選手交代


最終戦だと勢いづく連合軍に狼狽える様子もなくマダラは腕を鳴らした。

端から端へ群衆を見渡して、九体の尾獣に守られるように中央に立っているサキを見つけた。
そして連合軍の現最高戦力であるうずまきナルト、うちはサスケ。千手柱間と扉間も何やら話し込んでいる。

「何から片付けようか」

視線をサキへと移すと、こちらを睨みながら分身を作り出し、それは後方へと下がっていった。
そして死にかけているオビトと近くにいた四代目火影とはたけカカシを連れて瞬間移動で消えてしまった。

「オビトを逃したか。まあいい。思惑は大体予想できるが少し泳がせてやろう」


***


群衆から数キロ離れた場所に四人は着地した。
辺りは一見静かだが、これから向こうの戦場でどんな規模の戦いが起きるかはサキにも予想がつかないので安心はできない。

「ゴホゴホッ、、」
「わ!すみません、痛かったですよね」

急な移動でオビトの体が硬い地面に打ちつけられた。
サキは彼の胸に手を置き、体の調子を確認する。

「サキ、オビトは?」

心配気なカカシがオビトを挟んでサキの向かいに座った。その目はもう揺れることなく、しっかりとオビトを見ている。

「大丈夫。尾獣チャクラは全部抜かれましたが、中に外道魔像が残ってるので死んだりしませんよ」
「そうか……」
「ちゃんと向き合えたみたいで安心しました」

仮面の男がオビトだと知った時はどうなることかと思ったけど、やっぱりカカシなら立ち上がってくれた。それが嬉しくて自然と笑みが溢れる。

「、一人じゃ無理だったよ。ナルトとミナト先生、それにサキのおかげだ」
「じゃあ、戦いが終わったらまたお話聞かせてくださいね。十尾の中じゃ何にも見れなかったので」
「うん」

カカシが見守る中、サキはオビトにチャクラを送って体の回復を始めた。オビトの体は一気に尾獣チャクラを取られただけあって体力が尽きて動けそうにない。
でも彼にはこれから頼みたいことがあった。
ゆっくりと、負荷をかけすぎないようにチャクラを流す。

「君が、サキさん?」

カカシの隣から柔らかな声がした。
視線を移すとナルトと同じ金髪に、穢土転生特有の黒目の男がいた。

「はい。初めまして、四代目」
「息子から話は聞いてるよ。最初に出来た友達だって」

サキは気まずそうに眉をハの字に下げた。
"息子"と言われて、四代目がナルトの父親であることを改めて実感した。

「……あの私、四代目に言わなければいけないことがあって、」
「謝罪はだったら要らないよ。オレもナルトも、それからクシナもみんな今を受け入れてるから。むしろお礼を言いたいくらいだ。ずっとナルトのことを信じてくれてありがとう」

ミナトは優しい口調でそう言った。まさか礼を言われるなんて思わずにサキは吃驚してしまう。
息子と生きていく未来を摘んでしまったことを謝りたかったのに、家族全員が受け入れてるなんて言われたらもう何もいえない。

「、こちらこそ。ナルトと出会わせてくださってありがとうございます」
「これからも息子のことよろしくね」
「それはもう……任せてください」

サキが下唇を噛みながら耐えているとミナトの中にいる九喇嘛が『泣くなよ』と釘を刺した。ナルトの中の九喇嘛といい、同じことを言ってくるのが何だか可笑しくて、サキは緩んだ涙腺に打ち勝って微笑んだ。


そして数分後サキの手元のチャクラ玉が小さくなり、処置が終わったことを告げた。

「一先ず応急処置は完了です。じゃあオビトさん、万一にもマダラに取られないよう貴方の中にある外道魔像を取り出します」
「!!」
「サキ、何を!」

カカシとミナトは血相を変えた。今まで回復に徹していたのに言ってることが正反対だから無理もない。
サキは両手を上げて最後まで話を聞くように二人を宥めた。

「これから魔像を消滅させます。そうすれば無限月読は成し得ない。だけどそれをすると私は兎も角オビトさんは死んでしまうので、魔像の一部を残して体に封印します。そうだな……腕一本分は残したいですね」

「オビトさん、その輪廻眼で魔像の口寄せをお願いします。直ちに私がチャクラを送るので、魔像の端を入れるまでの命の心配は不要です」

「口寄せされた魔像は四代目とカカシさんで破壊してください。手段はお任せします」

カカシとミナトはサキの策に納得して頷いた。これが上手くいけば無限月読の脅威は完全に去る。
けれどオビトだけが反対した。

「待て。勝手に話を進めるな」

胸の上で祈るように手を組んだ。
見覚えのない印で、口寄せのそれとは違う。

「何をするつもりですか」
「かつてオレが利用しようとした男がオレを裏切った手段だ」
「……まさか」
「外道・輪廻天生の術だ」

サキとカカシは長門のことを思い出してオビトがやろうとしていることを察した。彼はこの戦争で死んでしまった者を蘇らせようとしているのだ。自分の命と引き換えに。

「オレは多くを奪い傷つけた。その責任をとる」
「でも、生きて償う方法だってありますよ」
「いや。そんなに生易しいもので、」

オビトの言葉を遮るようにして、突然彼の首元の地面が割れた。そして黒い影がオビトに纏わりつく。

「何!?」
「今度ハ、オレモ協力シテヤル」
「黒ゼツ……ぐっ!」

黒ゼツと呼ばれる影はオビトの体を乗っ取って、術を発動させた。たった数秒の出来事で大きく計画が変わってしまった。

「まずい」
「何が起きたんだ」
「……マダラが復活しました」
「何だと、、」


***


同時刻、この出来事が変化点となった。

ナルト、サスケ、柱間、サイが上手く対応し、封印術によってマダラは動けなくなっていた。それなのに突然マダラの体が熱を取り戻してしまった。鼓動を取り戻した体は封印術を簡単に跳ね返し、偽物の輪廻眼がボロボロと剥がれ落ちていく。

