八尾との再会
=???=
ナルトと話をした晩は、思い出した八尾のチャクラ性質を頼りに精神空間へと無理やり入ってやった。
暗い空間の中に灰色がかった薄赤色が見え、入って早々サキは蛸足に掴まれた。
「おいおい、お前まさか」
蛸足が動き、サキの体が持ち上がる。
相手の顔と同じ高さまで連れていかれると、大きな白目と目があった。
「サキだよ。久しぶりだね、牛鬼」
幽霊でも見てるかの如く、白目が何度も瞬きをしている。
「いつの間に生き返ってたんだ」
「十六年前、かな?実は人間に転生しててさ、最近記憶を取り戻したばかりで、ようやく会いに来れたの」
牛鬼は大きな右手でサキの頭を摘んだ。
そして人間の可動域ギリギリまで回していく。
「マジで本物か」
「本物だよ。じゃなきゃここまで入ってこれないよ。ねえ、頭ちぎれそう」
「悪い悪い」
ゆっくり床面に降ろされ蛸足から解放されると、今度はサキが下から牛鬼を見上げた。昔と変わらず五体満足な姿を見てひとまず安心する。
牛鬼に会えた喜びを一旦胸にしまって、まずは頭を下げた。
「私のせいで人間に封印させられて……長年辛い思いをさせてごめんなさい!」
「謝りに来たのか」
「うん」
牛鬼は何も返さなくて、暫く沈黙が続いた。
前世の記憶では牛鬼はかなり怒っていた。罵声も攻撃も覚悟して、ここには来たがやっぱり少し緊張する。
数分経ってようやく牛鬼が口を開いた。
「顔を上げろ」
なんて言われるだろうとサキはゆっくりと顔を上げた。
するとそこにはサキの知らない人間が立っていた。
赤褐色の肌に、白い口周りのヒゲ、黒のサングラス。それに雲隠れの里の額当て。
「貴方もしかして……牛鬼の人柱力?」
「おいおい、八っつあん。なんで知らない女がいんだよ?誘拐?」
「違う。ソイツは尾獣……の生まれ変わりだ」
サングラス男はサキをジッと見つめ、そして振り返って牛鬼に「人間だよな?」と信じられないといった声色で返す。
初対面じゃ当たり前の反応だよな、とサキも自ら自己紹介する。
「あの、サキといいます。人型の尾獣、の生まれ変わりで、今は人と尾獣の中間かな」
「……マジ?」
「マジです」
「じゃあ八っつあんの仲間ってわけ?」
「そうですね。八っつあんって牛鬼の愛称ですよね?ふふ、いい響き」
サキが笑っているとサングラスの男は唐突に拳を前に突き出した。何事かとキョトンとする。
(え、何。決闘の申し込み?)
「まずは挨拶だ。オレ様のグーにグーを重ねろ」
なんだ、挨拶かとサキはサングラス男の拳に自分の拳を合わせた。サキのより幾分大きい握り拳をじっと見つめた。
「……なるほどな。サキは過去に八っつあんを怒らせたのか。なかなかハードな人生歩んでんな」
「記憶を読み取ったの?」
「オレ様が見たのは、サキの心の中」
「心を?」
術にかけられた気配はなかったのに、凄い才能だとサキは感心する。そしてサキも相手のチャクラに直接触れたことで、目の前の男がどういう人間なのか大体分かった。
「……あなたのチャクラは凄く穏やかだ。名前を聞いても?」
「キラービーだ。よろしく頼むぜ」
そしてビーと牛鬼と三人で、今まで何してただとかお互いのことを話し合った。すると見えてくるのはビーと牛鬼の仲の良さ。お互いパートナーとして、友達として認め合っているのがよく分かった。
(こういうの素敵だな)
尾獣と人柱力が互いを信じ合って、共存している。
尾獣が人の身体から出ていくことが自由だと思っていたけれど、頭が凝り固まっていたのかもしれない。
「お前のことは恨んでいた。だが対等に語れる人間と出会えたのも事実だ。だから今はもう恨んでいない」
「……ありがとう」
「何だその腑抜け面。今日はオレに謝りに来たんだろう。許してやるって言ってんだからもっと喜べ」
蛸足で頭を軽く叩かれる。
それを見たビーが謎のラップ口調でツッコミを入れて、牛鬼はサキにやるより強めにビーの頭をこついた。
「……ビーさんと牛鬼が仲良くて、なんか気が抜けてた。もっと殺伐としてると思ってたから、牛鬼が元気にしててくれて嬉しいよ。ビーさん、牛鬼と友達になってくれてありがとう」
「八っつあんはオレ様の半身!関係のことなら安心!」
「うん!あ、そうだ。二人は暁に襲われたりしてない?」
一瞬間があったけれど、ビーが「オレ様たちのところには来てない」と言うので、サキはその言葉を素直に信じた。
「暁の狙いは尾獣だから、もしもの時は連絡入れてね」
サキは二人に手を振って空間から出ていった。
それを見送った後、ビーと牛鬼は二人で良からぬことを話し始めた。
「フー、他里とはいえオレ様の安否知られちまったぜ。これは演歌の修行に影響するぜ、実際」
「お前の兄のことだ。他里にまで捜索の手を広げるだろうよ」
「サキには悪いが来場拒否にして、捕まってる風に見せる」
「……後でどうなっても知らねえぞ。つーかお前演歌って?」
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