記憶の果てに
とりあえず混乱しそうになった頭を無理矢理落ち着かせ、大きく息を吸う。
相変わらず目の前の謙也はジタバタして落ち着かない。
「言っとる意味わからんのんやけど」
「せやから!名前ちゃんって彼氏おったん?」
「やのうて、なんでそうなるん?」
「この前学校帰りたまたま見かけたんやけど、そん時隣に男連れて歩いとったんや」
男と一緒やった?
男が苦手な名前ちゃんが?
あり得へん。
信じられん。
どういうことやねん。
「どないな感じやったん?」
「あんまり見えんかったけど、笑いながら喋りよったわ」
名前ちゃんが通っとるS大は女子大やさかい、学校に男はおらん。
わざわざそうやって男と一緒に帰るってことはやっぱ彼氏なんやろか?
ほんでも名前ちゃんから彼氏おるなんか聞いたことないで。
まあここでうじうじしとってもしゃあないわ。
直接聞いてみるんが一番手っ取り早い。
「ってもうこんな時間やん!?財前もう居酒屋で待っとるで」
腕時計で時間を確かめる。
ほんまや、約束しとった時間の10分前。
「先車乗っといて」
車の移動中でもええのに先に謙也を車に行かせ、その場で俺は携帯を取り出し名前ちゃんにメールする。
気持ちを落ち着けるために一人でメールしたかったから。
≪聞きたいことあるんやけど、都合がええ日いつ?≫
返事は案外早く返って来た。
≪明日とかは大丈夫です≫
よかったわ。
来週とか言われたらどないしようかと思うた。
こんなにもやもやしたまんまの気持ちで毎日過ごすとか地獄やで。
≪ほな、明日大学終わり次第連絡してや≫
≪はい。わかりました≫
携帯を閉じ意味なく空を見上げる。
どこまでも真っ青な空が広がっている。
そんな空に吸い込まれそうになる感覚。
こんなに本気になったんいつ振りやったっけ。
この気持ち、久しぶりに出逢った気いするわ。
「はは…」
乾いた笑いが口から漏れる。
今度は後悔しとうないねん。
「白石ー、行くでえー」
「おお、今行くわ」
門の外で車の中から手を振っている謙也のところまで足を進めた。