九尾との出会い


木ノ葉の里の大きな出入り門の脇で、黒い大きな布に包まって発見されたらしい。更に不運なことに記憶がなく、親も生まれも分からなかった。
布に縫い合わされた紙に"サキ、八歳"と書いてあったので、名前はサキで八歳らしかった。

おかしなことにサキは記憶喪失の八歳の少女にしては物分かりが早く、大人の質問にすらすらと答えた。他里からのスパイなのではないかと疑惑をかけられたが、チャクラの経絡系が一度も開かれたことがないことから一般人だと判別され、少し面倒な手続きを経て里で保護されることが決まった。

里親探しの間、サキは里が管理しているアパートの一室を借りることになった。そのアパートには同い年の男の子が一人で住んでいて、子供でも過ごせるよう補助がつくから安心していいと紹介人が言っていた。

でも入居初日、その男の子には会えなかった。どうやら彼は忍の学校に通ってるようで、日中は忙しいらしい。
支給品の整理をしているうちに夜になってしまい、サキはベッドに横になった。

(知らない場所にいるのに、親もいないのに、何にも覚えてないのに……大人たちが言うように泣きもしないなんて確かに気味悪い、かもな)

自分自身のことが何もわからない。けれど不思議と不安は湧かなかった。
サキはうなされることもなく、スッと眠りについた。




=???=

ピチャ ピチャ

(水音?今日は雨なのか。あまり寝た気がしないけど、今日は街を回って、それで)

ピチャ

視界が開けていくと、白い天井ではなく黄みがかった暗い空間にいた。雨だと思った音はどこからか床に落下する水の音ーー

「うわ、何ここ。私水の上に立ってる、凄い」

その場でしゃがんでみても、水面にしっかり足が乗っていて、沈んでしまうことはない。歩けるし、走れる。水面が遠くまで続いていてこれは夢なんだと確信して、サキは辺りを散策してみた。

ピチャ ピチャ  

グルルルルル


突然水音の他に動物の鳴き声が混ざった。
これはどんな夢なんだろうと気になって音の鳴る方向に進んでいくと、大きな檻を見つけた。

「何これ」

唸り声は確かに檻の中から聞こえる。
檻に近づいて目を凝らしてみると、巨大な影が動いた。

「……何故ここにいる」
「あ、え?」

ドシンドシンと水面を激しく揺らしながら、巨大な影が檻の向こうから近づいてきた。黄色の空間が照明がわりになって、段々とそれの姿が見えた。

下から上に視線を上げていく。子どものサキからすれば全体を見るのも一苦労の大きさだった。

赤い狐だ。
顔立ちがやけに怖くて、尻尾が九本ある。


「狐?夢だとしても大きすぎる」
「何言ってるんだ、お前」
「あなた人の言葉がわかるんだ。凄い!!どうして?」
「おい」
「狐だよね?しかも尻尾が九本もある。カッコいいなー」

サキは興奮のあまり狐の言葉を無視して、檻の外から感想を述べ始めた。狐の方もその姿を見て段々と顔を顰めていった。

「おい……おい!!」
「は、はい!!」
「いつまでベラベラと話しているんだ。お前名前は」
「私?サキだけど」

狐は赤い目をさらにカッと開いた。そんな目に凝視されて、興奮状態だったサキも流石に狼狽えてしまう。

「え、何?名前変かな?サキらしいんだ。捨て子でね、布に名前が縫い付けられてたんだけど」
「何の記憶もないのか」
「そう。記憶喪失らしい。木ノ葉の里に拾われるまでの記憶何にもないの」

狐はサキのことをじっと観察した。
そのまま数分経ち、我慢できなくなったサキが照れ笑いを浮かべると、狐はまた口を開いた。

「サキと言ったな、お前ワシに協力してみないか」

赤い狐は初めて笑って見せた。
目つきが元々悪いため、それはそれは凶悪な顔だった。

「協力って?」
「この檻を開けるために手を貸せ。その代わりここを出たら今度はワシがお前に力を貸してやろう」
「この檻を開けるの?良いけど、こんな大きな檻私の力じゃ動かせないよ。それとも夢の中じゃ超パワーとか使えるのかな」

サキは試しに檻を押してみるが壁みたいにびくともしない。夢だというのに超パワーは使えないようだった。

「この檻には封印がかけられている」
「封印?」

気に留めていなかったが、視線を上げると中央の支柱には"封"と書かれた紙が貼ってあった。

(おお、封印っぽい)

「忌々しい四代目の封印だ。いいか、目が覚めたら"うずまきナルト"に会え」
「うずまきナルト?目が覚めたらって、これ夢だよね。あれ。うずまきナルトは現実にいる人間ってこと?」
「そうだ。ワシはうずまきナルトの体に封印されている。あとこれは夢ではない。現実だ」
「へえ、、へー?現実?」

朝を迎える前に別空間にいて、そこに見たことない大きな狐がいたら、夢以外に何があるんだろうと、サキは狐の言葉に首を傾げた。
理解が追いつかないサキを見ながら、赤い狐は長い耳を伏せてため息をついた。

「理解できないなら今は夢と思っておけ。どうせ目が覚めたら全て覚えている。後から確認しろ、現実だとな」
「うん。でも封印ってさ、もしかして悪いことでもしたの?」
「……」

長い沈黙の後、「元々悪いのは人間の方だ」と狐は呟いた。鋭い目つきでサキの方を睨んで、これ以上聞くなと牽制してるように思えて、サキはどういう意味、と続く質問を仕舞い込んだ。

「……分かった。協力するよ。うずまきナルトについてもっと教えて。えっと、現実の人間だもんね」
「お前今いくつだ」
「八歳だよ」
「なら同い年の男のガキだ。金髪碧眼。お前がこの空間に来れたってことは近くにいるはずだ。すぐ見つけられる」
「ふうん。近くにいるってことは同じ里?うん、もともと明日は里を回る予定だし探してみるよ。会えたら封印を解けって言えばいい?」
「いや、ナルトはワシが体内にいることを知らない。里の連中に隠されてるからな。怪しまれると動きづらい。まずは何も言わずに取り入って、二人きりで里の外に出るチャンスを作れ」
「要するに狐さんのことは伏せて、普通に友達になれってことだね。よし!」
「接触できたら今後の予定をもっと話してやる。あと重要なことを忘れていた。里の人間にもワシのことを言うなよ。お前は外から来た人間だからワシのことは知っていてはおかしい」
「……物凄く訳ありなんだね。うん。協力するからには約束は守るよ」

サキは檻の中へと右手を突っ込んだ。

「よろしくね、えーっと狐さんの名前は?」
「……九尾だ」
「九尾!すぐに出せるように頑張るね」

九尾は九本の尻尾のうち一本を差し出してサキの手に合わせた。


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