外伝「監視で護衛で教育係」


注意)
・本編「忍への入り口」の隙間時間の補完
・このお話はオリジナルキャラしか出てこないです


***


前もって渡されていたメモを頼りにサキは地下演習場はとやってきた。八歳のサキにとってはいささか重たい扉を開くと、そこには黒髪と茶髪の二人の男が立っていた。

黒髪の方はサキを見るとニコリと笑った。

「迷わずに来れたね。よかった。それじゃ改めて自己紹介しようか」

そして先ずは自分がと胸に手を当てて話し始めた。

「僕はヒラ。昨日付でサキちゃんの監視と護衛と教育係を三代目より任されました」

「得意分野は医療忍術。ああ、でも心配しないでね。暗部出身だから戦闘面の訓練もしっかり行なっているし、三代目の元で幅広く忍術の研究をしているから」

「好きな食べ物はね、」

淀みなく話すヒラの言葉を遮るようにして、隣にいた茶髪男が彼の顔面に平手を喰らわせた。

「長い」

昨日会った時から感じていたが、確かにヒラはお喋りな人だった。そして――

「ユサだ。お前も早く名前を言え。本題に入れない」

ユサの方はあまり話さない。それに少々威圧的だからちょっと怖い気もする。

「あーもう、痛いな。あのね、ユサは感知に秀でた忍なんだよ。今後の生活でかなりお世話になると思うから、コイツ愛想ないけど仲良くしてあげてね」

サキは首を縦に振って、はいと答えた。
ずっと笑顔を浮かべるヒラと対照的にユサはムスッと眉間に皺を寄せてばかりだ。
そんな二人をまとめた第一印象は正反対だなということと、だからこそ相性が良いのかもということ。

昨日、九尾の封印解除を失敗し、三代目火影とこの二人に秘密を打ち明けてから、話し合いの末に彼らの世話になることになった。

さて、今度はサキの番。
背筋を伸ばして気合いを入れ直す。
改めまして――

「サキです。今日からよろしくお願いします!」





それから本題であった今後のスケジュール調整をして、ヒラが持参した弁当屋の高級弁当で親睦を深めるための食事会となった。

正方形の箱は四つに仕切られていて、左下には白米が詰められており、その上に梅干しが乗っていた。左上には季節ものの野菜の天ぷら、右下は酢の物や煮物や漬け物などがそれぞれ少しずつ。右上は焼肉がぎっしりと。

食べたことのない料理もあり、サキは一品ずつ味わって食べた。弁当を買ってきた張本人は美味しそうに食べるサキの姿を見て満足そうだった。

「サキちゃんっていつもご飯はどうしてるの?インスタント食品?」
「ううん、作ってるよ。そっちの方が節約できるから」
「へえ、えらいね。ユサも見習ったら?自炊」
「お前にだけは言われたくない」
「僕は時間が取れないだけですー」

どうやら二人とも自炊はしていないらしい。というか彼らの歳で自炊云々を言うということは、彼らも親がいないのかもしれないとサキは頭の片隅で考えた。
自分にも特殊な事情があったように、この二人にも何かしら事情があるのだろう。でなければ十五歳という歳で火影直属の暗部にはならないはずだ。

「暗部ってやっぱり忙しいの?」
「そうだね、忙しいかな。もしかして暗部の仕事に興味がある?」
「何をしてるのかは少し気になる」
「サキちゃんが暗部に入ることになったら教えてあげるよ」
「えー、意外とケチ」
「ケチかー。でも秘密をベラベラ話す奴は信用できないでしょう」


ーー確かに。

サキは大きく頷いた。九尾のことや夢のことを安易に他の人に話されては困る。口が固い人間に越したことはない。


「とはいえサキちゃんの秘密ばかりこちらが知るのもなんだから、サキちゃんから僕らに質問する権利をあげよう」
「え!?」
「おい、オレは答えねえぞ」
「何でもいいよ。答えられるものに限り答えてあげる」

ヒラ(それからユサも)はもう弁当を平らげたようで、サキの質問を待つ。急に言われてもなとサキは困った。

「えっと、、」
「あ、好きな食べ物は白米だよ」
「まだ何も聞いてないよ」
「さっきの自己紹介、ユサに邪魔されたからさ」
「ああ、じゃあ……」

どうせ聞くなら世間話で聞ける以外のものがいい。今日、この場だからこそ聞けることーー


「昨日の事件について、二人の率直な意見が聞きたい。それから、今の私に対する評価も」

「お前本当に子供か?」

そう呟いたのはしばらく口を閉ざしていたユサだった。サキが投げた質問に対する答えのように、警戒心を持ってこちらを睨んできた。

「それともとんでもないマゾヒストか」
「まぞ、、なに?」
「マゾヒストは肉体的精神的屈辱を受けると喜ぶ人のことだね」
「はあ!?」

サキもユサの方を睨んだ。最低評価であることは自覚していたが、実際に相手の口から聞くのと憶測とでは重みが違う。
今後のために聞いてるのに何でそれをマゾヒストなんて言葉で括られなければいけないんだ。

「……お前の質問に答えるだけだから、お前の意見は返さなくていい」
「分かった」

こう前置きをするということは容赦ない言葉を返されるということで、サキはわざわざ座り直して口撃に備えた。

「九尾を自由にしたいなんて冗談じゃない。善悪を判断できないガキのくせに、九尾の言葉に乗せられて、さも良いことみたいに自由だ解放だ口にして。キモいんだよ」

最後はストレートな悪口だった。ユサって口が悪い。
親睦を深めるための食事会だったはずなのに、サキとユサの間には今にも火花が弾けそうだった。

にも関わらずヒラは表情を崩さずに、笑顔のまま変わらぬ声色で仲裁した。

「二人とも仲悪いねー。でも仲良くしてくれないと困るよ、長い付き合いになるだろうから」

サキはグッと堪えて、ヒラの方を向いた。

「……、じゃあヒラの意見は?」

「僕?僕はね、昨日の事件についてはとても驚いたかな。里外から来た子供が九尾と繋がって、たった三ヶ月であんな行動に移すなんてーって」

「だからユサと同様に危険視はしてるけど、同じくらい何かやり遂げるかもしれないなって期待もしてる」

ーー期待?

そんな言葉を使われたら、サキが嬉しくなるのも無理はなかった。

「ありがとう、私頑張るから。絶対に九尾を自由にするからね」
「うん、まあ別にその夢は応援してないけどね」

数秒ヒラの綺麗に弧を描く目と見つめ合う。
そして、ですよね…とサキは肩を落とした。

「ヒラ、人を持ち上げるの上手いね」
「そう?でもサキちゃんがこれからやっていくべきはこういう事なんだよ。相手をその気にさせること」

今九尾を自由にするという目標を持っているのはサキと九尾だけ。それを叶えるためには、もっと多くの人間の同意が必要で。
その気にさせるというのはそういう意味なんだろう。

だからヒラはこうも言った。

「手始めに僕らで試してみなよ。その壮大な夢のために。僕たち、サキちゃんがどんな道を進むのかは興味あるからさ」

ヒラは隣に座るユサの肩を抱いた。ユサは盛大にため息をついたが、その後でサキの目をじっと見つめた。

「危険行為は即取り締まるからな」

「分かった」


ーーこの二人は私の監視で護衛で教育係。

彼らとの出会いがサキの未来を変えてくれた。

そしてサキもまた、この二人の未来を変えることになるが、それはまだ先のこと。


ユサとヒラの話@(完)

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