「あ、お茶買うの忘れてた」 美月がダルいーと声を上げて仰向けに倒れた。入学前にわざわざ裾上げしたというスカートの裾が、ゆるゆると吹く風で危うい。思わず目を逸らしたら銀時と目が合った。ニヤケ顔が頭にくる。 「俺が買ってこよう」 「わあ、コタって本当優しい!」 ぱちんと顔の前で手を合わせる美月に、ヅラの顔が緩む。前に誰かが言っていたが、本当に兄と妹みてえに見える。 「ありがとー!」 屋上を出て行く桂に、美月が手を振る。銀時が、見るからに胸焼けしそうなパンに噛み付いた。 「あー、それにしても暑いわ…なんでこんな暑いのに屋上なの?」 「俺に聞かれてもなァ…高杉に聞け」 「知るか。言い出したのはお前だろーが」 「え、そうだっけ?辰馬じゃなかった?ね、辰馬!」 「そう言われるとそんな気も…」 「騙されてんじゃねぇぞ天パ」 「ねぇねぇ晋助、その天パってどっち?今この場に天パは2人もいるんだよ」 「黒いの」 「おっけ」 「のうのう、言いだしっぺわしじゃったか?」 「うんきっとそう」 とぼけた顔をして起き上がった美月は弁当を広げた。辰馬は思い出そうと唸ってるが、一生思い出せない方にかける。理由、言いだしっぺはコイツじゃねえ。 「作るならもっとちゃんと作れよ」 「え、ちゃんと作ってるし」 「俺も銀時に同感だな」 「なにおう、じゃあ作ってみろよー!」 料理は普通に出来る筈なのに、冷凍食品だらけの弁当。唯一作ってあるのは、こいつが好きな玉子焼きと、チーズが入ったウインナーだけだ。 「あのねえ、冷凍食品舐めちゃダメだよ」 美月はふりかけを振りながら俺と銀時を睨む。因みにふりかけはのり○ま。これ以外はふりかけじゃないと豪語していた。 「冷凍食品はね、そこのスーパーでは1袋178円で買ってるの。んで6個入ってるんだよね」 「それがなんだ…」 「それを4種類入れてるの。んで、卵は10個で198円で1日1個。ウインナーは20本で120円で、2つ入れてる。1日のおかずの値段は…えーと?」 「150.4666667円だ」 「コタさすが!ほら、安い!お茶ありがとう!」 茶を持ったヅラが美月の隣に座る。ヅラが蓋を開けて美月に渡すと、美月はそれを煽るように飲んだ。薄っぺらくて白い喉仏が上下する。 「はー、生き返る!アンタが食べてる焼きそばパンとチーズパンとコーヒーも、銀時が食べてるチョコパンとクリームパンといちご牛乳だって、私のより高いのよ!」 「美月は偉いな。お前らも見習うんだな」 ヅラが冷ややかな目でこちらを見ながら、三角の飯を鞄から取り出した。 「コタはいっつもおにぎりだね」 「好きなんだ」 「知ってるよ、何今更」 美月だけじゃない、ここにいる全員が知っている。ヅラは必ずおにぎり3つ。具はローテーションがあるらしいが、詳しくは知らない。つーか興味がねえ。そしてそれに加え、美月の玉子焼きを一つ貰う。 「栄養バランス最悪だろ、美月の弁当」 「銀時に言われたくない」 もっともだ。俺もヅラみたいに作るか、握るだけだし。――いやいや、何考えてんだ俺は。 ジリジリと照りつける太陽の下。いつもの光景。 【2:たまごやきのゆくえ】 ちょっとだけ羨ましい、午後の始まり。 top>main>ag series>Revolve!>Revolve! text |