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目が覚めると体に鈍痛が響いた。一瞬、自分がどこにいるのかわからなかったが、上体を起こして頭を回転させると、そこが保健室のベッドだということにようやく気がついた。

「お、目ー覚めたか?」

シャッ、と仕切りのカーテンが勢いよく引かれた。そこには普通に遊城くんがいた。

「・・・ごめん、何が起きたのかわかんない。」
「いや、廊下歩いてたらいきなりぶっ倒れたからここまで運んできた。」
「えー・・・。鮎川先生は・・・?」
「今日学会で居ないって。でも俺がついてるから大丈夫だ。安心しろ。ちゃんと服も着替えさせたし。」
「え!?」

全然気付かなかったけど、私はいつのまにか下半身だけジャージに着替えさせられている。ベッドの隅には元着ていたオベリスクブルー女子の制服がご丁寧に畳まれていた。

「なんかその中に着てるトックリは脱がせ方が微妙だったからやめといたけど。」
「?!」
「大丈夫だよ。ちゃんとスカート脱がせる前にジャージ履かせたからパンツとか見てない。」
「ほ、本当に?」
「うん。てか名無しさん今日生理なの?」

見られてるじゃん・・・。もうお嫁にいけない・・・。お腹だけじゃなくて頭まで痛くなってきたしこの人と接していると思考が停止しそうになってしまう。
なんて恐ろしい人なんだ。話が通じないどころかその遥かに上を行ってくるなんて。ここまで運んできてくれたことには感謝するけど、そもそもあのまま何事もなく教室へ戻れていればこんなことにはなっていなかったはずなので、その感謝は取り消させていただこうと思う。

「なんか授業中の保健室に二人きりって・・・いやらしいな・・・。」
「全然いやらしくない。もう一人で大丈夫だから授業戻りなよ。」
「今実技の授業中だし先生にもう早退するって言ったから大丈夫。」
「・・・連名で?」
「いいや。俺は個人的に抜けてきた。弱っている名無しさんを見れるチャンスなんてそうそうないしな。」

私はボフン、と音を立ててベッドに倒れこんだ。何を言っても無駄だってことを理解しなければならないのに!

「あのさー・・・。遊城くん実技とか好きなんじゃないの。」
「なんで知ってんの?俺のことそんな見てたの?いきなりそういうの恥ずかしいからやめてくれ!」
「・・・なんとなく思っただけだけど。」
「俺はいつも見てたけど。」
「・・・誰を?」

聞いてはいけないことを聞いたきがして、後悔した。

「・・・名無しさん・・・を。」

遊城くんは目を逸らして指をモジモジし始めた。え、まさかとは思ったけど本当にこのタイミングで?マジなの?

「・・・え・・・何・・・?!なんなの?」
「何が?!」
「名前とか知ってるのとかもよくわかんないんだけど・・・そもそもなんで私に構うの?」
「それは話せば長くなる。でもそんなに聞きたいなら恥ずかしいけど教える。あれは入学したての学内交流の時だった。上級生たちが学校の取り組みについて舞台上で話をしていて、新入生の俺らはドキドキそわそわしながらその話をしずかーに聞いていた。体育座りして。そういう集まりの時に変に目立って上級生に目をつけられたくないからな。そんな緊張感が張り詰める体育館の中・・・代表の上級生がそろそろ話しを終えるか終えないかって時、群れから唐突に立ち上がって体育館を出て行った女子がいたんだよ。」

「それが・・・私?」
「・・・イエス。」

全然覚えてないしそんな集会あったようななかったような・・・とにかく覚えてない。ていうかそれ相当昔のことなのによく覚えてるな。遊城くんって以外に記憶力あるのかな。

「俺はその肝の据わった度胸に魅せられた。普通にハート打ちのめされた。好きなんだよ。俺はお前のそういうずぶとい神経が好きなんだ!!!!」

遊城くんは座っていたパイプ椅子から勢いよく立ち上がって雄たけびを上げた。
絶対それ普通にトイレに行っただけなんだけど、またトイレネタで話がこじれるのが嫌なので黙っておいた。

「・・・ふ、ふうん・・・?」
「で、ずっと話かけようと思ってたんだけどお前地味すぎて全然見つからないし。そんで普通に忘れてたんだけどついこないだたまたま購買で見かけたから。声かけてみた。」
「は?はあ・・・。」
「・・・え?反応薄くね?」
「え・・・き、気持ちは嬉しい・・・かな・・・?あ、ありがとう。」

正直、私は今かなり戸惑っている。だって遊城十代ってあの遊城十代なのに・・・私のこと好きとか・・・あの遊城十代がでしょ?信じたくないし言ってることも若干意味わからないし嘘か本当かすらもわからない。弄ばれてるとしたら真面目に返すのはあまりに恥ずかしい。でも遊城くんの眼は無駄にキラキラと、星空のように輝いていた。

「名無しディズニーランド行ったことある?」
「なんでいきなり呼び捨てになるの?」
「ある?」
「あるよ・・・普通に。何回かだけど。」
「俺ないんだけど。」
「そ、そうなんだー・・・。」

なんか遊城くんは若干イラっとした態度になった。

「・・・じゃーUSJは?」
「ない・・・けどなんで?」
「ハリーポッター好き?」
「まあ・・・普通に?」
「じゃー決まりだな!」

何が決まったのかわかんないけど・・・遊城くんはガシッと私の手をとって心底嬉しそうな笑顔を見せてきたかと思えば、すぐさまその手を離して床でブリッジをし始めた。

「なんでブリッジしてんの?」
「嬉しさをバク天で表現しようと思ったんだけどできないからこれで許してくれ。」

これから起こりうるであろう日々に寒気のような呆れのような、なんとも複雑な感情が湧きでてきた。拒否をできないあたり私も毒され始めているのかもしれない。遊城軍団の一味として扱われたとしてもTシャツに膝を入れておにごっことかは絶対にしないけど。砂浜に魔方陣描いたりドローパンを蟻にあげたりしないけど。決して。


その夜、遊城くんとUSJでホグワーツのコスプレをして記念写真を撮る夢を見た。
毒されている。





end



2014/05/06
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