懺悔


=木ノ葉の里 仮設テント=

ナルトが出ていき、カカシと二人きりになる。
カカシは膝を突き合わせるようにして、サキの向かいに座った。

「ダンゾウの件は報告したいんだけど、綱手様が目を覚まさない以上は難しいね」
「はい、もう少し里が落ち着いてからで大丈夫です」

サキはカカシに手を伸ばす。
「どうしたの?」と言ってカカシもサキの手を拾ってくれた。きちんと血が巡っていて、温もりがあって生きてると実感できる。

「いや、本当に生きてるのが不思議で……」
「俺も驚いたよ」

サキはカカシの手を握りながら、恐る恐る口を開いた。


「あの……前世のこと話しても良いですか」

カカシは自分から切り出すとは思ってなかったようで、「ナルトを連れ戻してくるよ」と返した。
けれどサキは首を横に振った。

「今はカカシさんだけがいい」
「……俺でいいの?そんな大事な話し相手」
「カカシさんは最初から私の正体を気にかけてたじゃないですか。それにナルトは、今はちょっと」
「?」

サキの指先が冷たくなって、若干震えていた。
金色の瞳が不安そうに揺れていた。

「ナルトの前でもう泣きたくないから」
「……分かった。話して」


サキは頷いてからテント内に結界を張った。防音、そして人に入られないように。印を結ぶことなく結界を作ったサキにカカシは驚いたのだった。


***


「かつて尾獣は人から隔絶された環境で暮らしていました。あの姿形だどうしても人から倦厭されていたんです。だから結界を張って個々の住みやすい場所を間借りしてたというか、とにかく尾獣にとっては平和な時代でした」
「……尾獣に自由があった時代か」
「はい。その自由を守っていたのが前世の私でした……それを壊したのも私なんですけど」

サキはダンゾウによって無理やり掘り起こされた記憶を話して行く。
尾獣の生みの親たる六道仙人の話、尾獣の母体となった十尾の話、六道仙人から託された役目の話――

「前世の私は六道仙人の意志を継いで、尾獣が人と共生できる世界を願っていました」

それは現世でも変わらない夢だ。
カカシは前世と現世の繋がりに感心する。全く知らない歴史ばかりだが、その願いだけはカカシの脳にすんなり入っていく。

「だから私は尾獣の中でも人型に設計されて、特別な力を与えられました」
「特別な力?」
「さっきナルトが言ってた裏チャクラ。あれって元は自然エネルギーで、この世界を創造する力そのものです。他の尾獣が精神と身体の二つのエネルギーから成るチャクラを有してるのに対して、私だけは役目のために十尾の力をそのまま引き継いだんです」

だからこそ何だってできた。
世界各地に結界を張るのも、空間を歪ませて人間から住処を隠すことも、其々の空間に転移して様子を確認することも。
何百年もの隔絶が実現されていた。

けれどそれでは六道仙人から引き継いだ夢は叶わなかった。人と関わらないことには共生の道はない。
尾獣の安全と夢とを天秤にかけて、長らく隔絶の道を選んでいたけれど、夢を諦められなかった。

実現の方法は分からないまま、いつからかサキは人を助けるようになる。
結界の設定を弄り、瀕死の人間を呼び込んだ。そして助けては記憶を消していた。尊い人の命を救うため、それ以上にサキが人と関わりたかっただけなのかも。


「ある時、戦で傷ついた一人の忍を助けて、それをきっかけにうちはマダラに会いました」
「うちはマダラ……凄い巡り合わせだね」
「彼は強い瞳力を持っていたので、私の張った結界も記憶操作の幻術も効かなかった。なのでマダラには事情を話して説得を試みました。尾獣のことは秘密にしてほしいと」

「けれどマダラは逆に興味を持って、人間との架け橋になると名乗り出てきました。最初は信じれませんでしたが、マダラは何度も私に会いにきてくれて信じてみたんです。この人が共生への手助けをしてくれるんだと」

カカシは今尾獣が置かれている状況から終着点を察した。うちはマダラ、彼は前世のサキを裏切ったのだと。

「突然マダラは急変しました。力が欲しいと、そして裏切られたんです……」

(やっぱり……)

