再起


=木ノ葉の里 仮設テント=

「落ち着いた?」

カカシから非常時用の飲料水ボトルを渡された。

「はい、もう大丈夫です」
「それは良かった」

久方ぶりの水を飲んで、喉を潤す。
たくさん泣いたせいで、凄い勢いで水が体内に取り込まれていった。

「病み上がりだったのに無茶させちゃったね。体の方は本当にもう平気なの?」
「はい。昨日……恐らくマダラが来たんです」
「マダラ!?って、……すでに死んだ人間だろう?」
「それは気がかりなんですけど。ペインとの戦いで裏チャクラがずっと放出されていた状態だったのに一晩で落ち着いた。それはマダラが"器"を返してくれたから、だと思うんです」
「さっき話に出た十尾の抜け殻だよね?暁のトップはうちはマダラってこと?」
「本人でなくても近い人間なんだと思います」
「……」


カカシは大蛇丸の死後にサスケを追った際に、トビという写輪眼を持った暁の一員がいたことを伝えた。
トビは仮面をつけており、顔はわからなかったが確かに男だったと。

「でもかなりふざけた奴だったよ」
「……マダラがそんなにふざけてるとは思いたくないなあ」
「とりあえず黒幕は分からないけど、暁の狙いが一つ分かったね。サキが前世を思い出してくれて助かったよ」
「カカシさん、五影の皆さんに今の話をする場って設けられないですかね」
「五影会談か……あれは"影"の権力がないと開催できないからね。兎にも角にも綱手様が目覚めないことには」
「そうですか」

それならばと、サキはカカシに上層部の動きを調べてくれないかと頼む。気がかりなのはダンゾウだ。奴は自分の正体を知っている一人。動向は探っておきたい。

カカシは了解と言って、立ち上がった。
そして去り際に「しばらく無茶しないように」と言って微笑んだ。




=精神空間=

黄みがかかった檻の空間。足元は水面になっていてどこからか水滴が落ちる音がする。
大きな檻を挟んで、九本の尾を持つ妖狐と銀髪の人型の女は対面した。

何度も何度も会ってきた仲だけれど、この姿での対面は八十年ぶりのことだった。ペイン戦での心の乱れは何処へやら、九尾はもう落ち着いていつも通りの澄ました顔をしていた。

「記憶戻ったんだな」
「うん、なんか全部思い出した後だと、かなり後ろめたい気持ちになるね」

サキは大きな檻を撫でながら言った。
八十年間、ずっと独りで閉じ込めてしまった。
九尾だけでない、皆。

「ごめんね、私のせいで」
「やめろ、お前に謝られるとむず痒い」
「あはは。ねえ昔みたいに名前で呼んでもいい?」
「ここだけならな」
「うん。あのさ、九喇嘛が私に記憶のこと話さなかったのって、私の死に際を見てたから?」
「……」

そう、九尾がサキに前世のことを話さなかったは、決して裏切り者だと罵倒しなかったのは、彼女の死ぬところを見ていたからだった。
九尾はあの時サキがマダラを心から愛していたのも分かったし、それ故に騙されたのだと分かった。
だからずっと押し黙っていたのだ。

逆に他の尾獣はサキとの最期の時間があまりに短すぎた。唐突に別れを告げられ、そしてすぐに人間に襲われた。守鶴が再会した時に怒ったのもよく分かる。

サキの遺言とも言える『何があっても人間を傷つける事は絶対許さない』という言葉。
皆それを信じて守ったが、結局は人に封印され、地獄を見せられただけだった。
憎しみが募って、人を傷つけ殺してきたこと、守鶴にも九尾にも説教をしたが、本来サキが咎められるはずもなかったのだ。元凶は自分なのだから。


「自分の罪はきちんと償うよ。絶対自由にしてみるからね」
「意見は変わらずか」
「うん。それにやっぱり人との共生を目指したい」
「……何故そこまで人間に入れ込む?もう無理だと思わないのか。裏切られたのに」
「夢は諦められないよ。それに今の私は人間でもある、本当に信頼できる人達が周りにいるよ。だから同じ失敗はしない」
「フン、信憑性のないことだな」

サキは苦笑いをして、具体的にどうしていくのか九尾に話す。八歳の頃、九尾と封印を解く計画をしていた頃みたいだった。

「まずは他里含めて忍界に尾獣の真実を話す。その上で暁の十尾復活阻止のために、協力を要請する。それと一緒に尾獣の自由化について提案したいかな」
「協力されなかったらどうする」
「尾獣と人が協力しないと忍界自体がもうダメになる手前に来てるから、協力はしてもらえると思う。最初は利害の一致だけでいい」
「んで、少しずつ尾獣を認めてもらうってか?絵空事ばかりだな、お前は」


サキは九尾の檻の中に入り、手を突き出した。

「それでも信じて欲しい」


九尾はかつて記憶を無くしたちんちくりんのガキを思い出して口角が上がる。随分と時間がかかったが、ようやくサキが戻ってきた。
九尾は大きな拳をサキの手に合わせた。


***


「あとやるべき事は写輪眼の克服、牛鬼との接触、外道魔像の回収かな」

マダラ本人かはさておき、敵に写輪眼を持つ者がいる以上、写輪眼の克服は必須。さらに記憶が戻ったことで遠方にいる八尾・牛鬼の精神空間にもいけるはずだった。それ以外の尾獣は既に敵の手に落ちてしまった。残っている牛鬼との接触は必須だ。

「前二つはいいが、外道魔像の回収……意味が分かっていってんのか?」
「うん?」
「人でなくなるぞ」
「……分かってる。ここに魔像を入れれば、完全な尾獣になるってことでしょう」
「本当に分かってるのか。ナルトともう同じ時間の流れで過ごせないぞ。奴が十個、歳を取ってもお前の時間は数秒程度だ」
「いいの。もとの姿に戻るだけだから」


サキの意志は固いようだった。
それも罪の意識故なのかもしれない。


「人間がどうのと、いつも抜かしてた奴と思えねえな。人間でいたいんじゃないのか」
「またそういう意地悪を言う……でもまあ、人でいる間にやりたい事ならあるよ」
「?」
「小さい頃からの憧れなんだ……」


サキは照れ臭そうに笑った。
九尾は意味がわからず、だが一度決めたら梃子でも動かないサキがそう言うならと、もう何も言わなかった。



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