九喇嘛
四尾のチャクラは完全に外道魔像に吸収され、元人柱力であった老紫の体が冷たく地面に横たわっていた。胸の杭は完全に消えていて、もう尾獣化される事はないだろう。
ようやく一体、だがまだ敵には五体の尾獣が残っている。それなのにナルトは既にチャクラ切れで、地面に手をつき肩を大きく上げ下げして呼吸を繰り返していた。
仮面の男は外道魔像の上からナルトを見下した。
「一匹止めるだけでくたばりそうだな。しかし出し惜しみは無しだ。お前らの大事な尾獣はコイツらでいただく」
仮面の男が印を結ぶと、サキ、カカシ、ガイの眼前にいた五人の人柱力が完全尾獣化した。尾獣チャクラモードでさえ難敵だったのに、一気に五体も。
『力を貸して欲しけりゃ、そうしてやらん事もないぞ……ナルト』
九尾がナルトに声をかけてている間、尾獣らはサキ達に向かって至近距離から尾獣玉を撃つ構えをとった。
目の前で白と黒のチャクラが合わさり、五つの黒球になっていく。
「こうなったら八門を……」
「バカ、それじゃ後でお前が死ぬでしょ。俺の左眼の神威で飛ばす」
「この数はカカシさんでも飛ばせませんよ!チャクラ切らして死にたいんですか!?」
「ぐぬぬ、だが何もしなければ死ぬ状況だぞ!」
(……賭けになるけどアレを試すしかないのか)
絶体絶命の場面にオレンジ色の閃光が走った。
五つの尾獣玉が弾き返され、各々遠くの山を消し飛ばす程の大爆発を起こした。
こんな事ができるのは二人しかいない――
「行くぜ!九喇嘛!!」
ナルトと九尾だ――――
姿をきちんと確認する前に、完全尾獣化した彼等に守られるようにサキ達は九尾チャクラの中に取り込まれた。そしてその闘いっぷりを間近で見る。
サキの想像よりも二人の力は凄まじく、五体の尾獣相手に対等に渡り合うほどの力を持っていた。
五体の杭を一斉に掴み、ナルトと九尾は尾獣達の深層心理へと入り込んでいった。
=???=
「待ってたぜ」
ナルトと九喇嘛の目の前には二尾、三尾、五尾、六尾、七尾、それに人柱力だった者達がいた。尾獣達は孫の時と違い背中に鎖をつけておらず、そこは前よりも落ち着いた空間だった。
「よく来てくれたな。人柱力と尾獣を代表して感謝する」
そう言ったのは三尾の上にいた若い男だった。左目に傷があるが、ナルトと同い年かそれより幼い顔をしていた。ナルトは自分よりも年下なのに死んでしまった人柱力がいることに涙したが、彼はれっきとした元四代目水影で大人だった。
「四尾の言ってた通り、話聞かねー奴だな!」
「四尾って、、じゃあここに孫もいたのかよ」
「そうだ」
孫と人柱力の老紫は魔像に戻される前に皆に言葉を言い残した。ナルトに聞かせ渡してやって欲しいものがあると。それからもう一つ、サキについての言伝も。
「ナルトくん、真ん中に来て手を出してください」
二尾、又旅は一番にナルトに本名を名乗った。そして人柱力の二位ユギト――
全員がナルトに名乗り、チャクラを渡す。
(お前が見たかったのはコレだろう。サキ……)
人間であるナルトが尾獣を助けたいと願い奮闘し、尾獣はナルトに力を貸す。互いに助け合うという共存が九喇嘛の目の前で形になっていた。
(ナルトは間違いなく"本物"の架け橋、その器だ)
***
現実に意識を戻したナルトは一気に杭を引き抜いた。
仮面の男による縛りの鎖は消え去り、五体の尾獣は外道魔像に取り込まれていく。
その瞬間、ナルトと九喇嘛の尾獣化は解かれて、皆地面に着地した。持続時間はほんの数分だった。
「九尾まで完全にコントロールするとはな。だがまだ長続きしないようだな。それで今まで通りだ」
「今まで通りじゃねぇ。難しい名前一度に教えてもらったからよ!!」
その発言でサキの目は熱くなった。
又旅、磯撫、孫悟空、穆王、犀犬、重明、それに九喇嘛……難しい名前っていうのはつまりナルトが皆に会って認められてきたという事。
以前にも増して大きく逞しくなった背中から九尾の他に二尾から七尾までのチャクラを感じた。
「サキ!!みんなからの伝言!!」
勢いよく振り返ったナルトが歯を見せて笑って見せた。
「"面と向かって謝れ、そうしたら許してやる"って」
「ッ……」
「オレが絶対にサキとみんなを会わせる。だからサキは感動的な再会の言葉考えとくってばよ!」
目から熱いものが溢れそうな気がして反射で手で目を擦った。
「うん……ありがとう」
「って泣いてる!?」
「泣いてない!バカ!………雨が目に入っただけ」
ポツリポツリと上空から水滴が落ちてきた。見上げるとどんよりと重く暗い雲が空いっぱいに広がっていて、そして一気にバケツをひっくり返したような強い雨になった。
その雨はサキの嬉し涙を隠すだけでなく、仮面の男の焦る心さえも紛らわせた。
戦況が変わる。相手はもう尾獣達を出すことはないだろう。仮面の男一人と外道魔像、対してこちらは九喇嘛と牛鬼を含めて七人。外道魔像を奪えればこちらが一気に優勢になる。
サキはナルトの隣に足を進めた。
「行こう。みんなを助けよう」
「ああ!」
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