「さぁさぁ、幸村くんしっかり食べてね!男の子は体力つけなくちゃ」

「ふふ、ありがとうございます」



おかしい。
この光景はどう考えてもおかしい。



どうして幸村先輩が私の家でご飯を食べているんだろう。





数十分前に記憶を遡らせる。


『ありがとうございました』

「どういたしまして。それじゃまた明日」


幸村先輩にお辞儀をしてそこで別れる予定だった。


「あ、名前〜」

奥の方でお母さんが手を振って近付いてくる。




「あら〜!どうしたのこのイケメンくん」

両手に買い物袋を持って私と幸村先輩を交互に見る。
お願いだから幸村先輩の前でそんなことしないで…!
なんだか私が恥ずかしくなる。


「こんばんは」

「ま、声も美声ね!」

『もういいからお母さん中入ってっ』


うちのお母さんは中身はきっと高校生のままで止まってると思う。
お母さんの背中を押して玄関に入れようとした。

が、ぱっとうしろを振り返りこう言った。




「今日焼き肉の予定だったんだけど、お父さん遅くなるからご飯いらないって言ったのよー。イケメンくん、よかったら一緒に食べていかない?」

「いいんですか?それじゃあお言葉に甘えて」





そんなこんなで今に至ったわけです。




「で、で?名前と幸村くんはどういう関係なの?」

『今お昼に勉強教えてくれてる先輩がいるって言ったでしょ?その人が幸村先輩』

「ええーやだー」


なにがいやなのかはよくわからない。
だけど、お願いだから幸村先輩の前でそんな姿を見せないでほしい。



「もしかしたら付き合ってるかなーって思ったのに」

『つ、付き合っ…!?』

「そうですね。僕でよければ」


幸村先輩の言葉に飲んでいたお茶が気管に入った。


『んっんっ…!』


自分の胸元をドンドンする。
幸村先輩も私の背中を擦ってくれている。


「あーあー、なにしてるのー」

「大丈夫かい?」

『ゲホ…っゲホ…だ、だいじょう、ぶです…』

「もうこんな子でごめんなさいね」

「いいえ、こういうところも彼女のいいところですから」

「キャーッ!幸村くん優しい!こんな子でよかったらいつでももらってやってね!」

『お、お母さん!』


キャーッていくつの人なの。
私でも言えないのに…。


さっきから幸村先輩の発言に驚かされる。
そんなこと言われたら真に受けてしまいそうだ。

社交辞令っていうのはわかっているんだけど、こうも言われたら…ね。













『今日は色々とすみませんでした』

「いや、こちらこそご飯ご馳走様」

『あの、お母さんの発言、…その、気にしないでください…』


好き放題言ってくれたお母さん。
もしかしたら気を悪くしてしまったかもしれない。
そういう意味でも頭が上がらなかった。



「俺は結構嬉しかったんだけどな」

『え…?』

「ふふ、じゃあおやすみ」





幸村先輩の最後の発言に玄関で固まった私。

どういう意味で言ったんですか…?




言葉の意味を
《探し求めることに躊躇いがあった》