尾獣を救うために


結界の中で暮らすので十分だった。どうして人間と関わりたがるのか分からなかった。
流れている時間が違う。持っている力も違う。
どうして共生が必要なんだ、百害あって一理なしだと、恐らく全ての尾獣が思っていた。

その不安は現実のものとなり、尾獣は人間に封印されて自由を失った。

恨まれて当たり前だ、あんな奴…………
あんな人間ども。
今まで仕舞い込んでいた憎しみが溢れ、全てを恨むようになった。

それから生まれ変わったサキと再会し、奴がまた性懲りも無く人間との架け橋になってくれると推してきたのがうずまきナルト。
ガキの頃からバカみたいに火影だなんだと抜かしていた、九尾を十六年ずっと縛ってきた身体の主。

どうせコイツもうちはマダラ、千手柱間、そして歴代人柱力と同じ。そう思っていた――

『なあ九尾。オレはな、いつかおめーの中の憎しみも何とかしたいって思ってる』

『オレ、サキの夢叶えてやりたいんだ。サキには幸せになって欲しいし、笑ってて欲しいと思ってる。サキのこと好きだからさ』

『尾獣と一緒にいることが不幸せだと勝手に思いこむんじゃねーよ』

口だけなら何とでも言える。

お前に何ができる。


外ではナルトが完全尾獣化した四尾に食われたところだった。このまま四尾ごと魔像に吸収されれば十尾は復活して、無限月読が実現してしまう。そんな危機的状況にも関わらず、九尾はじっとナルトの動向を窺った。

お前が本当に信用に足る器ならばその証明が必要だ。
この状況を切り抜けて――――






=???=

「今度はお前がオレの力をぶん取る気か。こんな所にまで入ってきやがって。クソガキキィーー!」

ナルトの目の前には鎖で動きを封じられている真っ赤の大猿がいた。大きさは九尾並み、背後には四本の尾があって、怒りのあまりか四本ともピンと張っていた。

「何だ、これって四尾!?」
「オレを四尾なんて呼ぶんじゃねえ!ちゃんと名前がある!」

すぅと息を吸う音がした後、四尾は流れるように口上を述べた。

「オレは水簾洞の美猿王、六道仙人より孫の法号を与えられし仙猿の王。孫悟空斉天大聖だ!ウキキィー!!」

それはそれは大迫力の名乗りだった……ただ長すぎた。ナルトは耳を傾けていたものの、一体全体どれが名前なのか分からず首を傾げた。

「ん?どれが名前?ウキキィー?」
「孫悟空だ!!」
「ってか何だここ!?九尾のとこと似てるけど」
「聞いてんのかテメー!オレ様の名前聞いた上に無視だと!?失礼すぎんだろ!」

せっかく名前を訂正したというのに、それを無視して勝手に盛り上がったナルト。孫悟空と名乗った大猿が怒鳴り叱るとナルトはビックリして素直に「ごめん」と謝った。

(これまで尾獣に謝ってきた人間はいなかった――)

地獄みたいな八十年間を振り返って、孫悟空はナルトのことを珍しがった。よくよく観察すると彼の中に懐かしいチャクラがあることに気づく。

「だからここに入れたのか……九喇嘛は人柱力の仕付けがいいと見える」
「クラマって?」
「てめ……九尾の本名も知らねーで九尾の人柱力やってんのか!?これだから人間は」
「え!?九尾にも名前あったの!?」

中にいた九尾は不機嫌そうに舌打ちをした。
馴れ合いたくなかったから、わざわざサキにも口止めしていたというのに……四尾に暴露されるとは不愉快だ、といった顔で。

「そっか……クラマってんだ」

九尾とは反対にナルトは嬉しそうに、照れ臭そうに笑った。


人間は尾獣をただの力としか見てこなかった。
かつて結界が消滅し人の世に顕現した尾獣達、仲間の遺言に従い人間を傷つけなかったにも関わらず、人間達は尾獣を閉じ込め存在を否定してきた。

けれどいきなりこの空間に入ってきた人間は何か違うみたいだ。これまでの人柱力と何かが違う――
四尾は落ち着いた声でナルトに問いかけた。

「お前はオレ達をどうしたいんだ」
「どうしたいか?ンー……ビーのおっちゃんと八尾みてーになりてぇ」
「は?」
「八尾と冗談言い合ったり、喧嘩したり、励まし合ったり……まるで友達みてーでよ。んであの二人を見ていつもこう思うんだ」

