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「あー・・・えっと、俺の名前は遊城十代っす・・・。」
「・・・え?」
「趣味とかはーデュエルとか。あと釣りも少々嗜みます。」

いつもはソーセージとかたまごとか割とどうでもいいけどそれなりに食べれるのをひくのに、今日のドローパンは具無しだった。
具無しなんて人生で初めてひいたのでこんなパン本当に存在するんだと落ち込みながら寮に戻ろうとしていた、ただそれだけだったはず。
しかし私の目の前には遊城十代が立ちはだかっていた。
しかも勝手に自己紹介を始めた。

「えっと・・・。知ってるけど。」
「え?マジで?名無しさんも釣りすんの?」
「いやそっちじゃなくて・・・名前とか。普通に。」
「普通に・・・?」
「普通に・・・。」

そりゃ仲の良かったわけではないけど遊城十代の名前と顔くらいこの学園の生徒なら嫌でも知っている。
だってあの遊城十代だ。空に向かって独り言ブツブツ言いながら猫と釣りしてたり授業中お面つけて寝てるくせにデュエルがめちゃくちゃ強い遊城十代だ。
好きでも嫌いでもどうでもよくても、オシリスレッドの遊城十代は有名すぎるほど有名人である。

「え・・・それじゃ話が続かないんだけど。」
「話って何?なんか用?」
「っていうかさっきから名無しさんちょっと怖いんだけど。何?」
「いや・・・逆に何?」

しばし沈黙。そもそもなんで私の名前知ってるんだろう。
こっちはさっさとこのパンを胃袋に納めてやりたいというのに。

「それ何パン?」

遊城くんは私の持っている齧りかけのパンを指差した。

「具無しだよ。」
「えー・・・具無しかあ。」
「そうだよ。なんか文句ある?」
「何?それでイライラしてんの?」
「もう本当になんなの?デュエルでもしたいの?私弱いからやめたほうがいいよ。」
「あーそうか・・・名無しさん具無しひいてイライラしてるんだ・・・ちょっと待ってて。」

そう言って遊城くんは購買の方へ走って行ってしまった。
待てと言われて待つ必要があるのかどうか考えてるうちにパンは乾いてくる。
寮に置いてあるジャムでもつけて食べようと思ってたのに。今日は厄日かもしれない。




らぶ
あんどぼあだむ





一分くらいそこで立ち往生して考えたけど、やっぱりシカトして寮に戻ろう。
だってもともと私は遊城くんグループの人とか苦手なんだよね。
こないだめっちゃ雨が降った日に図書館で騒いでてうざかったし。
しかもなんか体育座りの姿勢のままTシャツに両足畳んでいれてチョコチョコ歩いてたし。しかもそのまま何人かで列をなして歩きにくそうにしながらおにごっこしてたし。しかもTシャツのびてびろびろになってたし。本当に意味がわからない集団だし私は普通のオベリスクブルー女子ですから。

「名無しさ〜ん!」

ちょうど廊下に出ようとした時に後ろから声がかかった。もっと早く決断してれば良かった・・・。

「はい。」

差し出されたのは封の切られていないドローパンだった。

「開けてみて。」

遊城くんが自信ありげにそう言ったので、しぶしぶ受け取る。
たしかにこの人、いつも黄金のタマゴパンひいて騒いでるし相当引きがいいんだろう。
でもなんで私に・・・。

「あ、」

中身はステーキパンだった。黄金のタマゴほどではないけどレア度はかなり高い。
私も今までで一回しか引いたことがない。ステーキがテラテラ光っておいしそうだった。

「おー!ステーキパンじゃん!」

遊城くんもキラキラした眼でステーキパンを称賛した。

「これまさか・・・私に、」
「な!俺って運すごいんだよなー!見ただろ!?」

言うなり、遊城くんは私の手からステーキパンを奪って齧りついた。
私は茫然とした。

「うん。ウマいわやっぱ。」

「?!」

見せつけたかっただけ・・・?!
さ、最悪だ。


「ちょっとどこいくんだよ名無しさん!まだ積もる話があるだろ?!」
「もうほっといて!」





そんなこんなで、遊城くんが目の前でステーキパンを齧ったあの日から、私の彼に対する印象はあまりよろしくないものだった。あまりというかかなりだ。
今まで一言か二言しか会話したことないのに普通の人ならあんなふうなことはしない。
ていうか遊城くんは普通じゃない。それは明らかな事実。きっといろんな見知らぬ生徒にあういうことをしているんだろうと思うと、本当に理解できない。

