『いい天気だなー。』




私はナマエ。バビルスの一年生。家系能力は[疾速]プレストという。

何てことはない。私が意図した時、自身の行動が二倍速でできるという家系能力だ。地味な能力だねってよく言われる。
でも日常生活で結構役に立つからこれでも気に入っている能力なんだ。


私の母はこの能力を生かしてバビルスの事務職に就いてる。この能力のおかげで仕事の処理が早く、デキるリーダーとして重宝されてるらしい。そんな母をすごいと思うし私も将来はそんな能力が活かせる仕事がやりたいと母に伝えた。


そんな中、母からの提案で「ナマエは掃除や家事が好きだから能力の訓練も兼ねてバビルスでお手伝いやってみない?」と提案され、できる範囲で掃除や雑用をする事になった。


バビルスでのお手伝いは以外に楽しくて、清掃員さんや他の教職員さんに感謝される事が多くなった。喜んでもらえると素直に嬉しいので、頑張って続けています。ご褒美にお菓子やジュースをくれるし。

飽き性な悪魔にとって"頑張る"や"継続する"ができるのは珍しい方なので「変わってるね」とも言われるけど、きっと両親譲りのものがうつったんだと思う。





「あ!ナマエちゃん!」
『イルマくん!』


この子はイルマくん。私と同じようにお掃除や雑用を率先してお手伝いしてくれる珍しい悪魔だ。
今は窓ガラスをお掃除してる途中みたい。


最初用務員さんから紹介された時はビビった。だってイルマくんと言えば入学式に禁忌呪文を詠唱。ド派手な決闘を起こす。谷の長をペットにする…など、とんでもない大悪行の数々を行っていると聞いてた。

そんな悪名高き悪魔イルマくんに雑用させるって恐れ多くない?と思いどうにかお手伝いを辞めさせようとしてたが、色々話をしていくととても心優しい悪魔だと知った。

いつもニコニコで柔らかい物腰のイルマくんに、ビビリな私も安心して仲良くなることができた。




『今日は窓ガラスの掃除してるんだー』
「うん!ここの窓ガラスとっても汚れてたから。」
『わーすごい!ピッカピカになってる!』
「窓ガラスの掃除はね、食器用洗剤を20倍に薄めた液で拭くといいんだ。冬だと結露防止にもなるんだよ!」
『イルマくんは何でも知っててすごいね!』



最近は一緒にお掃除や雑用をするのがもう日課になっている。ただの草むしりだって、勝負をするとゲーム感覚でできるから遊んでいるようで楽しかった(ちなみに勝負は家系能力のおかげで私が勝った)
一人でやると物静かなお掃除も、二人でやると楽しいのでいつの間にかこの時間が楽しみになっている。




『イルマくんが居てくれるとお掃除もすっごく楽しいよ。』


これは私の本心。イルマくんは「僕もすっごく楽しい!」と笑顔で返してくれ嬉しくなった。
そうして今日の分のお掃除も終わり、さあ帰ろうとした時、ふと、イルマくんに引き止められた。


「…ナマエちゃん、あのさ、」
『なぁに?』
「…ううん。ごめん何でも無い!また今度言うね!」
『?…うん!』



イルマくんは言い淀んでそれ以上言葉を続ける事は無かった。
何を伝えようとしてたか気になったけど、いつか言ってくれるなら良いかなと思いそれ以上は聞かなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーー






本日もお天気が良く、お掃除日和だなぁなんて思っていた日。

時刻はもうすぐお昼も終わる頃。多数の生徒が教室へ移動する中、職員室近くがざわついている事に気づいた。
なんだかギャラリーも沢山居る。


『なんの騒ぎ?』
「なんかアブノーマルクラスが先生に喧嘩売ったらしいよ」
『へえー。』
「先導はイルマくんらしい」
『えっ!?』


同じクラスの子が教えてくれた。あのイルマくんが?喧嘩を売りに?

