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 私は毎晩十代君とセックスする夢を見ます。それは決して私の妄想的な意味での夢ではなく、就寝中に脳内が流す映像のことでした。それはいつも、純潔の雲の向こうからふよふよと漂ってきました。そのピンク色のスライムのような形状の物体が私の目の前でバチンと弾けると、そこには十代君が裸で立っているのでした。(そして勃っていた。)

















 二人は極自然に性行為を始めます。現実では処女の私でも、夢の中になると何故か手順を知っていて、十代君の唇を吸いながら乳首を撫で回し、また私もそうされ、まずは蠢く舌で耳の中を犯されると、私と十代君は優しく倒れて、絡み、もつれ合いながら、本能的欲求に耽るのです。彼の甘い睾丸を含んだり、完全に起立し剥き出しとなった若々しい性器に唾を垂らして、指では筋を擦ってから手のひらのくぼみで亀頭を撫で回します。それを幾度か繰り返すと十代君は女のような嬌声を上げて射精するのです。しかし十代君はそれで満足なんてしません。その頃にもなると私の性器も潤います。仰向けになった十代君の上に跨り、また硬くなった十代君の性器を確認してからゆっくり腰を下ろし、彼を己の中に納めるのです。そして良いように腰を振れば、十代君も私も一緒に気持ちが良いので、二人で猫の鳴き声のような声を掛け合いながら絶頂期に達するのです。


私は十代君と出会った時から、毎日、365日、その夢だけを見続けているのです。


 現実での私と十代君は、単なる遊び仲間でした。と言いましても、明日香のおこぼれのようなものでしたので、遊び仲間という表現は少々図々しいかも知れません。そう、正しく言えば、私は十代君の崇拝者でした。十代君の意見は全て正義になり、十代君の過ちは私の過ちになりました。愛?そうでしょうか。少しずれているとは思うのです。だって私なぞが十代君を愛しているだなんて、そんなことは烏滸がましい事のように思います。私は十代君の賛同者なのです。彼の魂の高貴と、深すぎる慈愛と、太陽の正義を振りかざす、まるで裁判官のような、ああ、愛と呼ぶにはあまりにも浅はかだ。


 その日、デュエル哲学の授業から部屋に戻ると同室の明日香の姿がありませんでした。私は哲学の授業の後は決まって、誰もいない教務室の奥の休憩室に鍵をかけ、一通りの自慰をしてから部屋に戻るので何だ今日は珍しいなと思いました。この授業の後、私達ブルーは早上がりの時間割りなので、レッドは体育の最中のはずです。(休憩室からはグラウンドと体育館が見えます。私はそうして自慰します。)つまり明日香は十代君達の所へ行った訳ではないということです。哲学授業の後遅れて部屋に戻ると、決まって明日香は紅茶とお菓子の準備をしています。そして「遅かったわね」と言ってお上品に笑うのです。私は明日香が好きでした。何か嫌な事や楽しい事があるとすぐさま明日香に抱き付きました。明日香はそんな私を優しく慰めてくれます。明日香の豊かな胸に埋もれているととても安心します。怖い話を聞いた日は同じベッドで寝させてもらいます。明日香の淹れる紅茶は特別においしいです。


 明日香が帰らない、行き先もわからない、となるととても退屈になりました。まだ日も暮れていないし、自分ひとりで茶会でもしようと考えもしましたが、私の淹れる紅茶は購買に売っているパックの紅茶と味が何ら変わりなく、せっかく明日香が実家から取り寄せてくれたお茶の葉が台無しになるし、お菓子をつまむにしても、なんだかそういう気分ではなかったのです。ショコラだの、スコーンだの、ケーキだの、マカロンだのといった可愛いお菓子達は、明日香と一緒に楽しまなければ意味を成さないのです。
 私は部屋をぐるぐる周りました。カーテンの調度を確認したり、明日香のベッドシーツと枕のセンスに感心したり、とにかく暇を持て余しました。ふと明日香のベッドに腰を落ち着かせると、あ、今この部屋には私ひとりなのだという実感がふつりふつりと湧いて、そうなると私の下半身は段々熱と潤いを帯びてきました。「なんだ、絶好のチャンスじゃないか」私はそのまま横たわって、指先を両の下着に忍びこませました。私の行為はこなれたもので、すぐにパンツは駄目になり、明日香のシーツに丸い染みを作ってしまいました。その罪悪感とは裏腹に私は興奮し、己の指だけでエクスタシーを達成しました。それはほんの10分程度の出来事だったのではないでしょうか。私が事後のなめらかで陰鬱な余韻に浸っていると、「名無し!どうしてここを閉めているの!」扉を叩く音と共に明日香の声が飛び込んできました。しまった、と後悔した私はシーツの染みをティッシュで吸い取るのですがなかなかとれません。鼻を近づけると厭らしいにおいもします。それは諦めてとにかく下着を替え適当なネグリジェを引っ張り出し被るとすぐさまドアを開きました。
「あっ…名無し、寝てたの?でも鍵をかけるなんてひどいじゃない。私は先日合い鍵を無くしたばかりなのに。」
「ごめんね、本当に。でも明日香がいないんだもの。だからすることなくて寝ちゃった。」
「私のベッドで?」
「!!」
ベッドを直すのをすっかり忘れていた私は冷や汗をふきました。明日香のベッドで自慰に耽った事を後悔しました。
「この大きな染みは何なの?」
私は思考をフル回転させて、ある言い訳をなんとか思いつきました。
「よだれ…なの。」
「また変な体勢で寝たわね。あなた寝相悪いから。」
「ごめんね、すぐ替えるから…。」
「いいわよ。今日はちょっと…運動して疲れたの。すぐシャワーして寝たいから、今夜はあなたのベッドで寝ましょう。」

明日香がそう言って笑いました。私も笑いました。明日香がシャワーをしている間、私はシーツを丸めて洗濯カゴに放り込みました。PDAを取り出して十代君に夜の挨拶の簡単なメールをしました。私はこの時間がたまらなく好きです。私は生きていけるのだと実感できたのです。

『十代君今日は体育お疲れ様です。ゆっくり休んでください。ところでカードの新弾買いました?私はウルトラレアが出たよ。良かったらもらってくれませんか?』

返事はすぐにやってきます。

『名無しメールありがとうきようはたいくでなかつた!ホロほしいですいつあえる』

十代君からのメールは何度も読み直した後に保護フォルダーにいれます。しかし今日は保護にチェックをする前に、思考が止まりました。体育出ていなかった?同じ時間、明日香もいなかった。二人でいたのだろうか?何をしていたのだろうか?考えている間に十代君から再びメールがきました。『じやあ明日放課後浜辺でまつてる』それを保護したところで明日香がシャワー室から上がってきました。
「今日シャワー長かったね。」
「そっそんなことないわ!」
「恋してるの?ねえ、」
「違うってば!」
布団に潜ってもやはり明日香の様子はおかしかった。いつもは香水をかけて寝ないのに、今日は散々迷ってシャネルの5番をひと吹きした。
「私のベッドだよお。」
「シーツをよだれまみれにした罰よ、ふふ。」
「明日香今日はご機嫌だね。何かあったの?」
「うん…まだわからないの。でもきっとそのうち言うわ。一番にね。」

私は不安を抱えながらもシャネルの香りに包まれて眠りました。横では無垢な明日香が優しく横たわっています。私はいつものように夢を見ます。私の全てである神様の夢を見ます。そして太陽と海は番うのです。





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