一次試験


中忍試験当日になった。

「はい、復唱!」

サキはユサとヒラにこれでもかというほど言われた試験に関する注意事項を復唱した。
要約すると、九尾関連のことを漏らすな、目立つ行動はするな、それから試験はサキがメインを張れの三つだ。

中忍試験はスリーマンセルでエントリーする必要があるが、サキの場合は特例で暗部のユサとヒラと組んでいる状況だ。

表面上は下忍二年目の先輩だけれど、ユサとヒラの実力は明らかに中忍以上で、協力を受ければ合格も余裕、サキの実力が測れなくなってしまう。

試験は試験、二人ともそこに関しては真面目なので、ユサとヒラはスリーマンセルが必要な時に最低限の補助をするだけ、と試験前に口酸っぱく言われた。

「もう頭にこびりついてるから大丈夫だよ。いつも通りやるし、試験も合格してみせるから。ほら、時間ギリギリだよ、行こう」

サキは二人の前を歩き、一次試験の行われる会場まで三人で向かった。





=一次試験会場=

会場には他里含め多くの忍がいた。
下忍になりたてのサキ、そして入り口付近に集まっていた同期たちは蛇に睨まれた蛙、といった感じだった。

(顔怖い人ばっかり、うわー)

ナルトたちのいる方に移動すると、眼鏡をかけた見知らぬ男がいた。銀髪で物腰柔らか、木ノ葉の額当てをしているから木ノ葉の下忍なんだろう。

「あ、サキ!遅いってばよ!超ギリギリ」
「いやー、部屋迷ってて。それ何してるの?」
「今、カブトさんが情報を教えてくれてるんだってばよ!」
「へえ」

カブトという人が持っているカードには、濃い顔の男の子が写っていて、担当上忍、チームメイトやこれまでの任務実績、個人のパラメータが書いてあった。

(なんでこんな事知ってるんだ、この人。情報通にしたって怖!)

「次は我愛羅だったね」とカブトがもう一枚カードを見せた。サスケは食い入るように見ており、サキもどれどれとカードを覗いた。

(ああ、前にナルトが言ってたムカつく砂の忍か。我愛羅って人凄い強いんだ。Bランクも受けてる)

「任務は全て無傷で帰ってきたみたいだよ」
「下忍で無傷って何者だよ……」

カブトはカードの山からもう一枚引き抜いた。
床に置くと地図と棒グラフが浮かび上がり、木ノ葉、砂、雨、草、滝、それに音と数値化された。各隠れ里からの今年の受験者数を表しているみたいだ。中でも音隠れは近年誕生したばかりの小国の里らしい。

「いずれにしても、みんな凄腕ばかりの隠れ里だ」
「なんか自信無くなってきましたね…」
「何言ってんのよ!今更!!」

ヒナタの弱気にイノの強気。隣にいたサクラも若干弱気になっていた。

「……つまり、ここに集まった受験者はみんな」
「そう、リーや我愛羅ばかりでなく、みんなが各国から選ばれたエリートだ」

隣にいるナルトはプルプル震えていて、サクラが気を遣って話しかけてくれた。しかし、ナルトは顔を上げると__

「俺の名前はうずまきナルトだ!!!お前らには負けねーぞ!!分かったかあああ!!」

と他の受験者を指差して叫んだ。

(うわ、、他の受験者の睨みがすごい)

ナルトが叫んだ後、受験者の塊から隙間を縫って動く影が三つ。カブトを狙い、攻撃してきた。

包帯で顔を覆った男の拳を完璧に避けたカブトだが、眼鏡のレンズが割れ、続け様に嘔吐してしまう。心配してナルトとサクラが駆け寄った。

「なーんだ、四年も受験して大した事ないな」
「アンタのカードに書いておきな。音隠れ、中忍確実ってな」

彼らは先程音隠れを小国呼ばわりされたのが気に入らなくて突っかかってきたみたいだった。そんな一触即発の危機の中、会場の前方で煙幕が上がった。

「静かにしやがれ!この腐れ野郎どもが!!」

煙幕が晴れて現れたのは顔に傷がある男と何十人もの木ノ葉の忍。

「待たせたな。中忍選抜第一の試験、試験官の森乃イビキだ」


***


一次試験はペーパーテストのようだ。
けれど、普通の試験ではない。問題は超難関で普通なら解答できないカンニング有りの試験だ。

受験者の周りを監視する試験官の目を掻い潜り、答えを知っている受験者から情報を奪う、情報収集能力を測る試験__十問のうち最後の一問は試験時間のラスト15分で発表される。残り45分でカンニングを成功させる必要があった。

