月花に謳う



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「霜野、ちょっといいか。あ、五十里も」

「ん?俺も?」


 昼休みになり、いつも通り教室を出て行こうとして、冬吾と一緒に呼び止められた。


「ここだと目立つからちょっと場所を変えよう」


 声を掛けてきたのは松坂和紀(まつざかかずき)。すらしとした痩躯だが、筋肉質な腕からなよなよとした印象はなく、所謂細マッチョと言えばいいか。胸元には水色のピンバッチ――風紀委員の証。俺自身はあまり話したことはないけど、気さくで明るいが風紀委員として取り締まるべきときは私事を挟まずきっちりと取り仕切っていたのを見たことがある。
 松坂について廊下の隅の方へ移動する。背後を気にする俺たちに松坂は大丈夫だ、と声をかけてきたので驚いた。そんな俺たちに彼は苦笑してみせる。


「転校生だろ?五月女なら他のやつが風紀室に連行してるはずだ」

「風紀室?」

「生徒会室に入り浸ってるだろ。最近は授業もちらほら抜けてるみたいだし、審判者として委員長からの厳重注意がされてるはずだ」

「風紀から……まあ、確かに最近は時々授業中にもいないよな」


 審判者。こちらもそうそう地位変動がない位だ。絶対的に公平な立場で生徒の素行に対しての評価することができる。生徒証を兼ねる電子カードは生徒の素行に対してポイント制がとられており、その増減が可能となっている。無論、厳格な基準が設けられてはいるが。
 余程のことがない限り減点されることはないと聞いていたが、なるほど。授業をサボったりすると減点対象になるらしい。


「それで、松坂は何の用で俺らに?」


 悠璃が問えば、彼は表情を真剣なものに変えて二人に向き直った。


「あー、それなんだけど、俺が二人の護衛役になる。特に霜野な」

「どうしてそんなことになったの?」

「いや、転校生の言動に対して今のところ、明確に取り締まれる理由がないんだよ。それに――いや、とりあえず親衛隊が不審な動きがあるらしいから、五月女のやっかみの余波が及ばないようにっていうのだな。」


 何かを言いかけて止めた彼にちょっと違和感を覚えたけれど、理由はまあ分かった。それに自身の方が厳重にというのも頷ける。非力な方が相手にしやすいからだ。冬吾は顔も体格もいいし、制裁などの対象には正直なりにくいと思う。



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