Extra Cobalt Blue
- ナノ -

ディライト・ブルー

※「agnello」のあいらさんに頂きました。


「クロ、ウ…………」追い詰めて、フランの逃げ場を無くしてやる。それでもいつもフランが呼ぶ名前は違うものだった。「フラン」名前を呼んで優しくキスをすれば、また「クロウ」と名前を呼ばれる。ちがう、俺はクロウなんて名前じゃない。どうしたらフランは本当の自分を見て くれるのだろう。「……どうやったら、お前は今あるものを手放すんだろうな、ほんと」「!」自嘲混じり言い放ったその言葉に、ようやくフランが「自分」を見てくれたような気がした。






・・





 結局、あれからフランに自分を植え付けるようにして攻め立てたがフランがジークフリードに反応したのはそれきりだった。目が覚めたジークフリードは未だ自分の腕で無防備に眠っているフランを見たが、その表情はどこか幸せそうだ。きっと「クロウ」との夢でも見ているのだろうか──そう想像すると、またジークフリードの胸がちくりと痛む。
そもそもが、最近よく分からなくなってきているのだ。自分は本当は「ジークフリード」ではなく「クロウ」なのではないかと。時々思い出す記憶は、まさにクロウの頃の記憶なのではないかと思うのだ。ある夏の日の夕暮れ、学生寮での時間、騎神に立ち向かってきた凛とした少女。思い出す記憶には、どれも「彼女」がいた。

「…………、フラン」

やはりフランは反応しない。それもそうだろう、昨日あれだけ負担を掛けたのだからフランは疲れているはずだ。むしろ反応されない方がジークフリードにとってはよかったのかもしれない。
ちらりとジークフリードが窓の外を見れば蒼みがかっており、それは別れが近いことを示していた。







「ん…………」
 目が覚めたフランはゆっくりと重たい身体を上げる。あれから結局ジークフリードに身体を許してしまった。そうすることしかできなかった。あんな事を言われたら、どうしたって「彼」を意識することしかできなかった。
隣には既にジークフリードはおらず、きっと彼はまたヴィータ達のところへと戻って行ったのだろう。ジークフリードが寝ていた部分に触れて見ればそこはもう冷たくて、あんなにも嫌だと思っていたのに寂しくも感じてしまうのだ。

「ジーク、フリード…………」

無意識に、ようやくフランはジークフリードの名前を呼ぶ。けれどもそれには返事をしてくれる人はもう居なかった。
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