十尾の心臓
=火の国 地下空間=
第三次忍界大戦にて、大岩に体の右半分を潰されて死にかけたオビトはうちはの抜け忍によって命を救われた。
オビトを救った人間こそ、終末の谷で柱間に負け何とか命を繋ぎ三十年にも渡って地下で生きながらえていたうちはマダラだった。
マダラの背後には大きく不気味な木像があって、それと彼の背中はパイプのようなもので繋がっていた。
明らかに怪しい。それにマダラは目覚めたオビトに対し世界がどうのと難しいことをベラベラと語った。
命を救ってもらった恩は感じているものの、この怪しい男を信用できない。だが怪我で動けないのも事実で、オビトは白い人造人間の監視の元、抜け出す機会を待つことにした。
幸いうちはマダラは長い間起きていられないのか眠りについてばかり。その間に人造人間の手を借りながらリハビリに勤しんだ。
***
オビトが壁伝いに歩けるようになった頃、真っ直ぐ伸びる地下通路に横道があるのを見つけた。マダラとオビトが普段使いする部屋の他に部屋があったのか、若しくは外へ通じる道かとオビトはそこを覗き込んだ。
部屋というよりは単なる横穴に近く、椅子やベッドなどの生活用品もない。
だが中央には木が生えていて、まるで檻みたいに中のものを閉じ込めていた。
中にいたのは紺色の髪の子供だった。
年は一、二歳といったところだろうか。
「何で、子供が……」
「みーたーなーー」
「うわあああ!!!」
真後ろから白いグルグルが声をかけてきた。
人造人間の中でも特に性格がイカれてる奴……怪談話に出てくるお化けのようにオビトに声をかけ、その反応の良さにゲラゲラと笑った。
「あの子何だよ!マダラの隠し子か!?」
「いんや、アレはむかーしマダラが愛した女の生まれ変わりだよ」
「は?生まれ変わり!?つか、愛したって、え!はあ!?」
「うるさいなあ。ここ立ち入り禁止。マダラが知ったら怒られるよ」
白いグルグルは地面を指差した。申し訳程度に横線が引いてあって、こんなの分かるか!と怒鳴ってやった。
***
そしてオビトの運命は変わった。
のはらリンが目の前でカカシに殺された日を境に。
こんな世界は認められない。リンのいない世界なんて……
オビトはマダラが語っていた小難しい夢に乗ることにした。
勝者だけの世界、平和だけの世界、愛だけの世界。そこでリンのいる世界をもう一度創る。
オレがこの世界の救世主になるーー
「オレに夢の世界の創り方を教えてくれ」
そうしてオビトはマダラから計画を受け継いだ。
六道仙人や十尾や輪廻眼、この計画の要を話し終えると、マダラはあの部屋にいた子供を連れてきた。
話の中に出てきた十尾の"心臓"だ。
「コイツは不完全なまま生まれ変わった。計画遂行までに人間から尾獣へ戻す必要がある」
「人間から尾獣へって、どうやって?」
「尾獣であった記憶を取り戻させればいい。不完全体だが既に"心臓"としての機能は備わっている」
「前世の記憶か……」
記憶といえば、やはり他の尾獣達が鍵になるだろう。何百年も一緒にいた奴等、それに同じ場所に留まっていてもらった方が後々が楽になる。
「確か木ノ葉には九尾がいるんだったよな」
「フッ、なかなか頭が働くようになったな。時期はお前に任せよう。あの檻の中に入れておけば成長を遅らせることができる」
「分かった」
マダラはじっと見つめていた子供をオビトに渡した。その視線はただの愛する者への熱ではない。マダラにとって、恐らく……
「アンタめちゃくちゃコイツに執着してるんだな。名前はなんて言うんだ?」
「サキだ」
「サキ……」
「一つ計画には関係しないが頼みがある」
「何だ?」
「コイツを魔像に取り込むのはオレがやる」
***
***
時は来た。
九尾と八尾の尾獣玉が外道魔像を覆う結界に衝突した。普通なら物体ごと消し飛んでもいい威力だが……
激しい爆煙が強風と共に散っていく。
晴れた空間に見えたのは十本の尾を持った巨大な怪物だった。
満月を背に、十尾が復活した――――
そしてマダラは今しがた片付けたサキを抱き、オビトと共に十尾の頭上へと移動した。
「サキ!!!」
マダラに抱かれたサキを見てナルトが叫んだ。
『待て、ナルト』
「でも!九喇嘛!!」
『死んでねえ筈だ……今のところは』
ギリギリと歯を軋ませ、九喇嘛はナルトを制止した。
「今のところはって、どういう意味だ。九尾」
カカシは何とか平静を装って言葉にした。
大切な人がまた目の前で死ぬかもしれない、ようやくサキとナルトのおかげでオビトのことを受け入れ始めたというのにダメージが大きすぎる。
『仮結合用に魔像の欠片が残ってたおかげでサキの体は数分は持つ……』
「ならその間に助ければ!」
『落ち着け!こっちにはあの傷を一瞬で治せる医療忍者はいねえ。今のサキを助ける手段はな、半身である外道魔像に……十尾に取り込ませる以外ねえんだよ』
「ンな、大人しく取り込まれるところ見てろっていうのかよ!!」
『ああ、そうだ』
そして九喇嘛の言う通り、十尾の頭上にいるマダラはサキの体を十尾の口元への落とそうとしていた。
その手が非情にも離される。
「ックソおおおおお!!!!」
「サキ!!!」
サキの身体が重力に任せて落下していく。
大きく口を開けた十尾がサキを丸呑みにするまで、一瞬の出来事だったけれどスローモーションのように見えた。
サキを取り込むと十尾は一気にナルト達を攻撃にしてきた。傷心に浸る隙もなく、その攻撃に耐えるのに手一杯になる。
そんな中、九喇嘛と牛鬼がナルト達に言った。
『サキは死んでねえ、他の奴等と同じく十尾に取り込まれただけだ』
『ああ、あの中から引きずり出せばまた五体満足で帰ってくる。助けたいんなら十尾を倒すことに集中しろ。でないとこっちが死ぬぜ』
ナルト、カカシ、ガイ、ビーは尾獣達の言葉に従い、十尾へと意識を向けた。
prev next
目次