暗黙の法則
帰り際に連絡先を教えてほしいと言われたから交換して、それから何度か学校終わりなんかで会ったりした。
特に用事はないのでぶらぶらと街を歩いたり公園で話したりしている。
昨日も何度目かの“明日の学校終わり空いてる?”とメールが来ていた。
用事はなかったので大丈夫というか返事をして会うことになった。
「最近よう会うとるみたいやな」
学校が終わり際にルミが返る準備をしている私に言った。
たしかに、頻繁に会ってるわけでもないけど里香ちゃんに紹介されてからあまり日にちは経っていないのに3〜4くらいは会った。
『椎野くんと?』
「そうそれ」
『毎回特に用事があるわけでもないみたいなんだけどね』
「それって、その椎野って人名前のこと好きなんちゃう?」
ルミの突然のその言葉に返る準備をしていた私の手は止まる。
『…ちがうよ。友達として一緒にいて楽なんだと思うよ』
「友達なあー…。あたしは男女の関係に友達っちゅうんはないと思うとる」
私の前でパンを頬張りながら「あくまであたしの考えなんやけどな」と付け足す。
『そう、なのかな…』
「いくら友達同士言うても異性同士なんやさかい、絶対越えられん一銭っちゅうもんがあるやろ?」
『…うん』
「ごめんごめん、責めるつもりで言うたんちゃうんや。ただ、あたしの考えも頭に入れといて欲しかっただけ」
『ううん、ありがとう。ちゃんと覚えておくね』
“異性同士の友達関係はない”
そうなのかな…。
でもルミが言っていたこともわかる。
いくら友達同士って言っても異性なんだから同性の子とはちがって出来ることに限りがある。
限りがあるってことは完全に友達とは言えないっていうのがルミの考えなんだよね。
わかるよ、ちゃんとわかる。
だけど私はそれでも異性同士でも友達関係は成り立つんじゃないかなって思う。
どうしてって言うはっきりした理由は言えない。
恋愛感情を抱いているわけじゃないけど、一緒にいて楽しいから一緒にいる。
これだけだったら友達って言えないのかな。
そんなときに携帯が震えだした。
カバンの中から携帯を取り出し開くと“新着メール 1件”と表示されてあった。
相手は白石さんだった。
“聞きたいことあるんやけど、都合がええ日いつ?”
なんか急ぎなのかな。
今日はさすがに間に合いそうにない。
明日はたしかバイトも入ってなかったよね。
一応スケジュール帳で確認してみればその日は入ってなかった。
“明日とかは大丈夫です”
それから少しやり取りして明日会うことになった。
聞きたいことってなんだろう…。
なにかあったのかな。
そんなことを考えていたら校門の外で椎野くんが待ってくれているのが見えた。
そうだった。
昨日のメールで校門の外で待ち合わせってことになってるんだった。
急いで走って椎野くんのところまで行き椎野くんに謝る。
「いいよ、別に対して待ってないし」と笑って言ってくれた。
椎野くんの優しさでそう言ってくれたのかもしれないと思ったけどそこでまたそのことを口にするのはややこしくなりそうだから、椎野くんの優しさだと思い有り難く受け止めておいた。
椎野くんはすぐ傍にあるバイクのエンジンをかけた。
今まで何度か会ったけど全部駅とかで集合していたのでお互い電車を使っていた。
だからバイクを見るのは初めてだった。
『バイクで来たの?』
「ごめん、乗るの怖い?」
『大丈夫だけど…』
“異性同士の友達関係はない”
ルミの言葉が再び脳裏を過る。
その言葉が引っかかりバイクに乗ることを躊躇う。
「今日行くところちょっと遠出になりそうだから、バイクで来たんだ」
『…そうなんだ。どこ行くの?』
「まあそれは行ってからの楽しみにとっといてよ。とりあえず乗って」
ヘルメットを渡され戸惑ったけど断る勇気もなかったので、流されるまま後ろへ乗った。
乗って気付いたけど私バイク乗るの初めてだ。
これって取っ手みたいなところはないのかな。
『バイクってどこ掴めばいい?』
「ここに一応持つとこあるんだけど、不安だったら俺に捕まってて」
正直細い取っ手で不安で仕方なかったけど、椎野くんにしがみつくわけにもいかないので力いっぱい細い取っ手を握り締めた。