「むっっっちゃ……羨ましいってよ」

"友達"なんて予想の斜め上をいく回答に思わず、孫悟空はガハハと笑い出した。

「人間のお前がまさか本気で尾獣と友達になりてえなんて言うんじゃねーだろうな!」
「……」

ナルトは何も言わずに真っ直ぐ孫悟空を見つめた。
青い瞳は逸らされる気配はなく、心の底から思っていることが分かり、孫悟空は笑うのを止めた。

「だからオレはお前も助けてえ……えっと」
「ハァ、孫でいい」

仮面の男よりはコイツの方がマシだと、孫はナルトに尾獣を止める方法を教えた。


***


現実へ意識の戻ってきたナルトは孫の言葉に従い、身体に刺さった杭を抜くことを目指す。
先ずは孫の口の中からの脱出だ。思いつきで口の中で多重影分身をして大量のナルトが吐き出された。

そして外へ出たナルト本体は孫の首元へ移動し、九尾チャクラモードで杭を掴み引っ張った。しかしその杭は仮面の男が細工をしていて、触れた瞬間に鎖が現れナルトを縛った。

ペイン長門の外道の力よりはるかに強い縛りに、結局今まで通り……とナルトの腹の中で九尾が目を伏せた。
だがナルトのチャクラは本体だけではなかった。もう一つのチャクラ体が四尾の口の中に残っている。それが分かった九尾はニヤリと笑った。

(ナルト……お前がワシ達尾獣のために本気で何かしてやりてーと本心で思うなら――)

ナルトの影分身は自然チャクラを集め仙人モードになっていた。感知能力の研ぎ澄まされた影分身が四尾の気管を降って、鎖を引っ張る本体のチャクラを捉える。そして右手を振りかぶった。

(行動で証明しろ!それがお前だろ!!)

「蛙たたき!!」

内側から伝播した力によって杭がズボっと抜けた。
勢いよく後ろに落ちていくナルトの体を孫がキャッチし、そしてチャクラ同士が触れ合って、ナルトはまた孫悟空のいる精神空間へ誘われた。




=精神空間=

杭を抜いたにも関わらず、孫の鎖は完全に消えていなかった。背中にひとつだけ大きな鎖が残っていて、後ろへと連れていかれようとしていた。

その先で待ち構えているのは現実で口寄せされている外道魔像だ。
ナルトに抜かせた杭は穢土転生された人柱力の体に一時的に尾獣チャクラを縛る為のもので、本当の意味で助ける術ではない。

孫の説明でそれを知ったナルトは「それじゃお前を助けたことにならねーだろうが!」と怒りをぶつけた。

「お前、それ本気で言ってるのか」
「ったりめーだ!!」

息を乱して本気で悔しがっているナルトを見て、孫は拳を出すように言った。

「お前に渡してーモンがある」
「ん?何くれんの?」
「良いものだ、そのうち役に立つぜ」

触れた拳から孫のチャクラが流れ込んできた。
ナルトはニッと笑って礼を言う。けれど孫の方はむしろ少しだけ顔を曇らせた。
ナルトからほんの一部だけだが記憶が流れ込んできた。

「お前、アイツの生まれ変わりと親しいのか」
「え、あ、サキのこと!?」

孫の声色でサキと尾獣達に出来た溝のことを思い出したナルトは、これ以上サキのことを悪く思って欲しくないと思って孫に向かって叫んだ。

「サキも孫たちを救うために、ずっと!……ずっと戦ってきたんだってばよ。人と尾獣が一緒に生きれるようにって誰よりも!」
「ハァ……アイツの人間好きは変わらずか」

ナルトが更に弁解しようとすると孫が右の掌を突き出して、もう何も言うなと暗に述べた。そしてジリジリと鎖で後ろに引きずられながら、ナルトに言葉を託した。

「……アイツに伝えとけ。"面と向かって謝りやがれ、そしたら許してやる"ってな!ウキキィー」

「絶対伝えるってばよ!」

「変な人柱力だな、お前。アイツが好きになるわけだ」


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