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murmur饅頭
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 冷たい雨が上がり、湿気を帯びた北風が強く吹き付ける午後。
 授業も終わりを告げ、姫小路あやめは教室をするりと出て行った。特に用事らしい用事はないが、何とはなしに外に出ようと思っての事だった。
 念のため、マフラーを巻いて校庭に出る。
 体を突き抜ける寒々とした風に身を震わせ、次の授業までの間、景色でも眺めていようかと足を運ぶ。
 日差しを浴びながら読書とでもしゃれ込もうかと思っていた。
 花がぽつりぽつりと、寂しく咲くそこへ到着した。冬だけあって、生命の息吹が、少しだけ寂しい。
 水溜りを器用に避けながら歩き、ちょうど日が照っている場所を見つけたので、座り込んだ。
 ちらりと自分の顔が映る、大きな水溜り。
 すぐに視線を本へと向けて、あやめはページを捲りだす。
 誰が駒鳥を殺したの。
 マザーグースの一節が目に入り、冷たい青空と歌の中身が嫌にマッチしていて、溜め息混じりに本を閉じた。

「何をしている」

 ぶっきらぼうな声がした。
「……ボルトさん」
 水溜りとは逆の方向に、ライダースーツを着用した長身の男が立っていた。
 腕組みをして壁にもたれかかり、フルフェイスのヘルメットの奥で、ふん、と鼻を鳴らしている。
 あやめは、柔らかく笑んだ。
「ボルトさんこそ、こんなところで何をしてるんですか?」
「ただの散歩だ。気にするほどの事じゃない」
 つっけんどんな応対は、何も今に始まった事ではない。
 そうですか、とあやめは笑った。
 視線を逸らすようにそっぽを向くボルト。
 沈黙が流れる。
 あやめは、彼とのやり取りも、この沈黙も、嫌いではなかった。
 が、今は何だか、もう少し喋っていたい気になっていた。
 誰が駒鳥を殺したの。
 本の中で歌われている、少しだけ暗い内容と、凍えるような風と、雲が掛かった空に水溜り。何だか寂しい光景に思えて、つい、こんなことを口にしていた。
「ボルトさんは、背が高いですよね。ご自分の身長はお好きですか?」
「……何だ、いきなり。身長に好きも嫌いもあるものか」
「そう、ですよね」
 ざあ、と強めの風が吹いた。頬を刺すような冷たい空気が流れ、思わず身を竦めたあやめは、波打つ足元の水に目をやると、微笑みながら言う。
「私、自分の顔が、好きじゃないんです」
「……」
 再び沈黙。
 ボルトにとってはどうでもいい事だっただろうか、と彼のほうを見れば、彼は姿を消していた。
 ああ、やはり変な話題だったのだな、と小さく息をついた彼女は、本のページを再び捲りだす。
 ハンプティ・ダンプティ、塀から落ちた。
 図書室から無作為に借りてきたその本は、きっと来栖藍と一緒に歌いながら読めば楽しかったろう。

 がさり。

 何かが擦れる音。
 顔をそちらへ向ける。
 ライダースーツの男がビニール袋を手に、そこにいた。
「……俺は、嫌いじゃない」
 唐突な言葉に疑問符を浮かべたが、それが『自分の顔』に掛かる言葉だと、すぐに分かった。
 ありがとう、といおうとした彼女の目の前に、ずい、と乱暴に何かが差し出される。
 言葉を飲み込むしかないあやめに、ボルトがこれまた乱暴に告げた。
「食え」

 ビニール袋の中身は、ほかほかとパックまで温かい、焼き鳥。

「……これ」
「黙って食え」
 好きだったろう。
 つんつんしたものの言い方だが、その言葉に、姫小路あやめは笑った。
 知っていたのかと。
「……俺は、俺の力が嫌いだ」
 はむ、と鳥ももをくわえる彼女に、ぶっきらぼうに言い放つ。
 雷がですか? そう尋ねると、ボルトは肯定する代わりに視線を逸らした。
「焦がし、壊し、焼き、燃やす。そんな力だ。平和ボケしたこの学園には、最も必要のない力だ」
「あら、そうは思いませんけど」
 ご丁寧にタレと塩両方買ってきたらしいそれを交互に味わいながら、あやめは柔和な笑みを浮かべてフルフェイスのヘルメットを被る男に言った。
「確かに、使い方を間違えれば危険かも知れません……でも、私は、ボルトさんなら間違えないと信じてますから」
「戯れ言を」
「戯れ言でも、そう信じてます」
 沈黙。
 ……。
 今度の沈黙は、長かった。
「余計な世話を」
 呟く彼は、どかりとあやめの隣に座る。
 片方の手を差し出し、寄越せ、と一言。買ってきた焼き鳥を一本ねだった。
 ヘルメットをずらして口だけ露出させ、焼き鳥をくわえる。
 そうして、彼女の頭に、ぽんと手をやった。
「……礼は、言わん……」
「うふふ、分かってます」
 冷たい風が吹く。
 しかし、今度の風は、あやめを貫きはしなかった。
 隣にいる大きな男が風除けとなって、冷たいそれから彼女を守っているからだ。
「さっさと食え、冷める」
「だって、こんなにあるんですもの」
 次はどれを食べようかしら、なんて困ったみたいに笑う彼女を横目で見ながら、ふん、と鼻を鳴らした雷男は。
 ヘルメットの中で。
 少し、笑っていたような気がした。

__________
す、少しずつ歩み寄っていく感じを目指して書かせていただきましたが……これは少しずつの部類に入っているんでしょうか(…)
采さん、リクエスト有り難う御座います!
あやめさんはこんな子じゃないわ! 等御座いましたらお気軽にお申し付けくださいませ。
2014/01/06 13:38
comment(2)

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