君に幸あれ


告白をされてから一ヶ月ちょっと経った。
あれからずっと考え続けた。

私なりにきちんと向き合った。


だから今日答えを言うために会うことにした。


「名前、今から?」

『言ってくる』

「そうか、頑張ってき」


ルミの言葉に笑って返す。

正直ちゃんと気持ちを伝えられるかわからないけど、いつまでも考え込んでいても仕方ないから。

腕時計を見て時間に遅れないように少し足を急がせる。


待ち合わせの場所に行けばまだその人は来ていなかった。

とりあえずそのことに安心する。
今日こそ私が呼び出したんだから待たせたらいけない。


この待ってる時間ってこんなに緊張するもんなんだ。

最初の一言なんて言おう。

明るく“やっほー”?
でもちょっとこれは雰囲気に合わないよね。


礼儀正しく“こんにちは”?
うーん、これはなんかよそよそすぎる気がするし…。




「ごめん。待たせた」

そうこう考えていると頭上から声が聞こえた。

『え、あ、うん。大丈夫』


急いで来てくれたんだろうな。
だって椎野くんの髪少し乱れてる。

椎野くんは手で髪を軽く直しながら「話しやすい場所に移動しようか」と言って足を進めた。


結局始めの挨拶を考えていたのになんの役にも立たなかった。
歩いているとき何を話せばいいのかわからなくて何も話せなかった。
椎野くんから口を開くこともなく、お互い黙ったまま近くの公園に行った。

公園の中にあるベンチに腰掛けると軽く息を吸って口を開いた。


『ずっと答え出すの待ってくれてありがとう』


椎野くんの方へ体を向けて言った。

そうすれば椎野くんも私を見てくれた。


こうやって本人を目の前にすればやっぱり言い辛くなる。
ちゃんと言わなきゃ。

椎野くんだってきっと私に気持ちを伝えてくれたときすごく緊張したと思うし、それまでもすごく考えてくれたんだと思う。



『…椎野くんの気持ち、すごく嬉しかった。人に告白されたのとか初めてでどうやって答え言おうかずっと迷ってて』

何かをしてる時もいつも脳裏に過るのはこのことで、本当にずっと考えてた。



『私はやっぱり……椎野くんとは友達としてこれからも仲良くしたい』


自分のスカートの裾を力を込めて握りしめる。
振り絞って出した声は震えていて自分でも驚くほど不安定だった。

椎野くんから返ってくる言葉が怖くてつい目を逸らしてしまった。



「ありがとう」

耳に届いた声は穏やかで落ち着いていた。

ゆっくり椎野くんを見上げれば少し眉を下げて笑っていた。


「まだ当分苗字のことは吹っ切れないと思うけど、これからもよろしく。友達として」

『うん…』

「そんな顔するなよ。そんな顔をさせたくて言ったわけじゃないんだから」


笑って、と私の頬を椎野くんが指で上に上げる。

そのせいで変な顔になってそれを見て笑われた。


『はかった、はらふはらっ』

「っははは」


椎野くんは力が抜けたように笑えば少し俯いた。


「…ごめん。最後に困らせるかもしれないけど、聞いてもらってもいい?」

『うん』

「苗字に真剣に悩んでもらっただけで嬉しい、なんて綺麗事今は言えそうにない。本当は誰の所にも行かせたくない、本当はずっと俺の隣で笑ってほしい。だけど、苗字には誰よりも幸せになってほしい。だから…」



少し間をあけて椎野くんは再び私を見つめた。










「絶対に幸せになって」


その言葉が切ないくらいに心に響いて、思わず冷たいものが頬を伝っていった。

色々と感情が溢れてきて私も言いたいことがまだまだたくさんあったのに、どれも言葉としては出てきてくれなくて、首を縦に振るのが精一杯だったんだ。

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