「今日の練習はここまで。各自後片付けにはいり、1,2年はコート整備して帰るように」


「「「イエッサー!」」」



部室で着替えていると隣の柳が話しかけてきた。


「精市、デートはどうだったんだ」

「あぁ、すごく楽しかったよ」

「それはよかった」

「服装とかはもちろんだけど、泣き顔は最高だったな」

「な、泣き顔って!部長なにしたんスかっ」


“泣き顔”というワードに反応したのか、背中合わせの赤也が焦って口を開いてくる。


赤也は苗字さんが泣いた理由が俺にあると思ってるみたいだ。
苗字さんにそんなことするわけないだろ。


「映画だよ。映画に感動して泣いたんだよ」

「映画っスか…脅かさないでくださいよお」


脅かしたつもりはなかったんだけど。
そう思ったけど、口には出さなかった。


「映画ですか。その映画のタイトルは?」

「【しろくまたちよ愛を育め】」


そういった瞬間なぜかみんなポカンと口を開けている。
真田までもが。

ふふ、アホ面全開だな。

次の瞬間部室は爆笑の嵐となった。


「あははははは!なんだよそのタイトル…っまじウケるんだけど!」

「そ、そのような映画があったとは存じ上げておりませんでした…っ」

「しろくまたちの愛か…クク、興味深いのう」

「しろくまの愛…っお、俺はいいと思うぞ!」

「それって誰が提案したんスか!?」


悉く馬鹿にしてくる奴ら。
ただ一人柳だけは「ほう」とか言ってノートに何か書き込んでいる。



「お前たち、苗字さんを馬鹿にするの?」

いい度胸だね、そう呟くと一気に静まり返る。


「じゃあ俺は先に失礼するよ」


うしろで「死ぬかと思ったぜ…」と聞こえたが別に気にしない。




門を出ると見慣れた後姿が見えた。
あれは、苗字さんだ。
その姿を追いかけて隣に行く。


『あ、幸村先輩。お疲れ様です』

「ありがとう。今日はどうして遅いの?」

テニス部は他の部活よりも活動時間が長いため、毎回最後に門を出る生徒になる。
だからこうして自分たち以外の生徒がこの時間にいるのは珍しい。


『ちょっと担任の先生に色々頼まれていて』

「そっか、苗字さんもお疲れ様。今日はもう暗いから送って行くよ」


空は赤から黒に変わっている途中。
もう数分すればほとんど街灯しか頼るものがなくなるだろう。
そんな中女の子を、ましてや好きな子を一人で帰らせるわけにはいかない。


『え、いいいですよ!大丈夫です』

「大丈夫だっていう保証はないだろ?」

お願い送らせて。
そう言うと彼女は少し間を空けて「お願いします」と呟いた。





なんでだろう。
こうやって隣に歩くだけでとても幸せな気持ちになれる。
彼女を見るだけで胸が高鳴る。

彼女が笑えば俺まで笑顔になれる。

彼女が涙を流せば思い切り抱きしめたくなる。

頭が彼女のことでいっぱいになる。


どうしてこんなにも彼女のことが愛しくてたまらないんだろう。


ほんとに俺は君のことが大好きで仕方ないみたいだ。

だからこそ思ってしまう。








君の全てを
《俺の色に染めたいってね》