道は照らされた
椎野くんと別れたあと、家に帰って真っ先にベッドに行った。
いつもならお風呂に入った後じゃないと絶対にベッドには寝ないのに、そんなことを気にしているほど悠長にもいられなかった。
枕をぎゅっと抱きしめて顔を埋める。
『…っ………』
椎野くんを振ってしまった罪悪感に襲われる。
あれだけ真っ直ぐに私を想ってくれて、最後まで優しかった。
あんなに良い人はなかなか現れない。
だけど、私の心はそこにはなかった。
一か月間ずっと考え続けた。
好きっていう感情を。
考えても考えても答えは一向に出てこなかった。
だけど今なら言える。
好きって言う感情は頭で考えてわかるものじゃないんだね。
全部全部自分自身に耳を傾けないとわからないものだった。
最初から答えは出てたんだ。
携帯を取り出して“白石蔵ノ介”と書かれてあるアドレスに新規メールを作成する。
≪明日会えますか?≫
いつもよりも緊張気味に文字を打つ。
返信がくることに対して怖ささえ抱いてしまう。
時計を見れば夜の10時を少し過ぎた頃。
返信はなかなかこなくて目がだいぶうとうとしてきた頃。
手の中の握りしめていた携帯が振動した。
今の今までうとうとしていた目は一気に覚めてベッドの上で反射的に正座をしてしまう。
受信ボックスを見るのが怖い。
拒否的な言葉だったらどうしよう。
汗ばむ指で受信ボックスを開く。
そこには予想外の文字が並べてあった。
≪今からじゃあかん?≫
今から……ってことは今から?
ど、どうしよう。
私こんなに泣いたから絶対目真っ赤だし腫れてるよ。
だけど、実際私も明日を待つよりも今すぐ言いたかったのが本音。
≪大丈夫です。どこで待ち合わせしましょうか?≫
そう送った後すぐに着信音が鳴りだした。
表示してある名前は“白石蔵ノ介”。
『も、もしもし!』
焦ったまま出てしまったからつい声が大きくなってしまうという失態。
そのことに対してか白石さんに「はは」と笑われた。
「こんばんは。今どこおる?」
『家です』
「家か。自分家ってどこらへん?」
『えっと、○×駅のホームを出てすぐ左に曲がったところを真っ直ぐ行ったらコンビニがあるんですけど、そのコンビニの正面のマンションです』
「ん、わかった。じゃあちょお待っといて」
『え?いや、いやいや!わざわざ来てもらうの悪いですし、待ち合わせ場所言ってくれたら…』
「あかん。女の子なんやからこない遅くに出歩くもんやない」
きっと白石さんは折れないだろうからと思って、素直に白石さんの気遣いを有り難く受け取った。
「んーせやな、今から15分くらいで着くと思う。また着いたら連絡するわ」
『はい。気を付けてくださいね』
ほな、という声を聞き電話を切る。
一旦ボーっとすると横目で部屋を見渡す。
そこまで散らかってはなかったけど一応物を整えておく。
恥ずかしくないくらいには綺麗にしとかなくちゃ。
白石さんが今私の家に向かっているかと思ったら自然と心拍数が上がっていく。
指先が軽く震えているのはきっと気のせいじゃない。