「名無し・・・気分でも悪いの?」
「うん、今日生理二日目。」
「薬のむ?」
「ありがとー。ちょっとトイレで飲んでくる。」

ジュンコから受け取った生理痛の錠剤をハンカチに隠して、歴史学の授業中の教室をこっそり抜けてトイレへ向かった。
私の座っている机のすぐ近くに遊城十代とその一味が陣取っていたのだが、席を立ったとき遊城くんと目が合い、こないだのことを思い出して気分が悪くなった。というか目が合ったこと自体気のせいということにしておきたい。意地でも。


「あっれー名無しさんもサボリ?奇遇じゃん?」

トイレで用を済ませて蛇口をひねった時だった。遊城くんが、いた。背後に。
鏡越しに気付かなかった。だってここ女子トイレだから。

「は!?」
「え!?何その薬?!名無しさん病気なの?!大丈夫?!」
「いや違うしここ女子トイレだけど頭大丈夫なの?」
「俺そういう性別とかの差別好きじゃないよ。」
「差別とかじゃないんだけど。常識でしょ。」

怒る気力も失せる。声をあげると子宮が収縮して痛いので諦めた。この人には何を言っても意味がないようなので空気として扱うしかないのだろう。多分変態とかじゃなくて異常なだけなんだ。だけっていうかそれも普通に無理だけど。

遊城くんはしきりに何の薬か聞いてきてうざいけど絶対教えたくない。
遊城くんに私が生理だって知られるとか絶対嫌。

「てか名無しさん便所の水で薬飲んでもいいの?それでも女の子なワケ?」
「私水の差別とかしないから。」
「おー?なんか今日ノリノリじゃん。」
「別にノリノリじゃないよ。」
「これからサボりでしょ?」
「サボんない。授業戻るよ。遊城くんは勝手にすれば?」
「つめたい!この上なく冷たいぜ!枕の下より冷たい!ブルーの女子は人情ってものを知らねえのかよ!」

私は無視して廊下をツカツカ進んだ。もちろん、遊城くんもそのあとをついてくる。
このまま教室に入るとまずい。遊城くんと一緒に戻ってきたみたいになる。
冷やかされることはないだろうけどヘンな勘違いをされるとかしかもその相手がこの人とか本当にありえないし無理。

「・・・名無しさんもう教室過ぎちゃったけど?」
「なんでついてくるんですか?」
「いや女の子と授業サボるって俺初めてなんだよ・・・リードしてくんね?」
「別に好きでサボってるんじゃないよ。本当についてこないでほしい。」
「だって俺とサボりたいから教室スルーしたんだろ?そういう素直じゃないところは可愛いけど世間的にはあまり良くないと思う。直そうぜ。」
「・・・。」

なんでそういう思考回路になるのか。でもこのまま永遠と校舎を回っていても遊城くんはついてくるだろう、どこまでも。女子トイレにまで入ってきた男だ。私に逃げ場はない・・・。

このまま遊城くんとサボってるみたいな光景を誰か他の生徒に見られるよりは素直に教室に戻った方がいいかもしれない。被害効率を考えるとその方がまだマシだ。

「あー。カイザーじゃん。」
「十代か。それに・・・。」
「別にただの通りすがりです。」

教室に戻ろうとしたら廊下の角で丸藤亮と遭遇した。この人とも面識はないけど名前だけは知っている。
ものすごくデュエルが強くて優等生だ。話もわかる人に違いない。しかし声をかけられた(?)のにスルーしてしまったらまた遊城くんが騒ぎだすかもしれないし。ここは丁重に誤解を解いてから去るのが賢明だろう。

「あ、これは名無しさん。こんな見かけだけど一応ブルーの女子で、便所の水道水とか飲む系のちょっと変わった子です。ふつつかな生徒ですが俺からもよろしくお願いします。」
「何それ・・・最低。違いますからね。通りかかっただけです。」
「そうか・・・。一応この学園の浄水設備は基準を満たしてはいるが、便所の水を飲むのは体に良いとは言えないぞ。やめたほうがいい。」

やばい、この人も向こう側の人間な気がしてきた。ていうか私がどこのどんな水を飲もうがほっといてほしいんですけど。極めて不愉快だ。丸藤亮の第一印象は最悪になった。

「・・・私遊城くんとは本当に関係ないですから。では授業があるので失礼します。」
「待てよ!ほらーカイザーがデリカシーないこと言うから行っちゃったじゃん。」
「すまない・・・。女子と話す機会があまりないのでな。」
「謝っても許さねーから。あーほらあんなに落ち込んでる。フラフラしてるし。」

離れて行く話声を聞きながら早歩きで廊下を戻った。遊城くんは丸藤亮という獲物を見つけたようで着いてきている気配はなく、少し安堵した。振り向くのも嫌なので確認してはいないけれど。
ていうかデリカシーのないのはお前だよと、心の中で、思いながら・・・・・・・。。。。



私の意識はそこで途絶えた。


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