サスケは上空から天照でマダラの体を焼こうとしたが、甲冑を脱ぎ術を吸収することでそれは阻止された。
顕になったマダラの上半身には柱間の顔が浮き出ていた。柱間の力を取り込んだ証だった。

かつてマダラが里抜けする前、柱間に言った "相反する二つは作用し合い森羅万象を得る"という言葉。そのままの意味ならば、相反する二つの力が協力することで、本当の幸せが得られると読み取れる。
けれどマダラは違う解釈をしたのだ。

「うちはと千手……両方の力を手にしたものが本当の幸せを手にする。そういう捉え方もできやしないか」

マダラは両方の目を瞑ったままそう言い、誰にも反応できない速度で弱った柱間の首に掴み掛かった。
そして柱間の力を吸い尽くした。

「欲しいものはいただけた。次だな」

マダラは火遁・灰塵隠れの術で身を隠した。
向かった先は尾獣達と連合軍のいる場所だ。


「さあ次はお前らをいただくぞ。畜生共」

「……来たか。話した通りに行こう」

サキは牛鬼、九喇嘛を除く七体の尾獣達、そして我愛羅に呼びかけた。巻き込まれないように連合軍は後方に下げている。この強大な力を発揮するための環境は整えた。
まずはマダラの動きを止めるために――先陣は守鶴だ。

「風遁・砂散弾!!」
「良い術だ。だが決定打に欠けるぞ」

けれどマダラの体を射抜いた砂弾は体内に粒を残しており、続く我愛羅の術と呼応して動きを止めた。十六年共にいただけあってコンビネーション技が上手くはまる。
続けて又旅、磯撫、孫悟空、穆王、重明と連続打撃を与え、犀犬の粘液でマダラの体の自由を奪い、動き出される前に我愛羅と守鶴の砂漠層大葬で封印をする。

だがマダラは完全体須佐能乎を纏い、渾身の封印術を破壊してしまった。青色の鴉天狗が宙を舞い、マダラは宣戦布告する。

「すぐに首輪をかけてやる。一匹も逃しはせん」

「させっかよ!!」

そこに九喇嘛とナルトが現れた。
上空から奇襲が成功し、その尾で須佐能乎を押し潰す。メキメキと地面にめり込んでいった。そして負傷者の移動をしていた牛鬼とビーが戻ってきてこの場に全尾獣が集まった。

「尾を重ねろ!!」

九喇嘛の尾の上に全員の尾が重なり、マダラの右腕が吹き飛んだ。木っ端微塵になってもおかしくない威力なのにマダラは血濡れになって、尾獣達と距離を取る。

(血が出てる……まさか)

重傷を負ったマダラの元に近づく生体反応があった。地中から姿を現したソレはこの戦争で何体も倒してきた白ゼツだった。

「遅くなりました、マダラ様」
「やっと来たか。持っているな?」
「もちろんですよ」

白ゼツは右手を差し出した。その手は何かを握っていて、マダラは容赦なく腕ごと千切り己の右腕にくっつけた。柱間細胞から作られた人造人間なだけあって、柱間の力を取り込んだマダラの腕とすぐに接合する。

そして感覚の戻った右手で瞑ったままだった右目を覆った。
手を外すと波紋状の眼球、輪廻眼が入れ込まれていた。

サキは感知範囲を広げて数キロ先にいるもう一人の自分と外道魔像を探った。思惑と異なり魔像は口寄せされていなかった。

「向こうの計画失敗してるみたい……あのマダラはもう穢土転生体じゃない。恐らく六道の術で生き返ってしまった」
「まさか。じゃあオビトは」
「今のところは生きてる。だけど、」

マダラは己の血を拭い、それを元手に口寄せの印を結んだ。ボンと轟音が鳴って、マダラの元にオビトの体内に残っていたはずの外道魔像が出現する。

オビトの心配もあるが、こうなっては尾獣達の安全も保証されない。それに……最悪の展開が頭を過ぎる。

「左目はもう少し時間がかかりそうだな」
「みたいですね。こっちも時間がかかりそうですけど」
「ペットを連れ戻すのに何年もかかったガキと一緒にするな。数秒だ、よく見ておけ」

怪我を柱間細胞で治し、魔像の頭の上に移動するマダラ。そして右目の輪廻眼で尾獣を睨みつけた。

ガンッ バキッ

何もないところから尾獣達に打撃が入る。
巨体が吹き飛び、サキも同様に地面に打ち付けられた。怯んだ一瞬に魔像の口から鎖が十本伸びてきてそれぞれの首を絞めた。

「ぐっ、」
「サキ!!」

九喇嘛の手がサキを掴む。けれどその力には抗えなかった。ジリジリと魔像に吸い寄せられていく。
サキはもう一人の自分に何とか状況を伝えた。このままではナルトとビーが死んでしまう。すぐに対応しろと。九喇嘛も同じ考えで我愛羅に言葉を残した。

尾獣が魔像に取り込まれるのに数分もかからなかった。戦況は一気に最悪の展開に転がっていった。


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