「マダラは尾獣の力の秘密を知るために、私に幻術をかけてきた。力の使い方や尾獣の成り立ち、これまでの歴史。洗いざらい話させて、そして、、、って、顔色悪いですよ」

マスクと額当てでほぼ肌は出ていないが、カカシの血の気がひいていた。数年前にサキに無理矢理写輪眼を見せたことを思い出していた。

あの時ガタガタと震えていたのは、泣きじゃくっていたのはそういうことだったらしい。カカシは改めてサキに謝罪した。それはもう済んだ事だとサキはカカシの目を見ながら笑ってみせた。

「マダラはその時に私の半身みたいものを持って行ったんです」
「半身?」
「暁のアジトで見た木像、外道魔像です。あれは十尾の抜け殻なんですが、私はそれを守る役割も持ってたんですよ」
「それが今暁の手に渡っていて、尾獣を集めているっていうことは……」
「十尾復活……それが暁の目標だと思います」
「な、、」

とりあえず前世の話に戻りますね、とサキはまた残り少ない続きを語る。もう後は死ぬだけの物語。

「拷問を終えたマダラは九尾を奪って木ノ葉に攻め入りました。そして終末の谷で柱間と戦って、結果は歴史通り柱間の勝ち。尾獣は最悪の形で表にでしまいました。"魔像"を取られた私に力はほとんど残っていなくて、尾獣を各国に分配すると言う柱間を止めることもできず消滅しました」
「……尾獣が人に封印されてきたのは、そういう理由だったのか」
「はい」

一通り前世の話をしてもサキの震えは続いたままだった。やはり前世のことがショックだったのかとカカシは考える。けれどそうではないらしい。

「前世のことは確かに辛かったけど、元々尾獣を助けることを目標に今の時代でも動いていたので、むしろやり直しの機会だと思うようにしたんです」

(やり直しの機会か……本当に強い子だな)

カカシの思うよりサキは強い。
けれど我慢できるだけで、容量を越えれば確かに傷つくのだ。サキは何に対して傷ついたのか――カカシはサキの言葉を待った。


「でも……」

ポタリポタリと涙が粒となって頬を伝い、下へ落ちる。

「何の役にも立てなかった。尾獣も里も守れなくて、ユサもヒラも私のせいで死んじゃって、どれだけ前世が強くても、その力を継いでいても、今の私じゃ何も出来なかった……」

ユサとヒラのことについて、カカシは初めて知る。
現世で最初にサキの味方になってくれた人達だ。経緯はまだ突き詰めれないが、大切な人を守れず、失う痛みはカカシにもよく分かる。

「我愛羅が攫われた時も、今回の襲撃もナルトに全部任せて、尾獣のことなのに……私自身は何一つ守れてない。自分が情けなくて……何で私こんなに弱いんだろうって」

サキは自分の不甲斐なさに泣いているのだ。
辛かっただろう。自分にできなくて、ナルトにはできた。ナルトの前で話したくなかったという真意はこっちだった。


「強さってのは力が全てじゃないでしょう。サキの強さの根源は優しさだ。人も尾獣も世界もまるごと受け止める。お前だけの強さだよ」
「でも……」
「それにサキが守ったものはあるよ。ナルトと九尾。ずっと見守ってきた、そうでしょう?ナルトがサキに救われてるのは、俺にだって分かる」
「、ヒクッ、、、う、、」
「サキは十分動いてくれてたよ。もう少し成果が出るのに時間がかかるだけ。だからサキの夢が叶う日までやり抜こう?」
「……うっ、」
「大丈夫。俺もいるからね。約束しただろう。離れないって」
「うん……」

カカシは背中を丸めて泣くサキの頭を空いた手でそっと撫でた。
三年前、ユサとヒラが戻るまで協力してくれという約束――もう決して戻ってこない二人の分も最後まで果たしてくれるというのだ。

大丈夫だと何度も頭上で声がする。
サキは繋ぎっぱなしの手を額に当てながら小さく呟いた。

「……先生みたい」
「先生だよ」
「あり、がとう。カカシさん」



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