おい!イルマ達がロイヤルワンを手に入れると宣言したらしいぜ!とギャラリーが湧く。
何でも今の教室の待遇が悪いので現教室からの移動希望としてロイヤルワンを提示したらしい。
アブノーマルクラス地下にあるもんなぁ。それにしてもすごい騒ぎになってる…。

王の教室。かつて魔王が使用したという教室。学校が誇る格式高い教室。
私の聞いてるロイヤルワンはこんなイメージだった。
そんな教室を手に入れるって…大きく出たなあ。




ガラリ。職員室の扉からアブノーマルクラスの生徒達が出てくる。先頭は…イルマ…くん…?
ドア付近にいた生徒に「まさかロイヤルワンの前にゴミは捨てないよな?」とニヤッと茶化すように笑った彼。

そしてアブノーマルクラスを引き連れ職員室を後にした時、ギャラリーに混じってた私と目が合った。
彼はヒラリと手を上げ、挨拶を兼ねた合図を一度送って去っていった。




…うん、やっぱりイルマくんだった。でも本物?雰囲気も違うし顔つきも違ってた。


『イルマくん雰囲気が違う…』
「なんか悪周期らしいよ」
『いつものぽわぽわなイルマくんじゃないいぃ』


イルマくんの悪周期ヤバい。あのイルマくんはどこ行っちゃったの。昨日までの雰囲気がもう懐かしい。
ナマエは元のイルマくん派なんだねー。悪周期もかっこいいじゃん!
なんてクラスメイトが言っているけど、私にとって悪周期イルマくんは少し苦手な雰囲気だった。話づらそう。怖い。

ヤダよー。怖いよー。私ビビリなのに。悪周期いつ終わるのかな。








そうして放課後お掃除タイムを迎えた。失礼を承知で言います。できれば悪周期終わるまで会いたくないなと考えた私は日課のお掃除の場所を変える事にしました。

今日は校舎裏の掃除に変更。もちろん誰にも話してない。きっとイルマくんもロイヤルワンの事で忙しいから来る可能性も低いし。パパっとやって帰ろう。



「よう、ナマエ」
『イイイイルマくん』



と思ってたのに私の作戦は虚しく敗れ、あっさり見つかってしまったのだった。
ビビリすぎて自分でもヤバいと思うほどどもっちゃった。
何で来たのイルマくん。忙しくないのイルマくん。こんなのにかまってる暇無いでしょう。



「そんな怯えんなって。」
『あ、ごめん…。悪周期なんだってね!』
「まあ、そんなとこだな。」
『体調は大丈夫?頭痛がしたりとかは無い?』



…そもそも悪周期とは強いストレスでなるもの。イルマくん、ストレス抱えて無さそうに見えてたけど実はストレス溜まってたのかな…。

もしくは学校やお家で何かあった?いつも何があっても優しいイルマくんがこんなになるなんて相当の事だよ!
誰なのイルマくんをこんなにしてしまったのは!


悪周期になってしまった彼の事を考え一人で悶々としているとイルマくんが私を見据え、声をかける。



「ロイヤルワンの事は聞いたか?」
『聞いたよ。あの教室手に入れようとしてるなんてすごいね。』
「実はロイヤルワンともう一つ手に入れたいものがあってな。」
『そうなんだー。それは手に入りそう?』
「そうだな…それも一筋縄じゃいかなさそうなんだよな。」



なんだろう。いっぱい手に入れたいって大変…。難しいんだ、頑張ってほしいなぁとなんとなく考えてたら、イルマくんが何かを決心したような顔つきをし、グッと距離を詰めてきた。



「ナマエ、お前に伝えないといけないことがある」
『なななな何でしょうか』






何、怖い。そんな顔をして、何を言われるの。怖い。


文句?文句かな?プチネガティブな私はすぐ悪い方向に考えてしまう。今の状態で言われたら心折れちゃうかもしれない。そして悪周期イルマくんの圧がすごくて小心者の私はビビってしまった。


