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「「あ」」

あれからまた数日が経った。すっかり坂田家に慣れた奏がこちらの世界にやって来てから毎日見ていた雪は止み、初めて空が晴れた。日課となりつつある買い出しに気分良く出かけた奏は、その行きしなに松平と再会した。

「遭遇率高いですね」
「ほんと、よく会うねェ」

折角だからお茶でもという松平の申し出を奏は喜んで受け、二人はファミレスに腰を落ち着かせた。

「あの銀髪んとこに?男の家にオメー危ないでしょォが」
「他にも女の子がいるし大丈夫ですよ」
「ふうん?それならいいけどよォ。そういや仕事は見つかったのか?」

奏は肩を落として首を横に振った。毎日探しに出かけているものの、一向に職は見つからなかった。

「今住んでるところ、自営業なんで手伝わせてもらってるんですけど、その、全然なくて…仕事。現にもう十日近くいるけど、まだ一回も無いし…。だからお給料も…ね?」
「どこも不況だなァ…」
「他で一応探してるんですけど、やっぱり住み込みっていうのがネックみたいで」

運ばれてきたケーキの苺をフォークですくって、奏は溜息を吐いた。松平もぜんざいに付いてきた塩昆布をつまむ。

「まだ住み込み探してんのか?」
「はい、見つかるまでってことで今のところには置いてもらってるんで」
「俺が見つけてきてやらァ」
「え、本当ですか?」
「本当本当!どの辺がいいんだ?」
「え、えっと、あ、できれば今のところも続けたいんですけど…」
「掛け持ちってやつか?オッケーオッケー、第一そんなに仕事ねーんだろォ?」

松平の言葉に頷くと、松平は自分の胸を叩いてニッと笑った。

「パパに任せときゃァいいんだよ、最初っからな」
「ぱぱ、」

奏がきょとんとして繰り返すと、松平は娘のことを話していた時のように目尻を下げた。依然断った"親代わり"発言は少なからず冗談ではなかったようだ。

「じゃあこの辺りか。あ、丁度いい所が…あー、」
「ん?」

松平は眉間に皺を作って髭をジョリジョリと撫でた。言い渋るような松平に奏が先を促す。

「この辺りなら一つあるんだけどよ…お前さんのことしょっ引いた所」
「え、あーんー、真選組でしたっけ」
「ああ、さすがに嫌だろ、」
「あー、んー…」
――どうしよう…。嫌な人いるし…でも生活が一番だし…
「あの、疑いは晴れたんですよね?」
「おう、それはな?」
「じゃあ…是非、お願いします」



11.決定事項とその詳細



奏が頷くと、話はあっという間に進んだ。話を受けたものの、実際何をしている組織なのか知らなかった奏に、松平は真選組とは、を教えた。買い物を終えて万時屋に帰った奏は、ソファに身を沈め、松平の言ったことを細かくメモした手帳を広げた。

――真選組とは江戸の治安を守る対テロ用の特殊警察。局長は近藤勲、その下に副長の土方十四郎、更にその下に隊が十隊と、監察という部隊。一番隊隊長は沖田総悟、監察には山崎さん…一つの隊に十人前後、総勢100人以上。全員が男で、女性は通いの女中さんが数人…

ううんと唸る。思っていた警察とは事情が違うらしい。そもそもテロとはなんだろうか。想像したよりも大変な場所に行くことをやっと理解した。

松平は局長である近藤に何も相談せず、奏も口を出しながらあらゆることを決めた。

まず勤務日。週五日勤務の週休二日で、万事屋の仕事はその二日の間ですることとなった。万事屋の仕事が無い場合、浮いた休みはもちろんフリーだ。万事屋が二日入ると休みは無いが、仕事さえ終われば、早く上がったり休んだり好きにしていいという。

そして給料は、松平が提示した金額が桁違いだったため奏は減額を申し出、松平は渋々それを受けた。給料は家賃と、一日三食付いてくる食費を引いても十分な額だ。その為住み込みでなくてもいい気もしたが、土地勘も知り合いもほぼいない奏は心細いためその考えを却下した。

隊服は、オーダーメイドで準備すると言った松平の申し出を丁重に断った。が、女の子なんだから可愛いものがいいなどと言う松平の意見も仕方なく尊重し、仕立て直すことに決めた。奏が通うスーパーの隣に仕立て屋があるのだ。

「部屋の方は任しとけや、不自由なく生活できるようにしとくからよ。あ、あと俺パパだから敬語無しな?オッケー?」

奏が引きつる笑顔で頷くと、松平は嬉しそうに真選組屯所へ向かった。その際準備金だと言って奏に渡したそれを取り出し、両面を眺める。

「ん?なんだそれ」
「何それ、どこで拾ってきたアルか?」
「あ、坂田さん神楽ちゃんおかえりなさい。これはブラックカードだね」
「ふーん、ぶらっくかーど…。…ブラックカードォオオ!?」

キンと響いた耳を押さえて頷く。

「な、お前、もしかしてすっげーお金持ち…?」
「私のじゃないよ」

奏はクスクスと笑ってみせるが、坂田はそんなの関係ないと言わんばかりに目を輝かせた。

「だめだよ、使わないよ!」
「なんだよ、ちょっとぐらいいいじゃねーか」
「だめ」
「ケチだなー奏ちゃんは。で、それどうしたわけ?」

奏は頷くと、坂田と神楽を座らせて今日の出来事を話した。

「ばっおま、あんなところに住むつもりか!?反対だぞ俺は!」
「そうヨダメヨ!危ないアル!!」
「まあ、はい…」

予想外に激しく反対され、奏は困ったように頬を掻いた。

「やめとけやめとけ!」
「そうアルそうアル!」
「でも他にお仕事ないし、万事屋だって…ね?」

給料が少ないということは濁したが店主には十分伝わったようで、坂田は痛いところを突かれたと苦い顔をした。

「いやヨ、一緒の部屋で寝たいアル!ずるいヨ!あそこは危ないアル!銀ちゃん!」

神楽ががくがくと坂田を揺さぶる。力の強さのせいで、坂田の頭が激しく前後する。

「やめ、神楽、オイ!オイやめ、ろ!じゃあ、奏、こっちの、仕事の日、とか、休みの、日とか、できるとき、は、こっちに、な?」
「うんそれでいこ!それで!決定!」
「んー…しょうがないアル、それで許すアル!」

奏が慌てて頷くと、神楽はやっと機嫌を直して坂田を離し、奏の腕を抱きしめた。



12/07/11

すごく説明的



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