「ただいまー」

 その日の夜8時過ぎ。
 大将が本丸に帰って来た。

 いつもの適当な格好じゃなかったから、多分仕事帰りにそのままこっちに来たんだろう。
 予定外の主の帰還に喜ぶ刀も多かったけど、はっきり言って今はそれどころじゃない。これから落ちるだろう特大の雷の被害に遭わぬよう、みんな和泉守と同田貫からそそくさと離れて逃げて行った。

 今以上に手入れ資源が増えなきゃいいけど、などと思いながら、オレは台所へ行って大将の分の夕食を温め始めた。仕事が終わった頃にもう一度連絡したら、今晩はこっちで食べるって言ってたからな。


 ――大将が帰ってきてから20分は経った。そろそろ説教も終わっただろう。

 温め終わったおかずを皿に盛って、おぼんでひとまとめに持って行く。
 手入れ部屋の前を通ったら、中から「くそ、思いっきり蹴りやがって……」「余計に手入れ時間延びたじゃねーか」などと文句を言う声が聞こえた。

 大将は広間でテレビを見ながら、まだイライラした調子で一人愚痴ていた。
「よっ、大将おかえり。夕飯持って来たぜ」
「おー、厚。サンキュ」
「急に呼んじまって悪かったな。こればっかりはオレたちだけじゃどうしようもなくて」
「いや、あんたが謝ることじゃないし。あいつらにはきつく言っといたから。……じゃ、いただきまーす」
「おう、どうぞ召し上がれ……ってオレが作ったわけじゃないけど。で、そういえば二人に蹴り入れたんだって?」
「なんで知ってんの」
「さっき手入れ部屋で文句言ってるの聞こえてさ」
「……あいつら、もっと絞めた方が良かったか……」
「オレもちゃんと見てなかったからな。次からはもっと気を付けるよ」
「いやいや、だからあんたは十分よくやってくれてるって。何も問題なし」
「そうか? そう言ってくれるとありがたいけどな。あ、そういえば今日はどうするんだ? 食ったら帰るのか?」
「……それが一番の問題でさ。今から家帰るのもめんどいし、かといって明日ここから出勤するのもめんどいっていう」
「だったら泊まっていけばいいんじゃねーか? 明日早いんだったらオレ起こすし、歌仙か燭台切に言えば弁当も作ってくれると思うぞ」
「マジか」
「たまにはいいだろ。それに、大将がこっちにいると弟たちも他のみんなも喜ぶしな」
「……そう? えー……じゃあ今日はお言葉に甘えようかな」
「おう」
 

 オレも、大将がいてくれた方がいい……とはさすがにちょっと言えなかったな。



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