一対一の戦い


まだサキが下忍だった頃、大蛇丸と暁の目論見で自身のチャクラを空にされて、裏チャクラが暴走したことがあった。

人の持つチャクラの源は身体エネルギーと精神エネルギー、チャクラ切れはそのまま生命の危機に繋がる。

だから今思えば、あれらの暴走は未完成な"心臓"であるサキの体を死なせないようにする一種の自己防衛本能だったのかもしれない。

今回はそれに賭けてみた。

サキ自身のチャクラが完全になくなると同時に自然チャクラが解放され、更にその制御弁を自ら全開にし、意図的に大量のチャクラを作り出していく。ペイン戦のときよりも多く強いチャクラを――

「あんな事したらまたサキの身体ボロボロになっちまう」
『いや。アイツは今魔像に取られる分とは別に、体の再生にチャクラを充ててる。仙人モードで見てみろ』

ナルトは九喇嘛の言葉に従い、仙人モードになってサキを見た。

サキの体から溢れ出る自然チャクラはきちんとコントロール下にあり、九喇嘛の言う通り体の再生を行ないつつ、戦うだけのチャクラも確保していた。
例え支配できる量を超えたとしても、サキの方から仮結合した魔像へと流せば問題ない。

「……凄え、これがサキの本来の力なのか」
『自然の力の創造主、それがサキだ。マダラはアイツに任せて大丈夫だ。ワシらはオビトとかいう男と魔像をやるぞ』
「ああ!」


***


今まで何度も失敗して、事あるごとにナルトやカカシに頼ってきた。それが悔しくて泣いた日もあった。

けれど失敗があったからこそ、この力を自分のものにできた――準備はできた。


「ハハハハ!!そうでなくてはな。サキ!!」

マダラはサキの方へ飛び火遁・豪火滅却を繰り出した。

「これは前の戦場で見た。水遁……」

隣戦場のナルトやカカシ達に被害が行かないように過剰な水でマダラごと押し流す。
そしてサキはマダラに近接戦を仕掛けた。


(まずはその顔ぶん殴る)


マダラのトップスピードに達していないサキはしばし一方的にやられたが、すぐに学習し反射的に体を突き動かした。

次第に体術でもついてくるようになったサキを見てマダラは嬉しそうに笑った。柱間と戦う時のように心が躍る。

そしてようやくサキの重たい一発がマダラの左頬にヒットした。
先の戦場での柱間の孫娘のような怪力で、マダラの体は後方に吹き飛んだ。


「ハァハァ、、」


肩で息をするサキは血の付いた拳をぐっと握った。
その姿が満足げに見えてマダラは面白くない。


「顔に一発入れただけで満足か」
「これは、前世の彼女が殴れなかった分」
「彼女だと?」
「マダラが彼女を拷問した時」
「……あの時のか。ならばまたその腕を斬ってやろう」


マダラは団扇の先に繋がる大鎌を利き手に持った。それなのにサキは大鎌に明らかに攻撃力の劣るクナイを手にした。

「フッ、手加減はしないぞ」
「そんなの要らない。全力で来て。私も全部賭けてマダラを倒す」


サキは致命傷も厭わずにマダラに突っ込んだ。宣言通り腕を切られようと回復させて、痛覚は通っているだろうに動く手足がある限りマダラに攻める。
何度も何度も血を流して、、、

その姿はまるで獣のようで。
その戦い方はもはや忍ではない。穢土転生のゾンビと同じ捨て身の戦い方だ。


「戦い方が雑になってきたな。ヤケか」


そう指摘した瞬間マダラの体が動かなくなった。
不死身の体で、穢土転生の術者の管理下からも脱したはずなのに。

ゆらりとサキが回復しながら近づいてきた。
血が蒸発し、みるみる傷が塞がっていく。


「木ノ葉に伝わる結界術は赤色に近いほど強度が上がるんだって。昔仲間が教えてくれた」
「それがなんだ」
「マダラが私を容赦なく斬ってくれたおかげで全身返り血で真っ赤だね」


マダラは視線を下に落とし自分の姿を見た。彼女の言う通り真っ赤に染まっているが、その返り血は不自然な紋様を描いていた。
穢土転生の体は負傷した傷を治しても、返り血程度では決して元には戻らない。


「血に自然チャクラを練り込んで結界にしてる。輪廻眼でも吸収できないでしょう」


体の傷が完全に治ったことをチェックしてから、サキはマダラを見た。


「ねえ、一つ聞かせて」
「何だ」
「マダラにとって私たち尾獣は何?」


マダラはその質問を聞いて己の状況も顧みずに笑った。そしてハッキリと言ってやる。


「完全体のために必要な道具だ」


心のどこかで期待した言葉は出てこなかった。

サキは目を瞑って彼女の言葉を思い出した。
伝えなくてはと思うものの、今のマダラに伝えたってまた笑われるだけに感じて言い淀んでしまう。

泣き脅しが通じるタイプでもなさそうだし、戦って戦ってねじ伏せるしかない。
マダラが完全に負けを認めるまで。


サキが次の戦術を考える前に、マダラの方から結界を破壊した。
冷たくて物悲しいチャクラが具現化する。その形は天狗の面をしたような青い怪物ーー須佐能乎の完成体だった。

砂丘で見た須佐能乎よりも数段大きく、チャクラ量が桁違いだった。サキは須佐能乎の攻撃を受けるために多重結界を張った。防御は出来ても攻撃力ではまるで及ばない。


何百年と生きてきたが戦ってこなかったサキと、数十年戦いしかしてこなかったマダラとでは戦闘経験値が違いすぎる。
その経験値を埋めるための自然チャクラだったが、結局のところ不死身相手というだけで帳消しだ。

マダラの圧倒的な強さ、マダラの底を見誤ったサキに須佐能乎の攻撃が直撃した。


「グハッ、、」


狙ってなのか岩に頭を打ち、ぐわんぐわんと視界が揺れた。そのまま大きな青い手がサキを掴み、須佐能乎の中に取り込まれる。


「お前は俺のものだ」


そう言ってマダラはまたサキの胸に右手を突き刺した。
口の中に血が逆流してきて吐血する。

「今、お前の心臓には魔像の断片が接合されているようだな」
「ゴフッ、、やめ」

このままオビトがかけた術を外されたら……そうしたらジリ貧になるのはサキの方だ。そう予期してマダラの腕を掴んだ。
反撃しようと酸の粘液で腕を溶かそうと試みる。だが相手も不死身の体だ。シュウウウという音がするが溶かしきるには至らない。

「怖いか?命を握られているのが」
「……ハッ、ゴホッ、っあああ!!!」


心臓を握られては会話どころではない。
遊ぶように心臓を握り、離しを繰り返される。
命を賭けてマダラに戦いを挑んでいるけれど、こんな目の前で死を焦らされて怖くないはずがない。


「もう少し戦っていたかったが、そろそろ時間のようだ」
「ッ、、」
「復活の時間だ」


体の中央に激痛が走り、意識がなくなった。

サキの頭は真下を向いて、手足がプラプラと揺れている。マダラはサキの胸から手を抜き取り、その血濡れた手で髪の毛を耳にかけながら、涙が溜まっていた目にキスを落とす。


「お前の望む世界は俺が叶えてやる」


愛おしそうに、大事そうに、恨めしそうに……その体を抱きしめた。


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