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奏と松平は局長室に入ると、既に座っていた近藤、土方、沖田、山崎の向かいに腰を下ろした。近藤は障子戸が開いた瞬間額を畳に押し付けた。

「本当に申し訳ない!!!!」
「申し訳ないで済むと思ってんのかゴリラァ!!アァ!?」
「俺に出来ることならなんでも――」
「あ、あのっ!」

松平に胸ぐらを掴まれたまま額に銃を突き付けられた近藤に、奏は慌てて声を上げた。止めようとした土方と山崎が奏を見、座ったまま寝ようとしていた沖田も片目を開けた。

「もういいですから。…松平さんも、もういいです。第一誰がちゃんと話してなかったんですか」
「いや…まァ、な?」

桂に近い女が捕縛されたと聞いた松平は、それを耳にしてすぐに奏を思い出した。同時に、首を傾げた。自分は、女は無実、誤解だったときちんと話を通しただろうかと。あの時同乗していた部下に尋ねると、そんなことは聞いていないと言った。そして、これは大変不味いのではと慌てて飛んで来たのだ。

「誤解されるようなことをした私も悪いのかもしれませんけど、松平さんのせいでもあるんですよ」
「ごめんよォ許して?な?チョコレート買ってあげるからさァ」

安!と突っ込む奏と戯れる松平を、真選組の一行は何とも言えない気分で見つめた。それに気付いた松平は、煙草に火を付けてそちらを見やった。

「奏はな、俺の友達なんだよ」
「友達ってまさか、愛人とかそういう意味のですかィ」
「や、やめてください」
「数日前に通りでちょっとな。な、奏」
「数日前だァ?」
「あのなァ、日数なんて関係ねェんだぞ、トシよォ」
「…なんで誤解が解けたんだ」

近藤達全員が思っていたことを土方が問うと、奏と松平は顔を見合わせた。

「コイツのせ――」
「ちょちょ、」

何かを言おうとした松平を奏が慌てて止めた。目を細めて小刻みに首を横に振っている。

「やっぱりィ?」
「まあ…はい」

神妙な顔で見合う二人は、近藤達の方を向くと何事も無かったかのように口を閉じた。当然土方の眉間に皺が寄る。

「なんだよ」
「いやァ、ちょっとねェ」
「あのーすいませーん。原付引き取りに来いって言われたんですけどー」

襖の向こう、庭から気の抜けた声が聞こえ、一同はそちらに目をやった。立場が一番下の山崎が近藤に許可を得て襖を開ける。

「あ、」
「あ!?奏!」
「さ、坂田さん!?」
「おまっ、こんな所にいたの?道に迷ったのか?迷子か!?」
「ご、ごめんなさ、」
「ったく…神楽なんて泣いてお前探してたんだぞ」
「おい、やっぱ知り合いじゃねーか」

相変わらず機嫌の悪い声に、奏はしまったと顔をしかめた。

「め、迷惑かけると思って、」
「嘘ばっかつきやがってテメェ」
「嘘ばっかじゃ、」
「うるせェ!」
「ちょっとちょっと多串くん」
――多串…?
「うちの子にワンワン吠えないでくれる?おい、けーるぞ」
「あ、は、はい!」
「テメッ、おい、勝手に帰るんじゃねェ!」
「とっつぁん、もう帰してもいいの?」
「おう、何もねェしな。じゃあな、奏ちゃん」
「はい。じゃあまた…松平さん、山崎さん」

にこりと笑った奏の言葉に、近藤は仕方なさそうに笑い、土方は舌打ち、沖田は口の端を持ち上げた。







「奏ェエエ!!!」


ドスッ


「ウッ、」

神楽の激しいタックルを受けた奏は苦しそうに呻いた。倒れなかったのは、後ろに立つ坂田が支えてくれたおかげだ。

「か、神楽ちゃん…。心配かけてごめんね…?」

ウワアアアンと奏の腰に抱き着いて泣く神楽の頭をそっと撫でる。たった数日一緒に過ごしただけなのにこんなに懐いてくれていたのかと嬉しくもあり、そんな神楽達を置いて勝手に消えようとしていた自分を恥ずかしく思った。

「ごめんね、」
「ううー…、もう勝手にいなくなっちゃだめアル……。…奏のおっぱい柔らかいアル…グスッ」
「次俺に変わってくれ」
「死ね天パ」

奏の胸に顔を埋めたまま吐かれた辛辣な言葉に奏は笑い、坂田は奏の頭をポンポンと撫でた。その後出勤してきた新八も良かったと目を潤ませ、奏行方不明事件は穏やかに幕を下ろした。



10.めでたしめでたし



12/07/09



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