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「そういえば、三成、あなたまだ独り身でしたよね?」
 伊都の唐突な問いに、三成は思わず咳き込んだ。
「えっ、あ、はい……そうですが……母上、何を……」
「一国一城の主が独り身だなんて、恰好がつかないと思って。殿もそうお思いでしょう?」
「うーむ……確かになぁ。嫁を娶る予定はないのか?」
「わ、私は秀吉様に忠を尽くすことが生き甲斐。嫁などと浮ついてはおれませぬ」
「まぁ、頭が固いところは変わらないのね。わたくしたちもそう若くはないのですよ? 早う孫の顔を見せてくれてもよいではありませんか」
「そうだな。太閤様に仕える身ではあるが、お前はここ近江の領主でもあるのだ。いずれ世継ぎも必要になるぞ」
「父上まで……」
「そうだ! 母が良いお相手を見つけて差し上げます!」
「は!? いや、母上お待ちください! 私はまだ何も――」
「えっ!? 三成様、お見合いするんスか!?」
 一際大きな声を上げたのは、三成でも正継でも伊都でも使用人の誰かでもなく、目立つ頭のあの男だった。
「左近っ! 貴様、預けた仕事はどうした!?」
「ちゃんとやりましたよ! 刑部さんが証人です!」
 左近に引っ張られるようにして、吉継が申し訳なさそうに顔を覗かせた。
「……まァ、やるにはやっておったな」
「ほら! 聞きました!?」
「……結果は知らぬがな」
「え、ちょっと刑部さん……?」
「貴様、また適当に片付けたな!」
「ち、違いますって! ちゃんとやりましたって! あ、お父さんお母さん! 助けてください〜!」
 怒った三成から逃れるように、左近は伊都に駆け寄りその背に隠れた。
 吉継は輿に乗ったまま、ふわりと三成の横に着地した。
「久方ぶりの家族団らんを邪魔立てするつもりはなかったのだが……あいすまぬな」
「いい。どうせ左近が言い出したのだろう」
「ひっでー! また俺が悪者っスか!」
「刑部はこのようなことはしない」
「ヒヒッ……信用がないなァ? 左近?」
「確かに言い出したのは俺っすけど〜……だって、三成様のお父さんとお母さんがどんな人か気になるじゃないっすか」
 左近の言葉に、正継と伊都は顔を見合わせた。
「どう、と言われましても……ねぇ? 殿?」
「うむ……特にこれといって何も……なぁ?」
「いやいや、俺にとっちゃ十分不思議なんすよ。三成様のご両親っていったら、もっと怖〜い人だと思ってたんで! お二人とも優しそうな方で良かったッス!」
 にかっ、と歯を見せて笑う左近とは正反対に、三成は先程から明らかに不機嫌であった。
「……左近……貴様、私がそれほど恐ろしいか……」
「そりゃあもう……って、あ、いやでも、そ、それ以上に尊敬してますから! そんな睨まないでくださいよ〜……あっ! そういえば三成様、お見合いするって本当ですか!?」
 高らかに声を上げた左近は、興味津々に瞳を輝かせていた。
「話を逸らすな! ……あれは母上が勝手に言い出しただけだ」
「あら、わたくしは本気ですよ? いつかは嫁取りしなければならないのです。あなたもいつ戦で命を落としてもおかしくないのですから、早いに越したことはありませんよ」
「ですが母上……」
「いいじゃないっすか、お嫁さん! 俺、三成様の祝言盛り上げますよ!」
「まぁ、頼もしいこと。ほら、左近様もこう仰ってくれているのですから」
「……しかし……秀吉様は……」
「秀吉様? 太閤様がどうかなさったのです?」
「……秀吉様は、愛を捨てられました。愛はいつか弱味になると。私も同じように生きたい……と思うております」
 三成は視線を落とし、口を閉ざした。
 隣の吉継が代わりに言葉を続けた。
「……三成は太閤にひどく憧れているゆえ。それに、この通り頭の固い男よ……夫婦になるにはお相手選びも難しかろ」
「ふむ……。太閤様も人の情のわからぬ御方ではあるまいに……。人は守るものができてこそ、強くなれるのだ。主君も領民も友人もよいが、何よりも家族はよい。三成、お前もいつかは自分の帰る場所を作らねばならん」
「父上……」
「……わかりました。今すぐにとは言いません。ですが、少しでも考えておいてくださいね」
「母上……お心遣い、ありがとうございます」
 頭を下げる三成に、正継と伊都は少し残念そうに微笑んで頷いた。

 片付けが終わり、使用人が部屋を出ていってからも、五人は時が経つのも忘れて談笑した。
 三成と左近は相変わらずで、それを吉継と正継が笑い、伊都が止めに入ったり共にふざけてみたり。
 ここに来て、我が子は本当に恵まれているのだと実感した。自分のすべてを捧げられる主君に出会えたこと、身を案じてくれる友人と、慕ってくれる家臣に出会えたこと――本人が自覚しているかはわからないが、三成は、まこと幸せ者なのだ。
 子の幸せは親の幸せと言うが、伊都はまさにそれを噛み締めていた。
 この穏やかで幸せな日々が、ずっと続くように――家族三人、それから佐和山、豊臣の皆がいつまでも笑っていられるように――幸福に満たされた伊都は、そう願わずにはいられなかった。



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