(ユサは知らないけど、ヒラならこの問題も余裕そうだし、私は頭良さそうな人からカンニングすれば良いな)

サキは鉛筆を置いて机の下で印を結んだ。

(四方紅陣、、、五感共有)

天井に結界を張って五感のうち視覚を共有させる。これで真上から受験者の答えを盗み見放題だ。

標的から九問全ての解答を模写し、ついでにユサとヒラの解答も覗く。博識なヒラは満点みたいで、ユサも得意の感知能力でカンニングしたのか満点みたいだ。

(余裕、余裕……と、ナルト大丈夫かな)

覗いたナルトの解答用紙は真っ白だった。サキは唖然として結界を消滅させた。


***


しばらくして十問目を出題する時間になり、試験官のイビキは十問目のルールを説明した。

まず、十問目を受けないものは持ち点を0点とし、チームメイトを道連れに失格。受けるを選び不正解のものは、今後永久に中忍試験の受験資格を剥奪する、といったものだった。

「んな馬鹿なルールがあるか!」と叫んだのは同期のキバだった。だがイビキは俺がルールだと言って反論をいなす。

「では始めよう。この十問目受けないものは手を上げろ。番号確認後、ここから出てもらう」

ナルトの隣の受験者が手を挙げた事で、次々と受験者が手を挙げていく。意志の弱いものから振り落とされていくのだった。

そんな中、ナルトはゆっくりと手を挙げた。

そして、、思いっきり机に叩きつけた。

「舐めんじゃねえ!!俺は逃げねーぞ!!受けてやる!もし一生下忍になったって、意地でも火影になるから別にいいってばよ!!怖くなんかねーぞ!」

「もう一度聞く。人生を賭けた選択だ。辞めるなら今だぞ」

「真っ直ぐ自分の言葉は曲げねえ。俺の忍道だ!!」


イビキは何も言わずしばし沈黙が流れたが、ナルトは決して逃げることなくイビキと目を合わせていた。

「いい決意だ。ここに残った全員に第一の試験、合格を申し渡す!」

合格を言い渡した後、教室に残ったものにこの試験のネタバラシを始めた。

九問目までは個人の情報収集能力を試していた。忍に必要なスキルの一つだ。イビキは情報の重要性を説くために、頭に布ごと巻いていた額当てを外した。そこから現れたのは拷問の跡。

忍の世界では、情報は時に命より重く、任務や戦場では命懸けで奪われるものだと説明した。

「これだけは覚えておいて欲しい。誤った情報を握らされることは、仲間や里に壊滅的打撃を与える」

「しかしだ、この十問目こそが第一の試験の本題だったんだよ」

十問目は受けるか、受けないかを選択する。これは不誠実で絶望的な二択だ。これは忍の世界では避けて通れない話だ。
人生を、命を懸けて、苦境を乗り越えていく能力がなければ忍にはなれないとイビキは受験生に念を押した。


サキはホッとして背もたれに背中を預けた。

(とりあえず通過できた。良かった)

十問目のナルトの意気込み、イビキの話どれも心を打った。忍の世界を知れば知るほど、理解していくほど、心が躍る。知らない世界を見ることが楽しい。

(中忍試験は通過点だ。こんなところで落ちたりしない。中忍になって、上忍になって、各国を股にかける忍になったら、きっと各里の尾獣にも会える。九匹を自由にするんだから、絶対に)

(こんなところで立ち止まってたまるか)

サキが机の下で拳を握ると、窓ガラスが割れて、人が入ってきた。クナイを天井や床に投げて、大きな布が会場の前方に広がった。

二次試験官のみたらしアンコのお出ましだった。



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