ペイン襲来
=木ノ葉の里 郊外=
一ヶ月体を拘束されていたせいか、体が鈍っていた。
足が重く、力が入りづらい。
一段ずつ段差を確かめるように階段を登り、外に出た。久しぶりの外だ。陽光で目が霞む。
そしてハッキリと見えたのはあちこちから煙が立つ戦場へと変わり果てた木ノ葉の里だった。
(こんなに……クソっ)
闇雲に動いても効率が悪い。サキは里中に感知範囲を広げて敵を探す。
(口寄せ動物に、人間が一人、人でないものが六体……それから)
(……!!?)
サキは存在するはずのチャクラがないことに気付く。
身体はあるのに、チャクラが流れていない。つまりは――
その時、上空からペイン天道が下降してきた。
ダンっと地響きがして、砂埃が立つ。
橙色の短髪に鼻筋に黒い棒が六本刺さっており、傷の入った雨隠れの里の額当てをしていた。
「驚いたな。お前は地下に幽閉されていると聞いていたが」
既に情報収集を進めていた天道が機械のような抑揚のない声で語る。
「自ら出てきてくれるとはな。その姿、記憶も戻っているようだな」
「アンタが……カカシさんを殺したのか……」
「ああ、先程な」
サキは激しく昂る感情を我慢できず、天道を鋭く睨む。三代目、ユサ、ヒラ、そしてカカシ。
自分に協力してくれた人達が自分の知らないところで亡くなっていく。それが悔しくて、やるせなくて、どうにかなりそうだった。
「全員集めろ……」
「何?」
「アンタの仲間全員、外にいる奴も含めて……全員ここに呼べ!!」
サキの体から無尽蔵のチャクラが放出される。
そして天道の目の前に瞬く間に転移し、相手の持つ黒い棒を奪い取り、足に突き刺した。
天道の術が発動する前に貫通、そして術発動後にサキは斥力により強制的に退げられた。
ザザザザッ
(なんだ、この力……反発?)
そして天道は足に刺さった棒を引き抜いて手を前に出した。するとサキの体が今度は引き寄せられる。
サキはスクリーンのような結界を張って、それを足場に踏みとどまる。
(裏チャクラの結界なら引き寄せられない、これなら戦いようはある)
サキが地面に触れようとした瞬間残りのペインが到着する。既に情報収集を終え、ナルトの居場所も割れていた。そのため、向こうの目標はサキの無力化だ。
畜生道は口寄せの術で鳥、犬、カメレオンを呼び出し、サキに放った。それぞれに特異な能力があり、随分と里を破壊した奴らだ。
サキは地面にチャクラを送り、土塊で相手の口寄せ動物と同じ姿のゴーレムを作り出す。口寄せ動物の相手はそれらに任せ、サキはペインの集団に一人で突っ込んだ。
サキは印も使わずにペイン六体を同じ結界内に入れて、輪廻眼の視覚共有を幻術で狂わせた。
ペインが一瞬固まる。その隙に手近の人間道を蹴り飛ばす。
倒れたところを逃すことなく鎖で地面に繋ぐ。
(次……!!)
***
ペインの一体が瞬時に倒され、ペインを操る本体――長門もサキの底なしの力に打ち震えた。
だが向こうには最大の弱点がある。
「……器がない以上消耗戦だ」
長門は地獄道、畜生道を下げる。
その後すぐ場に残った四体ペインはサキに無力化されていた。英断であったと長門は思う。
そして畜生道に倒れたペインを口寄せさせ、地獄道の術で四体を生き返らせた。
同じく後退していた小南が天道を通して長門に話しかける。その術は体に負担がかかりすぎる、と。
長門は構いもせずに天道にチャクラを集め始めた。
全ては世界に痛みを与えるために。
***
敵が後退した――それでもサキの怒りは治らない。
前世の力が戻っても、死んだ人間を生き返らせる方法はない。人間離れした力があったとしても、所詮は神にはなれない。
「……」
亡くなった人の数、怪我をして嘆く人の数、感知範囲を広げて里が受けたダメージを測る。
これが夢なら、今までのこと全てが夢ならどれだけ幸せかと思う。
思考を放棄したかった。
尾獣も守れない。大切な人も守れない。
何をしても空回りで、気づいた時には手遅れだ。もう嫌だ、と。
けれど根幹にある良心と、過ちと強大な力に対する責任がそうはさせてくれない。
(私がやらなきゃ……)
気配を感じて、サキは空を見上げた。
上空の天道と目が合う。
(何をするつもりだ)
天道が両手を仰ぎ、チャクラが凝縮されていく。
(まさか!)
