引き寄せて。埋めて、囲って、包んで、満たして、満たされて。
だがそれでも、不思議なほどに。

「…やっぱ、足んねぇわ」
「ん…ぁっ、…わた、し、も」
「はは……そうか」

フランの唇をなぞるように舐めたクロウの舌は、そのまま触れた吐息を押し込んで口腔へと伸び、唇がかち合う。
思考すらも深く落としていくような口づけだ。フランはなんとなく薄らと目を開く。一番近くに、クロウの瞼が見えた。そう、クロウは目を閉じていた。
――彼もまた、視覚ではない場所で今この時を感じ取っているのかもしれない。
そう思ったフランは、ゆっくりと視界を閉ざす。交わる舌、生に満ちた息遣い、触れることのできる背中、身体の奥深くで境目が溶けている感覚――全てがクロウがここにいる証明。そして同時に、自分自身も、そこにいる証拠。お互いが今この時を生きている。見えなくてもわかる。目を閉じていても夢ではない。
夢では、ない。

唇が離れていく感覚に誘われるように、フランは瞼をゆっくりと開く。今度はクロウの瞳と視界が交わり、その瞬間、目尻から一筋、何かが伝ったような気がしたから。

「…ッ……、溢れるまでたくさんしてやっから。だから――たくさん、イけよ?」

クロウの指が、優しくフランの目元に湧いていた雫を払う。その先が、いつ眠れるともわからない長く深い夜になることをフランはわかっていたけれど。
こくんと意識もせず頷いてしまったのは、きっと。

「すきよ、くろう」

まだ、まだ、まだ。その背中に腕を伸ばしていたかったからだろう。あの日追いかけていた背中も、いつの間にか消えてしまっていた背中も、今こうして触れて引き寄せられるほど、近くにいるのだから。そして引き寄せてくれているこの腕を振り払うことももうしなくていいのだから。

好きで、愛していて、大切だから一緒にいる。ともに、歩む。

いつだって、それができなかった。譲れない信念が、自分らしくあろうとする心が、それゆえに迎えた最期が、そんな未来を虚像の“夢”として心に積み上げた。
だが、夢ではない。夢ではないのだ。名を呼べば、名が返る。愛を伝えれば、愛で包まれる。全部、ぜんぶ、本物で、本当で。

「いつだって私の本当のせかいは、あなたからはじまってたのかもしれないわね」

それがかつての彼の望みだったことを知らないまま、フランは呟き、そして、鴉色の深い夜へと飲み込まれていった。
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