本戦前日
=木ノ葉 中央病院=
二日前からナルトが病院に運び込まれており、眠り続けているので、サキは連日見舞いに来ていた。
(もう三日目、いい加減起きたらいいのに)
ナルトがエロ仙人と呼ぶ師匠のもとで、口寄せの術の修行をしていたらしい。
そして九尾に聞いた話だが、エロ仙人という人は大蛇丸のかけた五行封印を解呪し、ナルトのことを崖から突き落とし、命懸けで口寄せの術を覚えさせたという。
その時初めてナルトから九尾に会いにきた。
ナルトは初対面にも関わらず、口寄せのためのチャクラを寄越せと言い放ったのだ。九尾は生意気なナルトにかなり苛つきながらもチャクラを渡し、そのチャクラでナルトは特大の蛙を口寄せしたらしい。
(チャクラ切れで入院……鬼師匠だな)
そして我愛羅に接触した日からもう何日も経つけど、あれからなかなか一人になってくれない。それに一尾にも会えていないし、完全に出禁を食らっているようだった。
コンコン
病室の扉が叩かれるとフルーツバスケットを持ったシカマルがやってきた。
「よう」
「おはよう。あれ、もしかして昨日とかも来てた?」
「いや、今日はたまたま。チョウジが食い過ぎで運ばれたからな」
「あはは、流石チョウジ」
まさかサキがいるとは思わず、シカマルは面倒臭そうな顔をしていた。何故ならシカマルは女というものが苦手だった。
(二人きりって気まずいな。でもこれ置いていきたいし、すぐに帰るのもな)
シカマルは病室の扉を閉め、後ろポケットに手を突っ込んだ。
(確か入れてたはず、将棋盤、、)
「あ、シカマルって将棋やるの?暇だったからさ、良かったら勝負してよ」
「お前ルール分かんの?」
「馬鹿にしてくれちゃって。あー、でもちょっとしか知らない」
「じゃあはさみ将棋でもするか」
ナルトのベッドの上に携帯用の小さな将棋盤を置き、サキは"歩"、シカマルは裏返した"と"を九枚ずつ並べた。
「明日本戦でしょう。準備しなくていいの?」
「この一ヶ月アスマにみっちり扱かれたからいいんだよ。前日休んで当日に備えるのは大事だろ」
「それもそうか。シカマルの相手って誰だっけ」
「音のドスってやつ。お前予選で当たったろ」
(ドスって、、あ!!)
「……頑張れ、シカマル!」
「お、おう?」
はさみ将棋はあっさりとサキが負けた。
サキは勝つつもりだったのにとかヘラヘラ笑いながら駒を片づけ礼を言う。
この子供らしくない落ち着きようから、醸し出す柔らかな空気感から、シカマルのサキへの苦手意識は薄れていった。
「シカマルってアカデミーの頃、座学の成績そんなに良くなかったよね」
「あーー、それアスマにも言われたことあるな。座学ってめんどくせーからよ、やる気ねえ時はサボってた」
「へえ。能ある鷹は爪を隠すって奴なのかな。シカマルっていつもめんどくせーって言うけど、ナルトの見舞いきたり、そんなに喋ったことない私とはさみ将棋してくれたりさー、優しいね」
「……真顔で言うなよ。小っ恥ずかしい奴だな」
シカマルは口に手を置いてそっぽ向いた。サキは揶揄い甲斐あるなーと笑っていた。
その時モゾモゾと目の前の布団が動いた。
「ん、、」
「あ、ナルト目覚めた?」
「よう、、やっとお目覚めかよ」
「ここ、どこ?」
「病院だよ」
「お前三日三晩も寝っぱなしだったみたいだぜ!」
「サキは分かるけど、なんでシカマル?」
シカマルはチョウジが腹を壊して入院たのでその見舞いのついでに来たと説明した。先程サキが優しいと言ったからか、シカマルは「お前らは女が見舞いにくるタイプじゃねーから」と付け足した。
(恥ずかしがり屋め)
サキがニヤついていると、シカマルが足を伸ばしてサキの座ってる椅子を突いた。小さな反撃に少しバランスを崩してサキは小さく呻き声を上げた。
「あ!そうだ。チョウジにフルーツセット買ってきたけど、医者がダメだっつーから一緒に食おうぜ」
「お!良いのか!お前けっこー良い奴だな!」
「だよねー、私もそう思う」
「アホ!腐らすのもったいねーからだよ」
ナルトもサキもニヤケ顔をしていると、ナルトは段々と悪戯小僧の顔になって、「チョウジの前で食ってやろうぜ」と提案してきた。
面倒くさいと言うシカマルと、チョウジが怒りそうと言うサキを無理矢理引っ張って、ナルトはチョウジの病室を目指した。
「でもフルーツ食べるならナイフと皿借りて行った方がいいよね」
「ああ、そうだな」
「案外サキもノってきたってばよ」
「まあ、食べ過ぎの反省に繋がったりするかもだし。ちょっと遠回りだけど、一階の……」
サキが来た道を振り返ると、廊下の奥に赤い髪が見えた。その瞬間、サキは考えるより先に足を動かした。
「ええ!サキ!?」
「おいおい!病院は走るなっての!!」
ナルトとシカマルの声を無視して、その影を追った。
(なんで、病院に。この一ヶ月病院に来たことなんてなかったのに)
(我愛羅!)
=病室=
サキは勢いよく我愛羅が入った病室の扉を開けた。
ベッドで眠っているのは、我愛羅が予選で戦ったリーだった。眠っている彼の周りを砂が這っている。
サキは満月の夜に見た光景がフラッシュバックされた。
「我愛羅!その人を殺しちゃダメ!!」
「お前は…」
「待って。話がしたい」
「そう言って近づき、俺を殺す気なんだろ」
「殺したりしない、絶対」
我愛羅は砂をサキに向けた。サキは真っ直ぐ、我愛羅から視線を外さない。飛んでくる砂を避けることはせず、首を締め上げられた。
「……ッ」
つま先が床から離れるか離れないかの所で、突然我愛羅の動きが止まった。
病室の入り口でシカマルが影真似の術で我愛羅を縛っていたのだ。その隙にナルトが我愛羅を殴り、サキを締め上げていた砂が落ち、床にへたり込んだ。
「おい、ナルト。影真似中は俺まで一緒に動いちまうんだよ」
「悪りぃ、シカマル」
「ケホケホ、あー、ありがとう。ナルト、シカマル」
ナルトはサキの無事を確認すると我愛羅に向き直った。
「てめー何しようとした!!」
「殺そうとした」
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