我愛羅


=リー 病室=

ナルト、シカマル、サキはリーを殺そうとする我愛羅と対峙している。シカマルが影真似の術で動きを封じているのに、我愛羅の顔に焦りはない。

「何でんなことする必要がある?試合はテメーが勝っただろ。こいつに個人的な恨みでもあんのか」
「そんなものは無い。ただ俺が殺しておきたいから、殺すだけだ」
「なに勝手なこと言ってんだ!!テメー!!」
「お前ろくな育ち方してねーだろ。すげー自己中だな」

「俺の邪魔をすれば、お前らも殺す」
「お前なんかに俺は殺せねーよ!」
「ああ、ナルト。どうどう」

これ以上我愛羅を刺激したくないサキがナルトを宥めようとすると、ナルトは我愛羅に指差してこう言った。

「俺は本物の化け物飼ってんだ。こんな奴には負けねー!」
「……化け物か」

(あちゃー)

我愛羅の中にも尾獣がいることを知っているサキは顔を手で覆った。我愛羅は顔色ひとつ変えていない。

「それならば俺もそうだ。俺はお前が言った通り、ろくな育ち方をしていない。俺は母と呼ぶべき女の命を奪い生まれ落ちた。最強の忍となるべく、父親の忍術で砂の化身をこの身に取り憑かせてな」

「俺は生まれながらの化け物だ」

我愛羅の言葉にサキは顔を曇らせた。
我愛羅の育ってきた環境が我愛羅を化け物だと、中にいる一尾を化け物だと刷り込ませてきたのだと初めて知り衝撃を受けた。


「砂の化身って何?」
「サキ?」
「守鶴と呼ばれ、茶釜に封印されていた砂隠れの老僧の生き霊だ」
「生き霊……」
「へっ、それが親のすることかよ。歪んだ愛情だな」

シカマルが放った愛情という言葉に我愛羅の雰囲気が少し尖る。

「愛情だと……お前たちの物差しで俺を測るな」

「家族、それが俺にとってどんな繋がりであったかを教えてやろう」

「憎しみと殺意で繋がる、ただの肉塊だ」

我愛羅は風影の子として、守鶴を宿した子供として、父親に次々と忍術を覚えさせられ、育てられていた。しかし六歳の頃から、今に至る六年間、実の父親に幾度となく暗殺されかけた。
なぜなら守鶴を宿した人間は精神が不安定になる傾向にあり、里が"危険物"と判断したからだそうだ。

「俺は里の危ない道具として、丁寧に扱われていただけのようだ」

「奴らにとって今では消し去りたい過去の遺物だ」

「俺は俺以外の全ての人間を殺すために存在している。いつ暗殺されるかも分からぬ死の恐怖の中で、俺はようやく安堵した」

悪戯していた頃のナルトと同じく、自分の存在を認めさせたいだけ。それを我愛羅は育ちの中で、殺すことを存在意義だとしてしまったのだ。

(そんな風に育ってきたのに、いきなり仲良くなりたい、友達になりたいってのは能天気だったな)

我愛羅の話を聞いて、ナルトは後ずさった。
昔の自分と、今の我愛羅が重なるから。我愛羅の気持ちが理解できるからこそ、勝てないと思ってしまっている。

「どうした、ナルト!」


シカマルがナルトを呼ぶが反応がない。この状況は良くない。
サキは即座に屈み、影真似中のシカマルの足を払った。

「うわ!!」
「ごめん!シカマル!」

サキは我愛羅に突っ込み、我愛羅を抱えて病室の窓から外に飛び出た。下にあった病院の茂みに入る。

「お前、何をして」
「我愛羅のこと知らずにこの間は仲良くなりたいとかズケズケと言ってごめん。でも自分のこと化け物なんて言わないでほしい」
「……」
「我愛羅は守鶴じゃないでしょう。守鶴も我愛羅じゃない」
「知ったような口を聞くな!」
「ならもっと聞かせて!我愛羅の中にある暗い部分全部見せて!その上で私は我愛羅を助けたい!!」
「何を、、う、、ぅうう」
「大丈夫?頭痛いの?」
「怒らないで、母さん。あ、、ああ」

我愛羅はブツブツと独り言を言い始めた。何かサキには見えないものとーー母親と会話でもしてるように。

「我愛羅、頑張って」

手を取り、我愛羅と一尾のチャクラを感じ取った。
これだけ近くにいれば逃しはしない。




=砂の空間=

「ああ!?お前また来やがって!!この間はよくもオレ様の邪魔をしてくれたな!!」

砂の空間に入ると守鶴と姿が以前よりはっきりと見えた。サキは急いで守鶴に駆け寄った。

「守鶴!!我愛羅を助けるためにはどうしたらいい?今苦しんでる!あの独り言って何なの!」
「てめ、オレ様の名前を」
「早く!!」
「あの鎖でも使えば良いじゃねーか。つーかよお、何でテメーなんかが紅鎖使えてんだよ」
「使える理由なんか知らないよ」
「……テメー名前は?」
「サキ」
「けっ、昔と一緒かよ。胸糞悪りぃ」

「さっさと出て行け!!この裏切り者が!!」

守鶴はサキをまたも尻尾で吹き飛ばした。





=木ノ葉 中央病院の外=

サキが目を覚ました時、我愛羅はすでにいなかった。
一人きりになり、サキは守鶴に言われたことを思い返す。

(裏切り者って何のこと……それに昔と一緒の名前って、、)

サキが茂みの中でじっとしていると、ナルトとシカマルが駆け足で迎えにきた。

「サキ!無事だったか?!」
「うん。平気」
「なんでアイツを連れて外なんか」
「……あんなこと言って欲しくなかったから」

シカマルはサキの言葉に意味不明だという顔をしたが、ナルトは黙ってサキを見つめていた。




=火影執務室=

本戦を控えた前夜、サキは三代目に会いにきた。

「三代目、今よろしいですか」
「おお、サキ。久しぶりじゃの。ユサとヒラから報告は受けていたが、あの鎖の術をものにしたそうじゃな」
「はい!あの今日はその話ではなくて……砂隠れの我愛羅の話です。彼の中に尾獣がいます。そして彼の精神は今不安定なんです。だから明日のサスケ戦で一尾が出てくるかもしれない。その時は紅鎖を使っても良いですか」
「一尾と会話したのか」
「はい。けれどまだ受け付けてくれなくて、追い返されます。まだ九尾みたいに頼み込んで、とかはできないです」

サキは裏切り者と言われたことについては話さなかった。

「良かろう。だが、これだけは気にしておけ。お主の術が他里に知れれば、その力は狙われる対象になる。どんな悪党に狙われるか分からん」
「……はい」
「ふ、怖がらせてしまったかの。安心せよ。もし狙われることになっても、木ノ葉の忍は仲間の危機には命懸けで駆けつけ戦う」
「ありがとうございます!」


サキは明るく笑って執務室の扉に手をかけた。


「三代目!今度はユサとヒラと報告来ますね!!」



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