約束のお泊まり


=木ノ葉の里 火影岩=

暁の襲撃により多大な被害を受けた里も、波の国から派遣された腕利き大工の手助けもあり、かなり復興が進んでいた。五影会談を終えて一週間、徐々に家などが立ち並び町と呼べる区画が増えてきた頃だった。

サキは夕暮れ時の人気のない時間に三代目の顔岩の上に降り立った。

(報告はいつ以来だろう)

ペイン襲撃により木ノ葉崩しの際の慰霊碑は消えてしまい、この里に残ったものの中では一番三代目に近いスポットになる。サキは復興中の木ノ葉の里を一望しながら心の中で三代目に今まであったことを語る。

(尾獣がきっかけでまた戦争が起きてしまうことになりました。でも必ず勝ってこの世界を守ります。そして正しい方法で尾獣を認めてもらう……)

(見守っていてください)


そしてユサとヒラにも。

(ユサ、ヒラ。守ってくれてありがとう。二人が守ってくれた命は、必ずこの世界に還元するからね)


そうして暗くなっていく里をじっと眺めていること数十分。これからの事をぼんやりと考えていた。そんな時――


「あんまり長居していると体冷えちゃうよ」

背後から落ち着いた声がして振り返って見れば、ポケットに手を入れてやや気の抜けたカカシが立っていた。サスケの件で走っていた緊張感は既にないようだった。

「そろそろ帰りますよ。何だかカカシさんの顔久しぶりに見た気がする」
「里に戻ってきてからお互い忙しかったからね。顔岩の上じゃ落ち着かないから上に行かない?」

カカシに腕を掴まれ、会って早々に崖の上まで引っ張っられた。崖を登ってすぐその手は離されて、1メートル程距離をとって向かい合った。


「何か用事ですか?綱手様からの呼び出しがあったとか?」
「呼びに来たの」
「ん?」
「はあ……人の気持ちをめちゃくちゃに揺さぶっておいて忘れちゃったわけね」

戦争関連の呼び出しかと思いきや、そういうことではないようだ。カカシの気持ち……とサキは五影会談に行く以前のテントでの会話を思い出す。

「……あ、もしかしてお家出来上がったんですか?」
「……」

カカシは無言のまま、手を伸ばしてサキの鼻先をギュッと摘んだ。

「忘れてたでしょ」
「いえいえ、戦争関連が先に浮かんだだけで、覚えてましたよ。でもちょっと回りくどかったから」
「……回りくどくて悪かったね」

不機嫌になったカカシは背を向けて歩いて行こうとする。あのカカシがわざわざ迎えに来てくれたことが嬉しくて、自然と頬が緩む。カカシが遠ざかってしまう前に背後から飛びついた。

「家の場所知らないんだから先に行かないでくださいよ」
「……本当に来てくれるの?」

カカシの意図することが分からないほど子供じゃない。そもそも先に泊まりに行きたいと言ったのはサキの方で、サキはカカシに回している手を強めた。

「行きたいです。カカシさんのお家」
「……ハァ、最近の若い子は積極的だねえ」
「積極的な子は嫌ですか?」
「いや、好きだよ」

サキが手を離すと、カカシは180度回ってゆっくりと彼女の身体を抱き寄せた。腕の中に収まるサキもカカシの背中に手を回す。
事故みたいな形で進展した二人だが、相手への好意は今も確実に存在していて、それを確かめるように数分間抱き合った。





=カカシの家=

泊まりということで現在サキが寝泊まりしてる仮設テントに寄って着替えを持って行く。到着したカカシの家は完全木造の簡素な1DKだった。
玄関からすぐトイレと風呂があって、廊下を抜けるとダイニングキッチンがあり、その奥は寝室になってるのだと一通り説明された。家具は必要最低限、何だったら段ボールに支給品がそのまま入ってる。

