空虚の余韻


『それでずっとそのお客さんに捕まっちゃって…』

「30分も話し込まれたら困るわな」


電話越しで聞こえる名前ちゃんの声は普段よりも少し高く聞こえる。

相変わらずほわほわした喋り方はまだ幼さを残している。


最近メールや電話のやり取りもそんなに珍しいものじゃなくなってきた。

ちゅうてもやっとんのは全部俺からやけど。



『白石さん、そろそろ寝てください』


いきなりそう言いだした名前ちゃんに思わずプッと吹き出してしまった。


「っははは」

『あ、明日早いって言ってましたから…』


控えめに言う名前ちゃんの顔が頭に浮かぶ。

いつもそうやって気を遣ってくれる名前ちゃんへの好感度は上がるばかりだった。


「せやな」

『じゃあ…切ってください』

「今日は名前ちゃんから切ってや」



初めの頃電話をした時どちらが先に切るかだけで数十分話したことがあった。

普段から無駄嫌いな俺やけど、そん時の時間は俺にとって全然無駄なことだとは感じんかった。


名前ちゃんが言うには先に切ると相手に悪い気がする、そうだ。

気持ちがわからないこともない。



『ええっ。困ります』

「名前ちゃんもそうやって困らすことを毎回俺にさせてんねんで?」

本当は全然困っていないが、名前ちゃんの反応が面白くてついからかってしまう。


『……じゃあ今日は私が切ります』

これ以上は何も言えないのか、諦めたようそう言う。


「おん。ほなまたな」

『はい。おやすみなさい』

「おやすみ」


そこでツーツーという音が耳に届いた。

こうやって電話をし終わった後はさっきまで聞いていた名前ちゃんの声が夢みたいで空虚さでいっぱいになる。


なんや寂しいな、そう思いながら布団に潜る。





それからしばらく経った。

今受けていた講義が終わり、今日は謙也と財前で飲みに行く約束をしていたので、早めに教室を出て謙也との待ち合わせ場所としていた門の近くのでっかい柱の前で謙也を待つ。

同じ大学に通っているものの、謙也とは受験した学科が違うから昼とか以外では学校で会うことはそんなにない。


俺が着いてすぐに謙也がこっちへ向かって来ているのが見えた。
昔から自慢のあいつの馬鹿速い足で走ってこっちへ向かい、着くなり大声で俺の名前を呼んできた。


「白石!!」

こんな近くにおるんやからそないでっかい声出さんでもええやろ。

耳がキンキンするわアホ。



「そないでかい声出さんでも聞こえるわ」

「ああ、すまん…ってちゃう!お前が狙っとった名前ちゃんって子、彼氏おったん!?」

「は?」


意味わからん。

なにがどうなってそうなったんや?



俺はただ唖然と目の前の謙也を見ることしかできなかった。

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