サキは手を合わせて自然エネルギーを創り出す。
それをチャクラに変換させ、里を覆うような赤い結界を張り巡らせた。
「察しがいい。だがお前はそのチャクラを扱いきれない。俺の勝ちだ」
「神羅天征」
ペインの周囲から衝撃波が撹拌する。
里を破壊するために発せられた斥力は、サキの張った結界を押し潰してくる。
合わせた手がプルプルと震え、怪我もしていないのに目と鼻から血が流れる。
息が上がり、身体の限界を訴えている。
(耐えてよ、何も守れてないんだから。木ノ葉の里は守らせてよ……!)
「二発目はどうする。神羅天征ッッ!」
前の力に重なって二度目の衝撃が合わさる。
これでは強度が足りないと、またチャクラを練った時だった。
パキッ
身体の内側でそれは鳴った。
壊れた――
自然エネルギーを創り出し、それを調整する弁が壊れたのだ。同時にもう人の身体が耐えられなかった。
自身の体の痛みに悲鳴をあげるより先に、結界が壊れ里の上空から"痛み"が伝播した。
全てが壊れ、なくなっていく――――
里の端で紫色の蛙が印を結んだ。
「口寄せの術!」
***
以前の姿は見る影もなく、変わり果てた木ノ葉の里にナルト、妙木山のガマたちが降り立った。
地面に伏せる銀髪の女、初めて見る姿形だが、仙人モードによりチャクラ感知能力の上がったナルトにはそれが誰なのか分かる。
「サキ……?」
ナルトは血塗れのサキを前にして、錯乱した。
以前まで見知ったサキと姿が違う。それに内から自然エネルギーを放出していた。その中のほんの一部にサキ本人のチャクラがある。
「ペインにやられたのか……」
ドクン……ドクンッ
ナルトよりもっと動揺している者がその内にいた。
実に八十数年ぶりの姿だ。
=精神空間=
「その姿、、記憶が戻ったのか――サキ」
普段檻から手を伸ばすことは無い九尾が、この時ばかりは違った。ガシンガシンと鉄柵が揺れる。
「サキ!!おい返事をしろ!!」
煩わしい。煩わしい。
この封印が邪魔だ――もうお前の死に様は見たくない。
ナルトの精神はまだ九尾チャクラを放出するに至らない。
「小僧、、ワシを出せ……お前の代わりに敵を殺してやる」
=木ノ葉の里 荒地=
ナルトは戦い前にサキを避難させるためにガマ吉に命令した。しかしガマ吉がサキを掴もうとすると、裏チャクラが邪魔をし、近づけない。
「高濃度の自然エネルギー……ワシらに任せろ、ナルトちゃん」
ナルトの背負う巻物の上にいたフサカクとシマが印を結んだ。そして、サキを結界の中に入れる。
見た目は普通の結界ですぐにでも割れそうなガラスのようだった。
「ンな!じっちゃん仙人!?」
「あの状態じゃ運びきれん。見た目は普通じゃが、直接の攻撃でも受けん限り壊れたりせん」
「それより敵の狙いは小僧とその子じゃ。アンタが奴に勝たんと」
「分かってる。サキは渡さねえし、木ノ葉は俺が守るってばよ」
***
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