イルマくんはゆっくり歩みを進めこちらに近づいてくる。でもあまりに近距離で来るものだから私が少し距離を取ろうとすると、また近づいてきた。
一歩下がれば一歩近づく。そんな事を繰り返してたら段々壁際に追いやられて、背中が壁についてしまった。


「昨日言えなかった事の続きだ。」


…こんな体制で言わなくても。と思う。イルマくんは壁に手をつき、さらに顔をグッと近づけてきた。

まずいまずいまずい!恐怖と困惑で、私はシュンっと下に抜けイルマくんとの間合いから脱出した。
イルマくんは両手で私を囲もうとするがスピードが早い私はスルリとそれを避けた。
チッ!っと舌打ちが聞こえる。舌打ちまでするなんて!悪周期やっぱり怖い!



「普通そこ避けるか!?」
『ひぇえ』
「だから逃げんなって!」
『じゃあイルマくんも追いかけてこないで!」
「ナマエが止まらないからだろ!」



追いかけるイルマくん。逃げる私。


家系能力のおかげでスピードは若干私が早く、捕まえようとする手を頑張って全部かわした。こんなにも全力で家系能力を使用したのは初めてだった。

ハァハァ、ゼェゼェ、数十分間追いかけっこをした私たちは体力の限界が来て同時に地面に跪いた。




「ちゃんと…話…聞けって…」
『だって…イルマくん…いつもと…顔つきが違いすぎて…怖いんだもん…』
「おまえ優しい顔して結構ハッキリ言うのな…」



乱れた呼吸がどうにか整ってきた。ふぅ…とため息をついて目の前のイルマくんを見る。
イルマくんはジッ…っとこっちを見ててまた距離を詰めてきた。



「ナマエ…」
『……いやいやいやいや!!!顔が近い!近いです!!』



ここまで来たら何となくだけど、イルマくんが言おうとしてる事は雰囲気で察してしまった。
それより悪周期イルマくんの熱っぽい視線と吐息のような私の名前を呼ぶ声に耐えきれない!

恥ずかしさに限界が来た私はまた逃げようとするけど、今度こそは逃さないとでも言うように抱きしめられてしまった。



「好きだ…ナマエ…」



抱きしめられながら、耳元で囁かれる。
その余りの色っぽさに全身に血が周り体中が熱くなった。



『ひあ、』
「好きだナマエ。もう逃がさねぇよ。」



まだジタバタする私を更に抱きしめ、捉えた腕の力が強くなる。
イルマくんが、私の事を好き?まだ信じられなくて、聞いてみた。



『手に入れたかったものって…これ?』
「そうだ。お前の返事は?」
『あまりにいきなりであのイルマくんが?って信じられなくて混乱してます…あの…私のどこが好きになったんでしょうか…』
「全部」
『全部!?』
「…何でも楽しそうにしてるとことか、悪魔のくせに誰彼構わず優しいところとか、笑ったら可愛いとことか…。そういうの含めて、全部だな。」


イルマくんに見つめながら言われ、顔が更に熱くなったのが自分でも分かる。
お褒めいただきありがとうございます…。


「ロイヤルワンを手に入れたら俺と付き合うと約束しろ。」
『い…いきなりだね…。そして私の意見は!?』
「こうでもしないとお前付き合わないだろ。」
『うー…、うーん…?…まあ…、考えてみるね…。』
「約束だからな」



悪周期イルマくんは私のほっぺをムニッとつかみ、不敵にニヤッと笑った。その顔に一瞬ドキッとしたのは言わないでおいた。
そして、この時私はさすがにこのイルマくんでも3日でロイヤルワン獲得は無理だろうなぁ。そう思っていた。









予想が見事裏切られ、数日後イルマくんと付き合う事になるのを私は知らない。

















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いきなりガチなお掃除裏技情報教えてくれる入間くん書いてて自分でも笑っちゃった。
7巻読んでたら草むしり勝負…!?何それ可愛い…!と思い書きました。入間くんも入魔くんも天使だと思います(感想文)
入間くんのお掃除裏技情報を集めた番組を作ろう…おじいちゃん作って…

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