「夜ご飯……といっても缶詰しかないんだけどいい?」
「大丈夫です。贅沢なんて言いませんよ」

カカシはキッチン脇の段ボールから缶を二つ持ってきてダイニングテーブルに並べた。パッケージには"炊き込みご飯"と書いてある。

「物流は戻ってきてるし、お店も一部やってるらしいから、買い物に行けてれば簡単な料理くらい振る舞えたんだけど……日中はなかなか行けなくて。せっかく来てもらったのにごめんね」
「ご飯が食べれるだけで嬉しいですよ。ずっと戦争に向けて作戦会議ばっかりですもんね」
「そうね。サキも尾獣関連での呼び出し大変でしょ」
「……ソウデスネ」


サキは缶を開けながら、ここ数日あったことを思い出して苦笑いを浮かべた。

尾獣の自由化を求める人型尾獣の存在は瞬く間に他里含めて忍世界に知れ渡り、各国の大名や相談役らにも話が通って、通信による各国のお偉い方との話し合いの場が設けられた。
サキは前世であったことを一から説明して、最終的には戦争後の尾獣の処遇について提案した。里同士の戦争がなくなった昨今、尾獣は里内でも脅威で邪魔でしかない。けれど自由にするのは危険だと非難の的になった。

結局一回の話し合いでは決まらず数日にわたって話し合い、今日の会議なんかはもう処分しようだのととんでもない案が出たところで終了し、また明日続きをすることになった。

(とにかく戦争が始まる前に、戦争直後の尾獣の安全確保だけはしておかないと。あのお偉い方を頷かせるのは骨が折れそう……)


缶詰の蓋を開けきって冷めた炊き込みご飯が姿を表すと、サキはハッと顔を上げてカカシの顔を見た。

(ようやく下の顔見れる!)

だが視界に入ったカカシはマスクをしたまま、既に缶は空になっていて、本当に味わって食べたのか疑問に思うほどのスピードで食事が終わっていた。

「ハア!?早すぎませんか」
「もともと食べるのが早いんだよ」
「えー、胃に悪そう」

サキは缶の中のごはんをスプーンで掬って口へ運ぶ。
温かい炊き立てご飯には劣るが、案外美味しいなと思いながら飲み込んだ。

「美味しい?」
「はい……って、そんなに見られると食べづらいです」
「サキだって俺の顔見ようとしてたでしょ」

なんて大人気ない……
サキは頬杖をついて向かいから見つめてくるカカシをなるべく視界に入れないようにご飯を頬張っていった。


「ごちそうさまでした……」
「フフ、随分お疲れだね」
「カカシさんがずっと見てくるからですよ。もう!」

好きな人がずっと見つめてくるなんて緊張するに決まってる。分かってやってると思うと腹が立って、顔に空き缶を投げてやろうかとも考えたが、支給品の缶詰といえどご馳走になった側だからと気を落ち着かせる。
そして頭がクリアになったところで、ふと前から聞こうと思っていた事が脳内に浮かんできた。


「私カカシさんに聞いてみたかった事があるんですけど」
「なに?」
「カカシさんの昔話」
「あー……」
「カカシさんのお父さんとか、墓参りしてる人のこととか……私はカカシさんに自分のこと洗いざらい話してるのに、カカシさんは私に自分の話してくれないから。どうしても無理なら断念しますけど……」
「んー、自分のことを話すのはあんま得意じゃないんだけど。そうだね、サキには話そうかな」


それからカカシは白い牙と呼ばれた父親のこと、ナルトの父、四代目波風ミナトが隊長で世話になったことや、チームメイトだったうちはオビト、のはらリンのことを話していく。
そしてカカシの写輪眼は亡くなったオビトからもらったものだと知った。

楽しかった思い出も、辛い凄惨な過去も。
立て続けに大切な人を失って辛かっただろう。
それでも腐らずにここまで最前線で戦い続けて来たのだ。サキはカカシに労いの言葉をかける。

「オビトさんもリンさんも、サクモさんも四代目も……カカシさんが立派な忍に、先生になって嬉しいと思いますよ。仲間を大切にするカカシさんのルーツが知れて良かったです。話してくださってありがとうございました」
「……自分のことをこんなに話したのは初めてだ」
「お互い様ですよ」

カカシは少し寂しそうな目でサキを見つめた。サキは故人のことを思い出したからだろうと、それ以上踏み込まないことにした。



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