受け継がれる意志


サキはハゴロモの話を聞いて顰めっ面をした。
一つおかしいと思ったことがあったのだ。

「十尾が暴れたと言う話……」

と口を開いたものの、わざわざあの世から伝えにきてくれたのに口出ししたら失礼かなとサキは言い淀んだ。
それを見たハゴロモは目を伏せてこう言った。

「思ったことを話せば良い。ワシも全てを知る神ではないのだから」
「……十尾にチャクラを回収したいという本能があるのなら、分裂体である私たち尾獣の誰かがその本能を引き継いでいてもいいように思うんです」

転生したサキは負の感情や本能が引き継がれることを身を持って知っている。なのに十尾の分裂体であるサキ達にそんな本能はなかった。
尾獣達は常に安寧を望んでいて、生まれた時は悪意なんて持ち合わせてなかったのだ。

「もちろん六道仙人に矯正されていたのかもしれませんが、何か違和感があるんです」
「十尾は誰かに操られていたと言いたいのか」
「……信じたいだけです。尾獣という存在を」

サキが口を閉じると、ハゴロモは「やはり」と呟いた。この場所に来る前、前世のサキにも同じ話をしたが、彼女も同様の考えを持っていた。
サキ達の考えが必ずしも正しいとは限らないが、ハゴロモ自身歴史の中に疑問に思う点があるのは事実だ。

けれど互いに十尾が"誰に"操られていたかは深掘りしなかった。言わずとも容疑者は一人しか思い浮かばない。


「ともあれマダラ達が無限月読を完成させる前に止めないといけませんね」
「ああ。チャクラが一つになり、また実が出現すればこの世界は必ず崩壊する。それだけは止めなければならない」


サキは頷いて、一歩前に出た。
ここからは過去ではなく、今後を考えようと。

「外の様子を教えてください」

芯の通った声からは顔を合わせた当初の動揺も人間の自分が死んだことへの悲しみももう感じられなかった。ただ今は前に進もうとする強い意志だけ。

ハゴロモは目を瞑って現実の状況を確認した。


「うちはオビトが十尾の人柱力となって戦っているな」
「え、オビトさんが!?マダラの方じゃなくて?」
「オビトはマダラに忠誠を尽くしていたわけではないようだな。オビトもマダラも互いの信念の元行動した結果がこれだ」


戦況は敵が圧倒的かと言えばそんな事はなく、連合軍が集った他、サスケ達と穢土転生で復活した歴代火影が増援に加わっていた。
そしてその中心にはナルトがいた。彼は今も諦めずに必死に戦っている。

その話を聞き、サキは安心したように頬を緩めた。

(ナルトが頑張っているなら何とかなる。約束叶えてくれるの信じてるから)

「ナルトを信じているのだな」
「はい。生まれ変わってから最初に出来た大事な友人です」
「そうか。良い友が出来たんだな」
「ナルトって凄いんです。いつもみんなに勇気を与えて、心優しくて真っ直ぐでどんなに辛くても立ち止まったりしない。貴方にも会ってもらいたいです」
「そうか。お前がそこまで言うのなら会ってみたいものだな」
「きっと好きになりますよ。それに他にも紹介したい人が沢山いるんです」
「良い出会いに恵まれたのだな」

サキの脳裏には今まで世話になった木ノ葉隠れの皆や他里の人々の顔が次々に浮かぶ。
そしてカカシのことを強く思い出した。

「はい!大切な繋がりが沢山出来ました」

サキの屈託のない笑顔にハゴロモは笑みを浮かべた。

「やはりお前にワシの夢を託して良かった。人間に愛想を尽かすことなく、ワシの言葉を信じてきてくれたこと礼を言う」
「こちらこそ、任せていただけたこと光栄に思っています。必ず尾獣を救い出して、人間との共生を果たしてみせます」
「任せたぞ、サキ」


***

***


「今更何をしようと変わらんぞ」

十尾の人柱力となったオビトが大樹と満月を背にそう言った。

目の前には九尾化したナルトと須佐能乎を纏うサスケがいて、須佐能乎を鎧のように九尾に纏わせていく。二人のチャクラが混ざり合いより強固な化身を生み出した。

仲間を殺されようと力の差を見せようと、ナルトは立ち上がり何度でも立ち向かってくる。この世界に絶望する以前の自分を見ているようで、その真っ直ぐさに知らず知らずのうちにオビトの心の余裕はなくなっていたのだった。

六道仙人が使っていたとされる仙剣と盾を手にして、オビトは全てを終わらせるためにナルトとサスケに突っ込んだ。

ナルトとサスケもチャクラを刀状に形成しオビトに向かう。

それだけではない。
リー、テンテン、サイ、チョウジ、シカマル、イノ、ヒナタ、シノ、キバの九人が九尾チャクラを纏って、相手の最強の盾を壊すために飛び出した。

ナルトの作った九つの大玉螺旋丸が同時に盾に当たり、バキンと盾に亀裂が走った。

その漆黒の盾の隙間を見逃さず、ナルトとサスケは刀の鋒を一直線に突き刺した。


六道の仙剣が砕かれ、オビトの身体に刃が通る。

その瞬間、オビトの脳内を過ったのは火影になった自分自身だった。まだ心に迷いがあった、捨てきれなかったオビトの夢……



そしてオビトの背中から尾獣チャクラが引っ張り出された。

『思った通りだ。お前がもらってた尾獣共のチャクラに呼応して一撃で奴から尾獣チャクラを引っ張り出せたぞ!』
「だな!あの魔像の顔っぽいのがサキのチャクラだな」
『ああ。ここからは分かってるな!例の綱引きだ。そのまま尾獣共のチャクラを引き抜く!』

ナルトは己のチャクラを伸ばして、掴むように個々の尾獣達に結びつけた。だがきちんと受け渡しを行わなかった守鶴、牛鬼、サキのチャクラだけが弾かれてしまう。

「元々はオレと繋がっていた一尾だ。オレがやる」
「八っつあんのチャクラはオレに任せろ!」

我愛羅とビーがそれぞれチャクラを掴む。
今度はしっかりとチャクラ同士が連結した。
だがサキの方は……

「何でサキのチャクラは弾かれるんだってばよ!だああサキ!!出て来い!!」
『アイツのは自然チャクラじゃないと出てこねえな』
「ンな!今は仙人モードにはなれないってばよ!」

予想外の事態でナルトと九喇嘛が話している間に魔像のチャクラに伸びる手があった。
ナルトが目でその元を辿ると初代火影 千手柱間の姿があり、彼の顔には仙人モード特有の紋様が現れていた。

「初代のおっちゃん!」
「このチャクラはワシが引き抜く」

全てのチャクラが結びつき、連合軍の全忍が集まって綱のように伸びるチャクラを手に持つ。

「よっしゃあ!皆一斉にいくってばよ!」

「せーーのォ!!!」


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